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misunderstanding  作者: ryure
第五章 獅子の剣士と黒の少女、そして闇の魔王と賢者
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 幾つかの傷を負いながらもリュートは魔王を着実に追い詰めていく。間違いなく優勢なのはリュートだ。だってリュートが負っている怪我はどれも軽くて、魔王が受けているのはあと少し深ければ致命傷になるようなものばかりだから。受けている量だって全然違う。…………たった数日でここまで、戦況は変わるんだね。


「ちょろまかと……小賢しいっ!」

「黙れ黙れッ!この人間の餓鬼がァ!俺様は魔王だッ!真の魔族の王を舐めるなアァッ!」


 戦うリュートを見ているだけ。そうだよ、ただ僕は賢者の結界によって流れ弾の攻撃から守ってもらうしかない存在だった。

 同じく結界に守られるオランはリュートに魔法をかけることが出来た。再び一人に戻った今は、リュート自身に魔法をかけれなくて、剣の耐久力を上げているようだけど。


 でも、今は違う。誇り高く、戦いを申し込まれればたとえ不利な戦況でも一人で戦うはずの真の魔族の魔王が援軍を召喚したから。間接的に多対一とはいえ、その仲間の召喚した数はあまりにも多い。

 それなら、出番は僕だ!


「リュート!雑魚は任せて!」


 さぁ引き絞れ、弓を。唸れ、唸れ、矢よ!相手が数でリュートに勝とうとするなら、僕はその数を消して見せよう!

 

 召喚した仲間に僕の放った矢が迫ったのに気づいた魔王がこちらを見て、不気味ににやりと笑った。その笑い顔に嫌な予感がしてならない。慌てて放った矢を見る。そして、やっぱり嫌な予感は的中してしまう。僕の放った矢は魔王の魔法によって、リュートの方向へ向きを変えて飛んで行く。スピードも変わらずに…………。だけど、甘いのは、魔王だっ!

 放った矢がリュートに当たる前に呪文を素早く唱えて腕を振るう。飛び出した魔法の炎はとても小さくて弱々しいけれど、飛んで行くスピードだけは早い。魔王の攻撃よりも、放った矢よりも。それに小さな炎とはいえどこれは魔法の炎。あっという間に矢に追いついた炎は一瞬で矢を燃やし尽くした。先の鉄も残さずに。

 これが、魔法に少しも当たれない理由かな……結界から僕、出たら死ぬ気しかしないから。だからリュートは凄い。リュートが望んで得たわけではなくても、魔法が効かないのはとても素晴らしいことなんだ……。


 矢を消すと同時に放った小さな炎は他の魔族にも命中する。魔族にとってはこの程度、殺傷能力は無に等しいけれど、こっちに気を引くには十分。一瞬気を取られた隙に次々と矢が命中する。時折起こる爆発はオランの爆薬。派手で大きい炎や爆発、毒々しい重力を歪める光は賢者の魔法だ。勿論僕の魔法も、オランの魔法の爆薬も、賢者の炎もリュートにも当たる。でもリュートはアヤカちゃんのお陰で魔法が効かないから、どれも当たる前に魔法は力を失って消えるから大丈夫だ。


 えげつないなぁ、賢者は。炎や爆発の魔法は魔族たちがたまに相殺するけど、重力を歪める魔法は高度だから防げない。あっという間に空間に吸い込まれたり、体が歪んで動けなくなったり破裂していく。そんな、誰よりも殺戮を繰り返す賢者はただただ無感動な目をしている。


 …………そういえば魔王と賢者ってどことなく似てる。僕は目が良いから魔王の顔まで見える。…………認めたくないけど何となくリュートにも似てるな、両方。種類は違うけど格好いいからだな、一番格好いいのは間違いなくリュートだけど。


 戦っているうちに、押される魔王の様子がどんどんおかしくなっていく。唸り声がまじり、攻撃が大きくゆっくりとしてきたから。何が……何かが……起こっている?


 力をみるみる失っていく魔王に僕は呆然とする。僕の目には、魔王に向かって手を伸ばす、アヤカちゃんにそっくりな少年がいて…………狂ったように笑っているのが見えたから。


・・・・

・・・

・・


 捉えた、と思った。確かにこの剣は魔王の首をざっくりと刈り取った。留めなく吹き出した黒い血は床を染め上げたのだから、間違いない。今なお次々と召喚されてくる魔族をなぎ払いながら、薄々感じ続ける違和感の正体を探っていく。目を凝らす。薄暗い部屋でよく見えない。


『…………あは、ははは。良くもまぁ、人間がここまでやったよね。私もびっくりするよ』


 不意に賢者様に似た、でも賢者様ではない声が聞こえた。そして、紡がれた言葉は……懐かしい日本語。

 おかしい、この世界で綾香、つまり俺以外に完璧な日本語を使える存在がいるなんて。賢者様は居ないからこそ喋らないようにおっしゃったんだから。


『あはは、驚いてる驚いてる。そりゃそうだよね、流石の魂が二つある人間でもまさか、魂が二つに分かれるなんて思ってなかったんでしょ?

久しぶり、綾香。それから初めまして、リュディトゥくん。

私は魔族を統べる王、魔王だよ。さっきの偽物の魔王は、一応私の「今世の」父さ』


 魔王の死体を踏みしめ、笑うそいつ。そこに居たのは、黒い少年だった。恐らく魔王の物であろう血で頭から足先まで赤黒く染まった少年はとても親しげに手を振ってきた。

 ゆうゆうと浮かびながら数歩歩き、不意に顔を近づけてきた。そう、だ。この距離は……「俺の視力で相手の顔が見える距離」だ。寸分の狂いもなく。


 はっきりと少年の顔は、狂気的な吊り上がった笑みだったが、その顔は……綾香をまるで少年にしたようなもので……、そうだ。俺の、前世の顔だ。そっくりだった。


『……な、な……!俺は確かに綾香だ、が……貴様、何故……!』

『さぁ、どうしてだろうね。それは私にも分からないよ。

でもリュディトゥくんと私は同い年だし、本来一つしか魂が入らない体に二つも魂を入れてる君には言われたくないなぁ。まぁ、私は偽物なんだろうけどね……綾香の記憶はあれど薄く、はっきりしてないんだから。バグで増殖したんじゃないの、魂。でも……私は完璧に日本語が喋れる、そして四分の一人間の魔族だ……意味がわかる?』


 ぞくりとする笑みを浮かべながら少年は問う。


『魔法が使えるとでもいいたいのか?だがお前に綾香の魂があるならば不可能だ』

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