最終決戦
「フーッハッハ!残念だったな勇者!術式はすでに完成したぞ」
「ふんっ、今更何をしようというんだ魔王!その様でこれ以上何かできると?」
瘴気が満ち、三歩先の視界すらままならない樹海。
その樹海に生い茂る木々よりもはるか高くに聳える尖塔を持つ魔王城の最上階。
そこには魔術で硬質化を施し何千年も朽ちることがない、豪華絢爛の様相を呈する謁見の間があった。
だが現在、その室内は戦闘痕で荒れ果て、その様相は見る影もない。
そして今、二つの人影が交差し、動きを止めた。
片方の人影が膝をつく、だがその者の口元は状況に合わず吊り上がっている。
次第にその口元から堪らず漏れる様な笑い声が響き始めた。
「フハハハハ・・・ぬるい!ぬるいぞ勇者ぁ!!なんだその体たらくは!貴様、それで本気だとでも言う気か?それともこの私すら貴様お得意の綺麗ごとを言い並べ、家臣同様言いくるめてしまおうとでも思っているのではあるまいな?」
「黙れ下郎!おとなしくつかまるんだな。貴様は・・・我が王国の、国民の前で、国王の手によって断罪するっ!!俺がぬるいと言うのならその状態から抵抗して見るといい。貴様の首を持ち帰り、残念ながら殺してしまったと報告することにしよう」
勇者は後方振り返り後方を見据え、顔を覆うバイザー越しに魔王に睨みを効かせる。
だが魔王に抵抗するそぶりはない。
「私を王都へ連れて行こうというのか?・・・ハッ!なめられたものだな、勇者!ならば、ついでに王都のごみ虫どもを殺しつくしてやろうか?それともそれが狙いか?」
「ほざけ、そんな真似は俺がさせない。お前の魔力はここですべて吐き出してもらう。そして俺の仲間がバインドを掛けたらお前に何ができる?そして従わないなら、殺す。もうお前に選択肢などないぞ」
「フンッ!どこに貴様の仲間がいる?貴様は一人ではないか!愛層をつかされたか?」
「お前と同じにするなよ魔王。俺の仲間は今戦いが終わるのを安全な場所で待っている。俺が頼んだんだ。万が一のこともあるからな」
勇者が聖剣を収めると同時に纏っていた鎧が消え隠れていた黒髪があわらになる。薄暗いため容貌は視認できない。
膝をつき動けないでいる魔王を捕えようとを一歩踏み出す。
その瞬間、魔王の体の足元から青白い炎が上がり一気にその全身を包み込んだ。
勇者は瞬時に飛びのき、距離をあける。
「おい魔王!いったい何をしている?」
「フハハハ!言っただろう勇者。術式はすでに完成した・・・と。貴様が私を殺す以外で、私を止めるすべなどなかったのだよ」
言葉の余裕さとは裏腹に魔王の体は青白い炎の中で徐々に崩れ落ちていく。
魔術に疎い勇者は起こっていることが理解できず、迂闊に近づくこともできない。
無駄と思いつつも魔王に問う。
「お前はいったい、何をしようとしている?」
「フハハ!そうだな。選別だ、教えてやろう」
わずかな問答の間にも魔王の体は次々と崩れ落ちていく。
しかし魔王はそんな自身の身体など意に解することなく、言を続ける。
「転生の魔術だよ、勇者。私はこれより千年のときを経て、再びこの世に舞い降りよう!!せいぜい喜べ。この場での勝利は貴様にくれてやる!」
「何かと思えば戯言か魔王?自身の精神、すなわち自分自身の魔力の源に自らが干渉などできるはずがないっ!そんなことこの俺ですら知っているぞ!!」
「フハハハハ!ならば私の体がこのまま朽ちていくのをただ茫然と見ているがいい。この肉体が完全に消えたその時、私の魔術は発現する。王には討伐したとでも伝えておくがいい」
「チッ」
勇者はとっさにのことにあけてしまっていた距離を再び一瞬で詰め、再び聖剣を抜き、振りかぶる。
だが青白い炎の中、もはや胸部より上しか残っていない魔王が手を前面へとかざすと同時に凄まじい黒炎が突然に現れ、突進してきた勇者の体を弾き飛ばした。
そのまま炎と共に壁まで吹っ飛ばされた勇者だがとっさに聖剣で防いだようで大きなダメージがあるようには見えない。
再び魔王との距離が開いてしまった。
「フハハハハ!だからぬるいといっただろう勇者、たしかに奥の手は取っておくもの。だがまさか互いに見せる間もなくこの戦いが終わるとは思ってもいなかったようだな。かつてない規模の術式を編みながらの戦闘だった。が、この私に膝を付かせたその技量、最後に褒めてやろう」
「くっ・・・にがさないっ!!」
勇者が放つは聖剣の力を借りた勇者最速の刺突の剣技。
魔王の黒炎ですら焦がす事しか出来なかった床石がその踏込の衝撃で砕ける。
だが既に魔王の体は崩れ去り、青い炎の中には何も残っていない。
しかし勇者の剣は魔を切り払う聖剣。
わずかな望みに掛け、構わずその青い炎を叩ききった。
空間を埋め尽くしていた押しつぶされる様な魔王の気配は今は感じられない。
広い謁見の間は光源を失い、暗闇と静寂に包まれる。
「魔王は死んだのか?だがこれは・・・」
やがて暗闇の中で1人の足音だけが響き。
やがて消えた。