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いきがくるしい。からだがぼくにかえってきたせいで「いたい」がいっきにやってきたからかな?「あやか」っていうおんながぼくからでてったからかな……?
「……本当にその姿が本当だったのか」
「まさかだよね、剣士殿。魔王の息子が『天色』持ちだなんて…………。魔族の王の器は天使か」
「にんげん」と「ちちうえのあに」のこえがきこえる。
すこしだけみえた、ぼくをおさえつけている「にんげん」はきんいろだった。ぼくがおんなからからだをときどきとりもどしたときによんだほんには「きんいろはかみのつかい、しろいろときんいろはてんしさまのうまれかわり」ってかいてあったから、このひとはかみさまのつかいなのかな?やっとたすけてくれるの?
『どうして私がもう一人いるのっ?!あなたは誰なの?』
『……憎いよ、あいつが……どうして私は死んでしまったの……?憎い憎い憎いっ!』
「いたい」がうすれたときに、おんなのはなしごえがきこえた。「いたい」のせいでめがおかしくなったみたい。おなじおんながふたりいる。くろいろのおんながふたり。かたほうはもっとくろい。
「……いたいよ、ちちうえ、いたいよ……」
すこしだけなくなったけど「いたい」はかわらない。ちちうえはぼくにこの「いたい」はまぞくとてんしのちからがふたつあるせいだっていってたけど、なんでだろう。
「あぁそうか、天使と魔族が同じ体にいれば痛いか……」
おじさんのこえがきこえて、「いたい」がなくなった。ぴかぴかとひかる、きれいななにかがぼくにふりそそいでいた。
「アルフィー・アゼルス。我のことが分かるかな?」
「……ぼくの、おじさん」
きんいろがぼくのうでをつかんでいるけど、おじさんのかおがみれた。ううん、きんいろはあのおんながぼくのからだであばれてたからぼくをつかまえているんだ。
「ぼくはあのおんなじゃないからあばれないよ」
「…………いつ戻るか分からない、お前のことを俺は何も知らないのにか?」
つめたいこえではなすきんいろはすこしちからをゆるめてくれた。きっとこのにんげんは「やさしい」をしってるんだっておもった。
「……アルフィー。君はアヤカ殿に支配されていたのかい?それとも一瞬に体を動かしていたのかい?」
「ぼくはね、ずっとずっとうごけなかったからたぶんね、からだをとられてたんだよ」
おじさんはすわっているぼくのめをみてはなしてくれる。こんなふうにはなしてもらうのははじめてだからいっしょうけんめいはなした。
「そうか……しばらくは魔法で痛みはないと思うけれど、痛みは君の生まれつきのものだ。すまないね」
「おじさんはしかたがないの。ちちうえもしかたがなかったの。
ねぇ、あのあやかはなんでふたりいるの?」
たぶんまっくろなのがあのおんなで、あんまりくろくないのが「あやかどの」なんだとおもった。
「それは分からないよ。アヤカ殿は悪い人じゃない。だけど君にとっては…………黒い方は、最悪かもしれないね」
おじさんはそういってからしろいぼくのあたまにふれた。てはあったかかった。
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綾香が二人いる。黒いオーラに包まれている綾香と、頬に裂傷のある綾香が。怪我がある方が俺の姉の方。
「………………、綾香」
「りゅでぃと、私、あの子、倒す?」
無邪気な姉は、ふらふらとしていて、暴言を吐くだけで特に何もしないもう一人の綾香を指さしている。手にはナイフ、戦う気しかないところに俺との違いを思う。
『いや、とりあえず様子を見ててくれる?ちょっと俺は結界……かな?を壊しかねない友人たちを止めてくるから』
さっきからがんがん、がんがんと叩き続けられる音にそろそろ嫌気もさしてきたからだ。待ちぼうけだから仕方がない…………それに大分長い間閉じ込められるのも苦痛だろうから。
「あ、リュート……」
「おい、あれはどうなっているんだっ?!魔王を倒したのはいいが、怪しい魔族がいるし……かと思えばアヤカが二人だと?」
何時もと違う俺の金髪を見たのか、「普段の俺」、つまり綾香よりの俺ではないと気付いたルーウェンスはもごもごと口ごもり、それを気にせずオラニウスは矢継ぎ早に質問してくる。
…………うぅん、オラニウス、普段ならそれ、聞き取れないんだけどなぁ。今は綾香という言葉を理解していない存在がいないから分かるけれど……。全く、能力を二分するとは便利でもあり不利でもあるなぁ。綾香と分かれるのは不安だけど比較的綺麗な視界とすらすら理解できる言葉に清々しさを感じるよ。
「まぁ、まずは結界を殴るのを止めてくれない?」
危惧すべき存在のうち、片方は無気力に言葉を言うだけだし、綾香が見張っているから大丈夫だろうな。もう一人の、本来のアーフィルはただの幼い子供のようだったし、賢者がついているしね。
にしても、アーフィル・アゼルスは哀れだな。よく分からないけど、もう一人の憎しみに取り憑かれた綾香に体を乗っ取られ、言葉は理解しているものの、小さい子供のようだったし……。意識を塗りつぶされていて、しかも産まれ持った力は器に最も反するものだ。不運だね。
「ご、ごめん、リュート……」
「言いにくいならリュディトゥとでもアッディとでも呼んでよ、ルーウェンス。俺は厳密にはお前の親友のリュディトゥではないから、…………、君が憧れてくれる強さは綾香のものだし」
綾香は鈍感。だからあまり気付かない。ルーウェンスの賞賛に、全部気付かない。だけど分離しているあいだ、記憶を思い返せば分かるんだ。
「で、でも……リュート。君は君だし、……半分でもリュートは凄いからいいんだ!」
…………おかしなスイッチを間違えて押してしまったみたい。




