傷み
「康太が………!?」
数日後、大変なニュースが俺の元に届いた。
「嘘だろ……」
「俺も信じられねえよ…なんで…ッ」
登校した俺の元にそのニュースを届けた友人、中田太一は目に涙を滲ませて歯を食いしばった。
彼は康太にとって幼稚園以来の幼馴染で。俺とは康太を介して友人になったクラスメイトの一人だった。ちょっと太めだがこれまた人の良い男で、俺と康太とは三人で良くつるむような仲になっていた。
──それ、なのに
「康太が……Zに……」
まだ信じられなくて、俺は呆然とする。
昨日まであんなに、元気だったのに。
『また明日な!!』
そう言って別れたばかりだったのに。
「容体……容体…は…」
「まだ生きてる。でも、重体だって…康太の母さんから…」
あまりにもショックがデカすぎて、俺は、今にも吐いてしまいそうだった。そんな俺の顔色に気付いて、太一が背中をさすってくれる。
「……………ッ」
自分も真っ青な顔で震えてるのに、こんな時でも他人を気遣えるなんて、こいつも本当に優しい奴だな。
「ごめん。太一の方がずっとつらいのに…」
「そんな死にそうな顔されたら、心配すんの当たり前だろ」
互いに顔を見合わせながら、俺も太一も祈るしかなかった。
前にも言ったがZは治療法もない不治の病だ。
未だに原因も不明で。
致死率はほぼ100%なのだ。
つまり康太は───
「見舞いにも行けないなんて…あんまりだよな…」
「……………」
Zは感染症も疑われる病なので、罹患後は隔離病棟に隔離される。
血の繋がった家族ですら見舞いに行けず、ただ、死を待つだけの入院生活を余儀なくされるのだ。
あんな心の優しい良い奴が、誰に看取られることもなく、一人で逝ってしまうかもしれない。
そう考えると胸が切り裂かれるみたいに痛かった。
幼馴染の太一もきっと同じことを考えてるんだろう。
胸を押さえて苦しそうに顔を歪めていた。
どうか神様、彼を連れて行かないでくれ
俺には何も出来なかった。いや、俺だけじゃない。誰にも何も出来なかった。
無力な俺に出来るのはただ──存在も定かでない、信じてもいない『神』という存在に、届くとも思えない祈りを捧げるだけだったのだ。
「そうなんですね……」
俺の様子がおかしいことに気付いたのだろう。学校から帰るなり目敏い乾一さんから『何があったか』と問い詰められた。別に隠すことでもないので、俺は、友人の身に起きた悲劇について話をした。
康太の話をする間、俺は、声が震えるのを止められなかった。
やばい。泣きそう。
そんな状態を知られまいと、必死にがまんして話し終える。すると、乾一さんや、たまたま家の方へ戻っていた邦彦さんに、気遣わし気な視線で見詰められて慰められた。
「それは辛かったですね……」
「……………俺なんかより…」
新参者の俺なんかより、もっとつらい人はたくさんいる。
そう言いたかったが、言葉が詰まって、最後まで言えなかった。





