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日常の風景

 夢。夢を見た。また、あの白い手の女の夢。

 夢の中の俺は恐怖に駆られ、女の手を振り切って逃げ出す。そこまでは、あの夢と同じ。

 だが、今度の夢は、その先に違う風景が広がって見えた。

 唐突に出現する荒野。どこまでも続く砂の大地。緑の森。見覚えのある顔、青空に浮かぶ青い星。そして、地平線から立ち上る、黒い煙のような何か。

 それらは、俺の知らない記憶だった。見たことの無い情景、人々、風景のはずだった。

けれど、俺は知っていた。そうだ。「俺」は知っている。


 これは、夢なんかじゃない。

そう、これは確かに、俺の知る、俺自身の「記憶」なのだ。


 「兄貴……!!!」

 天井が見えた。と同時に、空の顔が俺の視界を塞ぐ。ホッとしたような、嬉しそうな、空の無邪気な顔。それが押し退けられると、今度は、険しい表情の乾一さんの顔が覗き込んできた。

「大丈夫ですか!?意識ははっきりしてます?どこか、痛むところは…」

「…えっ、え??…あの…」

 矢継ぎ早に質問され、意味が解らず目を瞬かせる。なんで、乾一さんは、そんなに焦っているんだ??

困惑しながら視線を泳がせた俺は、その時になってようやく、自分が居間のソファに寝かせられていて、周囲を兄妹全員に取り囲まれている事に気が付いた。

「えっと…俺、また何か…?」

 恐る恐る起き上がろうとしたら、乾一さんの手でソファに押し戻される。この人、女みたいな優しげな顔してるわりに力あるんだな??変なことに感心していたら、今度は、邦彦さんに優しく問い掛けられた。

「散歩中に倒れたんでしょ??どこか具合が悪いのでは?」

「………へ?」

 倒れた?俺が?……覚えていない。

俺の反応に驚いてか、カオルと空が二人して顔を見合わせる。

「覚えてないの?」

「………っと、その」

 空とカオルと一緒に散歩へ行った事は覚えている。この目で見た街の様子も覚えている。だけど、空から聞いた、倒れる前後の事は、まったくと言っていいほど記憶になかった。

「???……いや、俺が覚えてるのは、コロッケ食べた辺りまでで……ああ、そう言えば」

 代わりに記憶していたのは、なんだかファンタジーな夢の事。見覚えのない、でも、ハッキリ覚えている光景の数々。それらは、漫画とかアニメとかで見るような…いや、超絶リアルだったから、どちらかというと実写空想映画みたいな感じと言った方が良いか?そんな感じの風景の夢。

「……っていう、夢を見てたんだけど…」

 簡単に夢の内容を説明したが、兄弟達は皆、キョトンとした顔で俺を見るばかりで、これといって心当たりはなさそうだった。まあ、俺の夢の話なんだから、当たり前ったら、当たり前なんだけど。

「…………」

 でも、俺は夢の中で、あれを「俺自身の記憶」と確信していた。だが、やっぱり単なる夢だったのか。ちょっと恥ずかしくなりながら、頭を掻いていたら、また、ふと、ひとつ思い出してしまった。

 そう言えば、あの夢の中には、兄弟達の姿もあったような、無かったような??…気のせいか?

「とにかく、なんとも無いようで良かった」

「てめえら心配し過ぎだろ…」

 ほっと胸をなでおろす邦彦さんの後ろで、目つきの怖い真也さんが、呆れた口調でぼやいていた。俺は、何となく悪い気がしてきて、心配かけてすみませんと頭を下げて謝る。

「良いですから、恭平君はもう少し休んでいてください。あと、空くん、カオルくん、もうすぐ夕飯ですから、これ以上のつまみ食いは許しませんよ?」

「「はーい」」

 悪びれない表情で空とカオルが返事して、兄弟達はバラバラと解散していった。

 俺は、言われた通りソファにもう一度横になりながら、もうそんな時間なんだ、と、ぼんやり考える。居間の時計を見ると、針はもうすぐ6時を指すところだった。散歩に出たのが昼過ぎだったから、4時間くらいは昏倒していた事になる。

 なぜ、倒れたのか。なぜ、その事を覚えていないのか。

 考えたところで原因が解る訳ではないが、頭の中はそんな疑問でいっぱいだった。しかし、目を閉じた瞬間、俺は、猛烈な睡魔に襲いかかられ、抵抗する間もなく暗闇に引きずり込まれてしまう。

 とにかく、今日は、なんだか異様に疲れた。

 そう考えたのを最後に、俺は夢も見ない眠りに落ちた。

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