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転校生

「今日、隣のクラスに転校生が来たんだってよ」

「へえ……珍しいな」

 『矢部恭平』として高校へ通い始めてから1ヶ月。

 そろそろクラスにも馴染んできたし、友達と呼べそうな奴も何人か出来た。

「この高校に転校生が来たのも、お前で数年ぶりって話だったのにな。それからまだ1ヶ月くらいしか経ってねえのに、続けて転校生が来るなんてホント珍しいよ」

 俺の机の前で楽し気に転校生の話をしているのは、そのうちの1人で名を田村康太という。

 どんぐり目でそばかすのある顔は、とにかく愛嬌があって人から好かれている。その上性格も人畜無害というか、とくかく人が良いので、俺以外にも友達は多そうだ。

 なのに、どうやら俺のことをやたら気に入ってくれたらしく、まだ知り合って1ヶ月しか経たないと言うのに『自称・恭平の親友』を公言して憚らない。いや、まあ、別に良いんだけどな。俺としても、こいつと話したり、遊びに行ったりすんの、特に嫌な気はしないし。

「…で、どうだったんだ?見に行ったんだろ?」

「ハハッ、バレたか。まあ、ついさっきの休みに行って来たとこなんだけどな。転校生の子、すっげえ可愛い女の子だったぜ!!恭平も後で見に行ってみろよ!?」

「気が向いたらな」

 その転校生がよほど可愛かったのか、康太は軽い興奮状態で、俺にも見てこい見てこいと勧めてきた。けど、別にそれほど興味もないし、なにより他のクラスのことだしと、俺は彼からの猛烈押しを遠慮してしまう。

「んだよ~付き合い悪いぞ、恭平~」

「動物園の珍獣でもあるまいし…見物になんか行ったら、その子も気分悪いだろ」

 どうしても見に行ってほしそうな康太に、そう言って、一般常識的な意見を盾にしてみたら、彼はハッとした様子で『それもそうだな』と納得してくれた。よしよし。


 まあ、なにかの縁があれば、そのうち会うこともあるだろ。


 俺にとって最初、話題の美少女転校生は、その程度の存在でしかなかったのだ。


 その日の放課後、廊下を歩く彼女と、すれ違うまでは。


 『やっと見つけた……』


 放課後、特に部活などやっていなかった俺は、同じく帰宅部の康太と一緒に廊下を歩いていた。

「中央商店街のゲーセンにさ、新しいゲーム入ったらしいんだけど、恭平も行かねえ?」

「あ~あの、シューティングか??俺、昨日行ってみたけど、人一杯で出来なかったぞ」

「そーなのか??うーん…でもいいや、ちょっと見に行くだけ行ってみよ」

 中央商店街は俺の家(仮の、だけど)…というか喫茶店兼住居のある場所だから、中心街の外れに家がある康太よりは気軽に行ける。おかげで、大人気ゲームの情報をいち早く知ることが出来たのだが──正直、俺はソコまでゲームが好きな訳でもない訳で。


 ならどうして、さっそくゲームセンターへ行っていたのか?と言うと、新しい物好きな弟たちに強請られて付き添ったからだった。


「俺、このゲーム入るの、楽しみにしてたんだ~!」

 空とカオル、2人の弟(これまた仮の、だが)を伴って訪れたゲームセンターは、驚くほどの人ごみで溢れかえっていた。正直『こんな大勢の人間、いったい、どこから出てきたんだ??』と真面目に頭を傾げたくなる勢いだったのだけれど。

「画面も見ずに帰れるもんか!!」

「空ったら諦め悪いな~付き合うけど」

 ──と、それでも諦めきれずに、空とカオルはその小さな体を利用して、混みあう人々の隙間を縫って潜入し、お目当てのゲーム筐体の前まで行って来たようだ。…根性!

 だがしかし、やっとたどり着いたそこで、最後尾は『2時間待ちだ』と言われたらしく、大人しくすごすごと戻ってきてしまった。


 可哀相だけど、まあ、仕方ないよな。

 なにせ、2時間も待っていたら、夕飯の時間に遅れてしまうし。


「無念だが、飯の時間に遅れる訳にはいかねえ」

「遅れたら乾兄、怖いもんねえ…」

「………ははっ、確かにな」

 食事の時間に遅れた場合の、凄みある乾一さんの笑顔を思い出したら、俺でも怖くて仕方ないもんな。年少2人が恐れるのも無理はなかった。

 そんな訳で、結局、昨日は諦めざるを得なかったのだけれど、空はリベンジを誓っていたから、また近々、ゲームセンターを訪れる羽目になるんだろう。俺も興味なくもないから、別に良いんだけど。


「あ、おい、恭平ッ、見ろ見ろ。例の転校生だぜ」

「………え?」

 昨日のことを思い出してぼんやりしていたら、突然、康太にひそひそ声で話しかけられ我に返った。

「ああ……今朝言ってた…」

 康太の視線がさす方を見てみると、俺らの進行方向に女の子が1人で立っていた。誰かを待ってでもいるのだろうか?落ち着かなさげにキョロキョロと、その子の視線は辺りをさまよっている。

「可愛いよな~…恭平もそう思うだろ??」

「……まあ、そうだな…?」

 本人に聞こえぬよう小さな声で話しつつ近付いていくと、俺らの存在に気付いた彼女がこちらに視線を向けてきた。つぶらな黒い瞳に見詰められて、俺は訳もなくドキッとする。


 こうして近くから見てみると、より確かに彼女の可愛らしさが解った。なんというか、ウサギみたいな印象だ。その小柄な身長とスレンダーな体付きが、彼女をより幼く見せているのもあるだろう。


 だけどなんだろう??


 妙に胸がドキドキする。


 恋とか一目惚れとか、そんなんじゃなくて。


 あえて言うならそれは──


 いつもの、あの夢の中にいるような


 訳の分からない──恐怖


『やっと見つけた』

「──ッ!?」

 おかしな感覚に怯えながら、彼女とすれ違った瞬間、


 可愛らしい少女が、邪悪な笑みを浮かべた気がした。

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