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「では、リュティオーネという新しい名前を頂きましたので、これからはどうぞ私のことは『ティオ』、とお呼びください」
「……、あや……じゃなかった、ティオ。それって男の名前じゃない?」
……即、リュートから反論が来たが……、正直考えていてもリューネはリュートに似過ぎだし、リュティっていうのはあまりにも率直だと思った結果なんだがな。
ルチェもどこから「チェ」が来たのかわからないんだからこれぐらいは愛称の付け方として変じゃない……と思う。もしかして、自分で言うのは変だった、とか?
これにした理由はまぁ、ティオならいきなり女に戻ったというショックが薄そうだったから、何だけどな。
「だが、リュート。私は今まで記憶の上では男だった。今まで男だったのに呼び名までいきなり変えられても、ちょっと……な。昔は昔だが、明らかに男でだった方が長いだろう?」
「そうか……その話はまだよく分からないが、ならば我が娘、ティオ。
そう呼ばせてもらうよ」
何故かリュートでなく父さんが頷いたのを見て、俺……じゃなかった、私は胸の中で新しい名前をつぶやいた。これからはこう、呼ばれるんだと自覚しなくてはならない。それに何時までも「リュート」に合わせた話し方をしていては不自然だ。話し方も早く考えなくてはならないが……。
リュティオーネ、ティオ、と。にしても記憶の上では綾香、リュディトゥ、リュティオーネと名前を三つも得るなんて私は本当に不思議な人生を歩んでいる……な。一応前世は死んだからカウントしたくないが、こう本当の体の持ち主のリュディトゥと分離したり、今みたいに独立したりしているのだから俺……私の体がどうなっているのか、魂というのはどうなっているのか世界に問い詰めるべきだったかもしれない。
「……それでは、私とリュディトゥの話を致します」
まぁ結局は聞いていないのだから考えていても仕方がない。そう判断した私は父さん……父上と母上に「私」の前世である綾香の話、リュディトゥと私の話、そして魔王との戦い、それから世界との会話を話していった。
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「まず、私とリュディトゥは前提として、半分同一人物です。現時点では」
私の可愛いリュートと同じ顔をした娘、リュティオーネは覚えのある口調で話し始めました。そう、男の子の話し方。十年前の幼いリュートに教えた、敬語です。この話し方で彼女の言葉の正しさが証明されます。何かあったのか可愛いリュートの舌っ足らずさは無くなっていましたが、独特の少し妙な発音なのです、彼女は。この話し方をするのは、私の息子だけでした。
「成程、同一人物かね。では君もリュディトゥであり、君の方がリュディトゥである、と今のリュディトゥは言っていたが……それは……いや、すまない。分かりにくい話だ」
「いえ、仕方がないことです。
そうですね、リュートが言っていたのは『記憶』の話です。今まで…………つい先ほど私たちが完全なる『分離』するまでは一応私もリュートも同じ人間であり、同じ体を共有し、賢者様が私たちの精神を一時的に分離させる以外には私たちが話し合うことすらありませんでしたし……」
ティオは私たちを見据えたまま鋭く自分の胸を指差しました。見据える目には鋭さと、僅かな葛藤が宿っています。この葛藤は…………この話を話すべきか、話さないべきかを考えているのでしょうか。それとも…………、私の知り得ない、別の事、なのでしょうか。
彼女が私たちの娘なのは間違い無いのです。何故なら心がそう叫び、そう告げ、彼女がリュートと同じぐらい愛おしいからです。でも……彼女は、ティオはどう考えているのでしょう。私のことを「母上」と呼んでくれましたが、本心から私を、認めてくれている、のでしょうか?
「……この肉体は父上と母上の遺伝子から、この『世界』によって構成されたものであり、遺伝子の上ではリュートと双子になるようになっています。ただ、『そうなっている』だけでこの肉体は先程出来たもの。リュートと同じく二十年生きたものではありません。……母上が腹を痛めて産んだ体ではないのです」
少し話しながらも僅かな悲しみに顔を歪めたティオは話を更に続けました。そんなティオを心配しているのか、リュートがティオの顔を覗き込みます。彼女はその視線を自然に受け止めて目で返しました。
…………、この話がどれほど突飛なものであろうとも、私の息子のリュートとアイコンタクトが出来るなら、もう決定的なのであるのをこの子は知らないのですか…………。恥ずかしながら、私は十年前に何度か試みてみましたが全てアイコンタクトは不発に終わったのです……。
「……、私も残念ながら自分のことでありながら、完全には理解していません。一部には推測も含まれます。ただ言えることは本来私は……リュートの双子の姉か妹として生まれる筈だったということです。長い間私の魂や精神はリュートと共にあり、固く結びついていましたが。
曰わく、『世界』によって得るはずだった肉体を得、今までの『リュディトゥ』の記憶を持つのが私、今のリュディトゥは私の精神を除いた記憶を持っています」
心底申し訳無さそうにティオは言いました。
「リュートには、申し訳ないことをしました。今までリュートの体を動かしていたのは持ち主のリュートではなく私なのですから」
説明回。
シェーラがリュートとアイコンタクトが出来なかったのは見えなかったからですね。
ちなみに綾香ことリュティオーネもリュディトゥも世界によって(リュディトゥが脅して)目は良くなっています。




