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事件の予兆

「最近、近所でZにかかる人が多発しているらしい」

「夜間の不審者目撃情報も多いみたいだから、夜の外出は控えるように」

 久しぶりの悪夢に飛び起きた朝から数日後。

 転校生の女と顔を合わせないよう、気を使いまくりながら学校から帰宅すると、真剣な表情の邦彦さんと乾一さんから俺はそんな注意喚起を受けた。

「Zって…あの……?」

 100年前の大災害時に多発し、以降はかなり減ったという謎の病『デッドエンド』──当時の世界人口の3分の1を失わせた、未だ原因も治療法も解らない恐ろしい病が、ここ数日この近辺で拡散し始めているというのだ。

 そう言われてみると数日前、空が『唐揚げ屋のおばちゃんが居なくなった』などとしょんぼりしていた。俺も頂いて食べた揚げたてのコロッケを思い出し、仕事をやめてしまったのかな?と残念に思っていたのだが、ひょっとしてあれも?と嫌な想像が脳裏に浮かんだ。

「…………ッ」

 先に帰ってきてテーブルでおやつを食べていた空を見ると、彼は俺の視線の意味に気付いたのか神妙な顔でコクリと頷いた。俺はその事実に少なからずショックを覚えてしまう。

 まだそんなに長い付き合いという訳でもなかったが、やはり、会話も交わしたことのある知人が居なくなるのは、そうでない人が居なくなるよりも確実に心にかかる衝撃が大きかった。

 俺が悟ったことを知ると、空は悲しそうに顔を伏せる。


 俺なんかより親しくしてた空の方が、よほど寂しくてつらかっただろうに。


 ふと、そんな風に思っている自分に気付いて、俺はちょっと自分自身の心境の変化に驚きもした。

 そう、いつの間にか俺は、空や他の兄弟達のことを、彼らが傷付けば共感する『自分の大切な身内』として認識していたのである。

「ええと…流行り病はともかくとして…あの、不審者って?」

 なんとなく気恥ずかしくなりながら、俺は話題をもう一つの方へ切り替えた。どれだけ気を付けても原因不明の病は避けられそうにないが、正体の分かる不審者なら避けようがあるからだ。

 学校へ毎日登校する身としては、この情報はきちんと把握しておきたい。でないと、万一、下の弟妹に何かあった時、守ってやれないからだ。素直にそう考えて邦彦さんへ確認すると、彼はぞっとする不審者の情報を教えてくれた。

「……若い女、らしいのですが…真っ白な服を着て、夜な夜な誰かを探して歩いているとか」

「……………ッッ!?」

 瞬間、背中に悪寒が走る。手足の先が冷える感覚がして、顔からも血の気が引くのが解った。そんな俺の脳裏には、まさかとは思いつつも、自然と転校生の顔が浮かんでいた。

 いや、まて。落ち着け。アレはただの夢だし、そんなはずは『ない』──と否定したいのに、どうしても一旦頭に浮かんだ考えを消せずにいると。

「恭平くん…」

 心配そうな声で乾一さんが俺へ呼びかけ、その声にハッとして周りを見渡すと、『兄弟』達が全員、俺に気遣う視線を向けていることに気が付いた。


 あの夢のことは以前、彼らにも話していた。

 だけどしょせん、他愛もない夢の話だ。

 気に掛けるどころか、忘れていたっておかしくはない。


 それなのに『兄弟』達は、みんな、そのことを覚えていてくれて。そして──俺のことを、心から心配してくれているのだ。そんな彼らの優しい気持ちが、言葉もないのにハッキリと伝わってきた。

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