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体が羽根のように軽い。湧き上がる闘志が勝利を確信させ、隣に寄り添うように浮かぶアヤカの存在が俺を安心させてくれる。
「これが……魔王なのか?前には負けたのに……何故弱い?」
『慢心……駄目だよ、リュート……魔王、強い……』
魔法を身を盾にして防いでくれ、柔らかくこちらを見て微笑んでいるアヤカの言葉に頷き、さっきよりも動きの鋭さの増した魔王と対峙する。
「おのれぇ……!精霊憑きとはぁ……!まずはその目障りな女から消してやろう……!」
半透明とはいえ、今も普通に俺の腕に触れて、引っ張られるようについてくるアヤカに実体があると思ったのか、魔王は禍々しい光を手に宿し、迫ってきた。叩きつける気か。
『魔法……?』
「馬鹿め、魔法ではない!」
あっさりと手の内を明かすなんてどちらが馬鹿かなのか分からなくなった。だけどあれがたとえ魔法でなくても、この世界でアヤカに触れることが出来るのは俺だけ。ルチェも触れられなかったのだから、血縁関係も関係なく俺だけ。なら大丈夫、アヤカは大丈夫だ。
『愚か……モの』
「……くっ!」
想像通りアヤカの体に攻撃は当たらず、むしろ反撃したアヤカのナイフに腕を切り裂かれた魔王は今度は後ろの三人へ向かっていく。人質を取る気かっ?!それとも援軍かっ?!後ろから斬りつけようと迫るが……間に合わない……!
「残念、残念だよディッダ……我がいるのを忘れている」
弾けるような光と共に激しい衝撃音が響き、どこか少し悲しそうな賢者の声が聞こえる。結界か。なら、ともかく後ろの三人に関しては賢者のお陰で平気なようだ。時折思い出したかのように飛んでくるルチェとオランの声援と補助の魔法を感じながらにふわりと此方に飛んでくるアヤカの手を取る。
驚いたことにアヤカには体温が僅かにあり、傷一つない滑らかな手には何時も以上に力が宿っていた。
「…………、一気に攻めようか」
『うん、私……手伝う』
魔王は顔を歪めて此方を振り返った。今にも殺さんばかりの形相で迫ってくる。狙いは……俺か!
『魔王……、私……忘れ……』
俺に魔王の攻撃が届く前にアヤカが消えた。霧のように霞んで揺らめくアヤカはそのまま俺の体と重なった。そして手に握っていた完全に体温が消え失せると、同時に俺の体は勝手に魔王に向かっていく。
これは……アヤカだ。何時もと同じように二人の魂の宿ったこの体は今、殆どはアヤカの支配下にあり俺はその体と僅かな補助をするだけだ。
アヤカの魂の記憶から知る、前世の世界はあんなに平和なのにアヤカは戦いに強い。それに、この剣の腕を磨いたのは俺ではなくアヤカだ。俺が剣を振るえるのはアヤカが身に染み込む程剣を練習したからだ。だから俺だけのときは剣の腕の真価は発揮できない。
だけど、今……剣はアヤカによって振られている。今までは一番強いときにも半分ずつだったのに。ということは……。
ただただ見ているだけの俺にもわかる。とんでもない剣聖がいたものだと。魔法が効かず、だが僅かな魔法が使えず、そして剣の腕は魔王にも勝る。
だがその剣を振るっているのは十代の少女であり、魔法が効かないのも少女の力。俺はただ、彼女に無かった丈夫な体を貸すだけ。
その事実に俺は時折悲しくなってしまう。無力感にだ。だけど反対に彼女はとても大切なのだ。だから、無力感よりも彼女の心配が優先だ。それは彼女が俺の半身、大切な半身だからだ。ここで先生の敵を討ったら…………。討ったら、……平和に戻って、二人三脚の暮らしに戻れるならいいか。無力でも。
魔王の反撃に浅く頬が切り裂かれるが、アヤカは魔王の肩を深く切り裂いた。怒り狂った魔王に骨の剣を折られたが、アヤカは魔王の左腕を蹴りでへし折り、いつも使っている大剣を鞘から素早く引き抜いた。
早く終わらせよう、アヤカ。
そっと心の奥で呟いて、アヤカには聞こえないように魔王へ罵声を胸のなかで叫ぶ。俺の髪の長さがアヤカの容姿に影響があるのならこの顔の怪我も影響あるんじゃないか……?アヤカの顔に傷つける奴は殺してやる……!アヤカが潰しにかかってるけどな……!俺の顔なぞどうでもいいんだ、変人入ったルチェが何か言ってくるがな……!だがアヤカの顔だけは、傷つけた奴は消してやる……!手を下しているのはアヤカだけどな……!
やはり、どうしようもない無力感に襲われた。
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