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misunderstanding  作者: ryure
第五章 獅子の剣士と黒の少女、そして闇の魔王と賢者
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「もう、ルーウェンスは好きにしてよ。

俺は……とりあえず、もう一人の綾香がどうにかなるまではいるから。あとさ……危険にさらしたくないから、この中で大人しく待ってて」


 綾香狂いでおかしくなったルーウェンスはほっておくことにして、俺はオラニウスの目を見て言った。視力がまだマシな今だから出来る芸当かな。そして、オラニウスはとても聡いから、すぐに頷いてくれた。

 それから、何やら魔法を唱えようとするのを止めておく。結界を通過した手でオラニウスの手に触れれば、簡単にマジック・キャンセルが出来るから。綾香と俺は魂のリンクがあるからそれぐらいは出来る。


「……ここは高密度の魔力地帯で、しかも強い結界内にいて、数日間、連発する魔法……ねぇ、オラニウスは魔族になりたいの?忌々しい魔王は死んだから、あの魔族化の魔法は消えていくけれど、まだ残ってるみたいなのに…………」

「いや……だが。友人を危険に晒して自分は安全地帯にいるなど……」

「高潔だね、レッサヴィーラの王子様。それから、綾香みたいに義理堅いね。

俺みたいにただただあやかに執着して縋ってるだけの男なんかよりもずっと凄いね。羨ましいよ。

だけど、自己犠牲は絶対に駄目だから。先生の二の舞は、許せないから……」


 綾香とは全然違う言葉使いのせいかな、戸惑うオラニウスに言い放つ。自己犠牲は絶対に駄目、アルバ先生のように、俺のせいで…………失わないで欲しいから。


「……リュートは、リュディトゥは……僕の親友で、従兄弟で、尊敬してるリュートは……やっぱりリュートだった。うん。変わりない、違いないなぁ…………アヤカちゃんも凄いし、尊敬するけどやっぱりリュート自身も……」


 異世界に意識を旅立たせたルーウェンスの独り言にやや鳥肌を立たせながらも、二人に微笑む。

 そういえば綾香は、よく笑う。顔は動かさないときもあるけど、あの人はよく笑う。あの人の器として、俺はわざとあの人に似ていない笑みを浮かべた。


 綾香なら、リュディトゥの体で絶対にしないであろう、優しげな微笑みを浮かべる。

 その意味は、……俺と綾香は別人なんだと知らしめる為かもしれないし、安心してそこにいて欲しいという意味なのかもしれない。何故だか、自分でも、分からないんだ。…………綾香は半身ではあるけれど、ルーウェンスに俺まで尊敬される覚えはないし、オラニウスに信頼されているのも……俺じゃない、から。存在を忘れないで欲しいのかな……俺は、綾香に縋らずに生きていけない癖に。


 俺という、「リュディトゥ」の性格で、臆病で寂しがり屋で、弱々しい俺に相応しい笑みを。儚い、弱い、泣き出しそうな笑みだ。綾香の浮かべる、獰猛なものや、安心させるものや、綺麗な笑顔や、不敵な笑みでなく…………。だって、俺は命の取引なんか、本当はやりたくないから。


 綾香はいつも心の底で謝りながら俺に自分を寂しがり屋だと、臆病者だというけれど、本当は俺がそうだから。だって姉がいないと、何も出来ない、から。


「……」

「じゃあ、行くね」


 カツン、と手に持っていた大剣が地面に触れた。踵を返して、僕はゆらゆらと闇の光を出し始めた綾香に向かって走った。


・・・・

・・・

・・


「滅ぼしてやる、私には何も無かったんだから……!嗚呼憎い、世界が憎い!私が何をしたというの?私は何故人が持っているものを持っていなかったの?」

『健康な体はありませんでした。家はお金持ちだったけれど、私には愛情を注がれたことはありませんでした。命を狙われることもありました、誘拐されることもありました。

だけど、私は毎日、…………ご飯を食べれましたし、帰る家がありました。他に何を望むのです?』


 甘ったれた私。天命を理解しながら理解出来なかった私でしょうか、あの「綾香」は。

 闇色の電気を宿した、壮絶な表情には負しかありません。私は、あんなにも汚い心を見て見ぬふりをしていたのだと、改めて理解させられます。


『私は私なの!自由に生きたいの!生まれ変われば、痛みを永久に受ける体!親にとっては異端の子供…………。眩しい天使の色をした、醜い醜い私…………。

幸せな私、知ってしまえばさぁ大変。平穏に暮らす「私」が憎い!だけど命には代えられないわ……だからあなたには手を出さないのよ、世界を代わりに滅ぼしてやるほど憎いけれど……』


 ようやく自我を取り戻したらしい「私」はわめき続けています。そういえば、断片的にしか記憶が無いなどと言っていましたが…………私なら、同じ立場でもああはなりません。同一人物であるのに、何故でしょう……?


『貴女の恨みや憎しみなど、私には関係ありません。私にはどうでもよいことなのです、私よ。

貴女はまだ、何もしていません。ですから、降伏しなさい。そうすればまだどうにかなりますから…………私としては、体を長きに渡って操っていたアーフィルという少年に謝って頂きたいのです』


 可哀想に、あの少年は自分の体だというのに…………、ずっと乗ってられていたのですから。

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