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アースルヴァイツの優秀な使用人たちのおかげでサイズのあう、綺麗な服を着ることが出来た綾香を見て歓声をあげる両親を見て、綾香は不思議そうにしていた。
…………うん、俺も不思議だと思うよ。俺たちはあの顔が綺麗な二人の子供だからさ、綾香風に言うと遺伝子の問題で俺たちの顔はそう悪くはないとは思うんだ。でもだからって、確かに綾香に服は似合ってるけど見た瞬間にルーウェンスがぶっ倒れたり父さんと母さんが綾香の新しい名前を考えるのも忘れてはしゃぐほどじゃないと思う。綾香が中身だと俺と同じ顔が格好良くなるのは…………認めざるを得ない、けど。綾香は、まぁ、身内贔屓を引いても可愛い人だと思うよ。だけどそれは性格だ。顔は少し柔らかみがあるけど俺と同じなんだからあんまり可愛げはないと、思う。人の感性までは知らないけどさ。
鏡で見ようが(いつだったかオラニウスが作っていたのを覗いた覚えがある。目が悪かったからあんまり見えなかったが)、綾香の顔を見ようが俺たちの顔は悪かないけど良くもない。ただし目が良くなっても目つきが悪いのも変わりない。
そんな人相なんだけどね、俺たち。父さんと母さんは正直、親馬鹿過ぎるし、ルーウェンスは剣士補正…………ってか、もはや狂信されてる気がするけど、リュディトゥ補正で見すぎだし、亡きアルバ先生は何か最初から勘違いしてたらしいし、オラニウスは自分で思ってるほど非力じゃないんだけど剣で負けたの引きずりすぎ。それが尾を引いてて俺たちを色眼鏡で見ている気がする、うん。
俺たちは、そんな馬鹿げた存在じゃないのに。どうしてか、みんなは勘違いする。だけど俺は正さない。多分、綾香が正すまで正さない。だけど綾香は気付くには鈍感すぎる、よね。無理だなぁ。そんな人外じみた力なんか無いのに。ルーウェンスの言葉をまるまま信じれば俺たちは何者だよ?ルーウェンスの言葉は信じないべきだ、ことに俺たちに関しては。悪い奴でないけど。
「可愛いわ!良く似合ってるわ!」
母さん、綾香が怖がってる。綾香にそんなに詰め寄らないでやって欲しい。目を白黒させているよ。
「可愛い……可憐……俺たちの愛の天使……息子の片割れ……」
「父さん、落ち着いて父さん」
頭がショートしたんだが狂ったんだが知らないが変なことをほざきだした父さんに軽く蹴りをいれとおいた。あれ、オラニウスの顔が分かりやすく引きつっちゃった。俺は我ながらこの十年、逞しく生きてきたんだからこれぐらいで顔を引きつるほどなのか分からないなぁ。
「あ、あぁ、リュート。父さんは最高に冷静だから安心してくれ。最高な気分だ」
「大方その脳味噌ん中は綾香でいっぱい何だろうけど、その綾香に名前を付けてあげてよ」
…………危ない危ない、もう少しで父さんに暴言を吐くところだった。最後に「この、親馬鹿がッ!」と言いそうになったけどこらえた俺はなかなかやるなぁ。綾香だったら乱暴な言葉……じゃなくて、とっさに言葉を翻訳出来なくて黙り、かな。そこが可愛らしいところだけど。今は喋れるから無いんだけど、ね。
「ねぇあなた。この子の名前はアシュリーでどうでしょう?」
「いやいや、リュディトゥと対にしてもっと捻ろう。アシュリーの名前はリュディトゥと対にしなくては名乗るときに不自然だ」
貴族の面倒くさいルールが発動したのかあぁでもないこうでもないと父さんと母さんが話し合う。アシュリー……か。意味は知らないけど可愛らしい響きだなぁ。だけどリュディトゥなんていう面倒くさい発音の綾香が噛みまくった名前の対にしては確かに発音が単純だよなぁ。
「華麗なる姫として伝説の残る初代剣聖様の姫、リュティオーネ・スゥバァ・ミディル・アースルヴァイツ様の名前をお借りするのはどうでしょう?」
「あ、あの、母上、私は、その……そのような複雑怪奇な発音がやたら面倒くさい……じゃなかった、伝説の名前に肖るほど出来た人間ではありませんし……」
綾香が言葉の端々に本音だだもれしているのはともかく、アースルヴァイツって本当に何なの?って思ったよ。でも、リュティオーネならまだリュディトゥより言えると思うし、響きが似ているし、ご先祖様(だよね?)に肖るならいいと思うんだけどな。リュティオーネなら、愛称はリューネ?いやいや、それは俺のに似すぎだから変わり種でリュティ?
「おぉ、シェーラ!素晴らしい名前だ!よし、リュディトゥの片割れ、我らが娘よ。そなたの新しい名前はリュティオーネ・スゥバァ・アッディ・アースルヴァイツだ!」
父さんの声と共に後ろからの衝撃で俺と綾香……いや、リュティオーネはつんのめって父さんと母さんの胸に飛び込む羽目になった。
・・・・
・・・
・・
・
「リュティオーネ!新しい名前、おめでとう!」
「あ、あぁ、なんだ……ルチェか。
ありがとう」
衝撃の正体は突進してきたルチェだった。いきなり背中に何かがぶつかってきたかと思ったが、なんだ。ルチェだったのか。なら納得だな。
にしてもリュティオーネ、か。前世より長く「リュディトゥ」や「リュート」の名前を使っていた身としてはちょっとくすぐったくてちょっと照れくさい。女の子らしい響きに気後れもしてしまう。
だってそうだろう、私は幽霊状態のときはともかく根強くリュディトゥの意識と結びついていたのだから男として扱われるのに慣れすぎた。まぁ、この扱いに徐々に慣らしていかなくてはならないが。




