01 主人公 吉田香菜の生活
NTRとは「寝取られ」の事である。
私には、幼馴染がいる。
私の初体験は全部、はるちゃんのものだった。
恋もキスも初体験も
そして、この失恋の痛みも。
++++高校二年の新学期前。
春休みに、約束もしていないのに、はるちゃんの家に突撃した。
はるちゃんの家は私の家のすぐ隣。
マンションなので、徒歩10秒?
鍵の隠し場所を知っていた。
勝手に使ったのが悪かったとは思う。
今日はおばさんが仕事で遅くなると言っていたので、はるちゃんに晩御飯を作ってあげたかった。
部活でいないと言っていたのに、リビングに入って感じる人の気配。
怖いけど、好奇心から、台所にあった“麺棒”を片手に恐る恐る声のする方へ。
声は、はるちゃんの部屋からして「ああ、なんだ。はるちゃん…家にいたんだ」と思って…
思いっきりドアを開けたら
ベットで絡む裸の男女。
一人は、はるちゃん。
もう一人は……確か、学年で一番美人の白鳥さん?
「………」
「………」
「………」
固まること、きっと数秒。
でも、私には何十分にも感じられ、頭の中のコンピューターがショートしたっぽい。
え? 何? あれ? 夢? 昨日観たドラマ? じゃあ、なんではるちゃんが出演? いや え??
混乱。混乱。混乱。
はるちゃんは、あちゃーって顔で。
私の混乱を破ったのは、白鳥さんで…
彼女の裸は、綺麗で。胸なんかも私よりもあって、腰もくびれていて、ひざ下からの脚のラインとかも綺麗で、混乱する頭でもつい見とれてしまった。
私のガン見も、ものともせずに、はるちゃんのシャツを羽織って、長い艶のある髪を、こうパサッって シャンプーのCMみたいに手でシャツから出して…私に向き合い、こう言った。
「こういう事だから。遥斗と別れて?」
そういう声までもが綺麗で。
容姿も何もかも普通で、高校生になってからはニキビに悩まされている、私には勝てるところなんて無くて。
彼氏(だった?)のはるちゃんに、助けを求めるように見つめてみたら
「だって、お前…なんか……ダメじゃん」
なんか、付き合う前は可愛かったのに、どんどんブスになっているとか言っているけど、そんなの知らないし。
確かに、私は、はるちゃんと付き合うようになってから、ニキビが出来て肌あれに悩んだり、ちょっとした事で先生に怒られたり、いわれもない虐めもちょっと受けたりして、幸運に見放されていた。容姿も両親は美形なのに、醜いアヒルの子みたいで、入学式に来ていた私の両親を覚えている子たちから『もらわれっ子』とか噂されていたのも知っている。
それに比べてはるちゃんは、高校生になって急に格好良くなった。 背も高くなって、サッカー部のエースで、彼女の私がいるのに、すごくモテた。
白鳥さんから口角が少し上がっただけの余裕の笑みを向けられて。恥ずかしくて、苛立って、私は、はるちゃんの部屋を飛び出す。
「あ、お前んち、新学期にはいる前に引っ越すだろ? お隣でもなくなったし。もう幼馴染から解放されて肩の荷がおりたわ」
背中に投げつけられる、はるちゃんの言葉も何もかも私にどうしろと?
部屋にこもって、ずっと泣いた。 春休み中ずっと泣いた。
気付いたら、引越しも終わっていて。
新しい部屋でもまた泣いた。
私とはるちゃんの出会いは、はるちゃんの家族がお隣に引越しをしてきてから始まった。
私のお父さんと、はるちゃんのお父さんが同じ会社だというのは聞いていて、引越しの挨拶に来たはるちゃんの家族に対して、両親が苦い顔をしていたのは覚えている。
はるちゃんのお母さんから「遥斗と遊んであげてね」と言われて、その頃の私は、はるちゃんよりも背が高かったので、お姉さん気分で、はるちゃんに付き纏っていた。
だから、だんだんはるちゃんが私を鬱陶しく思ったのかな? 遊んでもらえなくなった日が続いて、私はとても悲しかった。 でも、数日たって、すぐにまた遊べるようになった時は、とても喜んだのを覚えている。
その当時のはるちゃんは、世間から見て“格好良い”というわけでもないけれど、一緒にいて楽しい。高校生になる前に告白された時にはびっくりしたけれど、これからは“幼馴染”でもあり“彼氏”になったはるちゃんを見てドキドキした。
――なのに。
―――私の事、嫌いになったの?
++++高校二年 新学期
「香菜、大丈夫?」
私を心配してくれるのは、一年の時も同じクラスだった服部綾女 通称 あやちゃん。
新学期に入って、学年を賑わかせていたのが、学年一の美人 白鳥百合とサッカー部のエースで私の元彼氏で幼馴染だった 内田遥斗のカップルだった。
一応、1年生の時は私 吉田香菜と付き合っていたんですけどね? 皆さん、お忘れでしょうが!
二人は、いちゃいちゃ。
どこへ行くにも、ベタベタ。
そして私の心は、ズタズタ。
(私と付き合っていた時は、そんなにベタベタしていなかったのに……はるちゃん、嬉しそう)
クラスも離れ、家も隣でなくなった私は“はるちゃん”と完全に接点が無くなった。
一生分の涙を流した頃には、私はところてんの様に、ダルーンとした無気力な日々を送るようになっていて……
机に伏せて、顔をゴロンゴロンしていると、あやちゃんが何かに気付いた。
「あれ? 香菜?」
「にゃあにーー?」
「ほら、ここ。 ニキビなくなったね!」
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「あ、本当だ」
休み時間。
女子トイレの鏡でチェック中。
ずっと悩まされていた“ニキビ”が無くなっている。
肌もなんだか、プルンプルンしていて、調子がいいような。
涙で体の悪い成分が流れたのかな?
――なんて事しか、その時は考えていなかった。
最近、私の周りが変化した…気がする。
職員室にプリントを持って行っただけで、いつも私を目の敵にしていた先生に褒められる。「吉田がやると、集まるのも早い」褒められた瞬間、何を言われたのか判らずにフリーズしたら、頭をぐちゃぐちゃに撫でられて、なんだか嬉しかった。
ある日の事。
教壇の下で、綺麗なバレッタを見つけた。
それは、クラスの中心である女子の物だったようで、
「吉田さん! ありがとう!」って、すごく感謝されて、今では名前を呼び合う関係に。
部活(美術部)にて、コンクールに出す絵を任されたり。
これを機会に先輩ともよく話せるようになって、とても可愛がってくれるようになった。
顔中にあったニキビやニキビ跡も綺麗にきえて、無駄についていたお肉もなくなって、万年だるかった身体も軽い。
「前に、泊まりに行った時に香菜の両親にあったけど、凄い美形だよねー」
「本当の、正真正銘の血が繋がった親子だからね! もらわれっ子じゃないから!」
「いやいやいや。そっくりだよ?」
「え?」
近所にお母さんと買い物に出掛けた時に“姉妹”と間違われるくらいになって……
(っていうか、お母さん! どんだけ若作りなのよ!)
なんだか、周りの空気が温かい。
失恋で、心が凍って痛かったけれど、こうして周りの優しさに囲まれて
私はどんどん元気になっていった。
あの日から1年たって、私は幼馴染である“はるちゃん”を忘れることができた。
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++++高校三年生 新学期
「香菜、聞いた?」
「なに?」
「白鳥さん、出来ちゃったらしいよ?」
「へ?」
学年一、美人と言われていた白鳥さんも、その人気に影を落とすようになった。
彼女のあの艷やかな髪もパサつき、シミ一つない肌も吹き出物が目立つようになった。
そして、今回の大事件。
――妊娠である。
…正直、ショックを受けるかと思ったんだけど……もう、何も感じない自分に“はるちゃん”が完全に過去の人になった事に気付く。
「…はるちゃん、どうするのかな?」
「白鳥さんは、退学らしいよ? 内田も最近、不登校だし。天罰じゃない? のたうちまわって死ねばいい。 あ、それじゃお腹の子がかわいそうか。 じゃあ、一生悶えろ。禿げてろ。下の毛も禿げて、そして、もげろ」
「あやちゃん、過激」
あやちゃんが、はるちゃんの事を悪く言うのも 私の為って判っているけれど、とても過激発言が多いので、なんだか別の意味でドキドキしてしまう。 「あやちゃん、いいんだよ! 悪役にならなくて。 私、立ち直っているから!」 って言ったら抱きつかれた。 なぜ?
あやちゃんの話によると、最近のはるちゃんは…なんだか大変らしい。
まずは、サッカー部のエースの座から降ろされた。
大事な試合でオウンゴールをやらかしたらしい。
そして、やけになってタバコを吸っているところを先生に見つかり、サッカー部は大会に出場を取り消され、無期の部活動禁止になった。
以前は、モテモテだった容姿も、なぜか今は普通の男子以下にしか見えないらしく、さっぱりモテないみたいで……。
白鳥さんとも、学校で派手な喧嘩をしている所を何度も目撃されて、評判を落としきっていたようだ。
「香菜の元幼馴染のピークは、香菜と付き合っていた時だよね。香菜としては、別れて正解だけど」
「…そうかな?」
「あいつが、調子に乗り出したのも 確か…高1の二学期だったし……ねぇ?」
「………」
意味ありげに、私を覗き込む…あやちゃん。
その、高1の夏休み……えっと…………色々思い出して、顔が自然と赤くなってしまった。
「とにかく!! もう香菜は、あいつに変な情とか出さずに。幸せになりなさい」
「なに? あやちゃん、お母さんみたい」
「私は、香菜に感謝しているって事」
「意味わかんないよー」
そういえば、私のニキビもあの夏休み後から、出来はじめたような?
うん。
気のせいよね。