表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

傷み

「康太が………!?」

 数日後、大変なニュースが俺の元に届いた。

「嘘だろ……」

「俺も信じられねえよ…なんで…ッ」

 登校した俺の元にそのニュースを届けた友人、中田太一は目に涙を滲ませて歯を食いしばった。

 彼は康太にとって幼稚園以来の幼馴染で。俺とは康太を介して友人になったクラスメイトの一人だった。ちょっと太めだがこれまた人の良い男で、俺と康太とは三人で良くつるむような仲になっていた。

 ──それ、なのに


「康太が……Zに……」


 まだ信じられなくて、俺は呆然とする。

 昨日まであんなに、元気だったのに。

『また明日な!!』

 そう言って別れたばかりだったのに。


「容体……容体…は…」

「まだ生きてる。でも、重体だって…康太の母さんから…」

 あまりにもショックがデカすぎて、俺は、今にも吐いてしまいそうだった。そんな俺の顔色に気付いて、太一が背中をさすってくれる。

「……………ッ」

 自分も真っ青な顔で震えてるのに、こんな時でも他人を気遣えるなんて、こいつも本当に優しい奴だな。

「ごめん。太一の方がずっとつらいのに…」

「そんな死にそうな顔されたら、心配すんの当たり前だろ」

 互いに顔を見合わせながら、俺も太一も祈るしかなかった。


 前にも言ったがZは治療法もない不治の病だ。

 未だに原因も不明で。

 致死率はほぼ100%なのだ。


 つまり康太は───


「見舞いにも行けないなんて…あんまりだよな…」

「……………」

 Zは感染症も疑われる病なので、罹患後は隔離病棟に隔離される。

 血の繋がった家族ですら見舞いに行けず、ただ、死を待つだけの入院生活を余儀なくされるのだ。


 あんな心の優しい良い奴が、誰に看取られることもなく、一人で逝ってしまうかもしれない。


 そう考えると胸が切り裂かれるみたいに痛かった。

 幼馴染の太一もきっと同じことを考えてるんだろう。

 胸を押さえて苦しそうに顔を歪めていた。


 どうか神様、彼を連れて行かないでくれ


 俺には何も出来なかった。いや、俺だけじゃない。誰にも何も出来なかった。


 無力な俺に出来るのはただ──存在も定かでない、信じてもいない『神』という存在に、届くとも思えない祈りを捧げるだけだったのだ。



「そうなんですね……」

 俺の様子がおかしいことに気付いたのだろう。学校から帰るなり目敏い乾一さんから『何があったか』と問い詰められた。別に隠すことでもないので、俺は、友人の身に起きた悲劇について話をした。

 康太の話をする間、俺は、声が震えるのを止められなかった。

 やばい。泣きそう。

 そんな状態を知られまいと、必死にがまんして話し終える。すると、乾一さんや、たまたま家の方へ戻っていた邦彦さんに、気遣わし気な視線で見詰められて慰められた。

「それは辛かったですね……」

「……………俺なんかより…」

 新参者の俺なんかより、もっとつらい人はたくさんいる。

 そう言いたかったが、言葉が詰まって、最後まで言えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ