オレサマが金斗雲と如意棒をGETした件について
「そこの坊や」
道端で辻占いをやっていたババアが通りがかりのオレサマを呼び止めたのは、ある晴れた日の午後のことだった。
「なんか用か? 九日十日」
すでに死滅した切り返しでこれに応えたオレサマにババアは金のわっかを渡して告げた。
「これをあげるよ。アンタにとっては運命の品さね。アタシにはわかる。アンタの運命はこのわっかが変えてくれるはずだよ」
わっか。それは、文字どおり「西遊記」の孫悟空が頭に被ってるみたいな奴だった。オレサマはババアに尋ねた。
「なんだいこりゃ?」
ババアは答えた。
「そいつを頭に被って『いちとーにーとーさんとーしーとー、あ、よびますよ。あ、よびますよ』と呪文を唱えたら、金斗雲と如意棒が現れてアンタを真の男に導いてくれるはずだよ」
ふ~ん、金斗雲と如意棒ねぇ。
うさんくさいことこの上ない発言だったが、オレサマは「もらえるものはもらっておけ」とばかりにそいつを家に持って帰った。
自慢じゃないが、このオレサマは貧乏だ。もちろんイケメンでもないので、生活には女っ気の欠片もない。
だが働いたら負けだと思っているし、何より三次元の女なんぞに興味はない。奴らは年を取るからな。
親の稼ぎでささやかな贅沢をしながら、ディスプレイの中にあるオレサマの真実に生きるのがしあわせなんだと信じている。この現実世界のしあわせなんかはクソ食らえだ! リア充どもよ、爆発するがいい!
そんなわけだから、オレサマの運命を変えてくれるわっかなぞ、実在したところで巨大なお世話に違いなかったのであるが、この時、妙な好奇心に駆られたオレサマはババアの言うとおりにやってみた。
まあ、何かの弾みで本当に金斗雲やら如意棒やらが現れてオレサマのものになったなら、それはそれで面白いことになりそうだったからだ。
金斗雲に乗って空を飛び、如意棒を振り回してオレサマを莫迦にしていた一般人どもを粉砕する。
そうすれば、世の女どもも「ステキっ! 抱いてっ!」となること疑いない。
ウヘヘ、と自分で言っても気持ち悪い笑顔を浮かべて呪文を唱える。
「いちとーにーとーさんとーしーとー、あ、よびますよ。あ、よびますよ」
突如として部屋中に光が満ちあふれ、オレサマの目を眩ます。
「うわぁぁぁ」
次の瞬間、オレサマの視界に出現したものは、身の丈二メートルはありそうな「怪しい中国人」の二人組だった。
吊り上がった鋭い両目に引き締まったへの字口。そして鼻の下には見事と言うほかない鯰髭を生やしている。もちろん、着ている衣装は歴史物でよく見る中国服だ。
男のひとりが轟々と名乗った。
「我が名は金 斗雲!」
続けてもうひとりも名乗った。
「我が名は如 意棒!」
男たちは声を合わせてオレサマに告げる。
「我ら両名、呼びかけに応じて参上仕った! これよりそなたを『兄者』と認め、そなたが真の漢となるを手助けせんと誓うものぞ!」
いきなりオレサマの部屋が桃の花咲き誇る園庭となった。
なぜだ。なぜオレサマの手の中に杯があるんだ。
男たちは大杯を掲げながら大音量で宣う。
「我ら三人天に誓う! たとえ産まれしとき、産まれしところは違えども、眠るときは同じとき、同じ床を選ばん!」
待てコラ! なんでこのオレサマがおまえらみたいな怪しい中国人と床を同じくせにゃあならんのだ!
しかし、奴らにそんな抗議はいっさい通用しなかった。
奴らは迫る。
「兄者。真の男となるためには、欠かせぬ儀式が必要じゃ!」
斗雲が言った。
「左様、それをいまより兄者の身体に施し申す!」
意棒が続く。
次の瞬間、奴らは一気にその衣服を脱ぎ捨てた。恐るべき早業だ!
って待て。おまえら、その格好で何をするつもりだ?
なぜオレサマににじり寄る?
お、おい。両腕を掴むのを止めろ!
なぜ背後に回る!
ま、待て! 目の前に現れたあの大木はなんだ?
はっ、まさかあれが「伝説の木」か!
「卒業式の日にその下で告白されて結ばれたカップルは永遠にしあわせになれる」という言い伝えがある、あの「伝説の木」か!
待てっ! 早まるな! オレサマは、オレサマは、おまえらみたいなのの告白を受け入れるつもりなんざない! 絶対にない!
や、やめろ! ズボンに手を掛けるな! この変態め! オレサマのケツに何をするつもりなんだ!
やめろ、やめてくれ!
頼むからやめてくれ!
あ、あ、あ……あっー!!!!!
ババアの言葉は正しかった。
この瞬間、確かにオレサマの運命は変わった。変わってしまった。
ああ、グッバイ・マイ人生……ガクッ。
(ぬぴょっ)