45
「えっと、……そうだ、同じ部屋で寝てて、嫌じゃなかった……?」
「その前にも十年間男だったわけだし、オランが破壊的な寝相だった他に嫌だったことはない……勘違いしないでくれ、俺は男だ」
不愉快そうに眉をギュッと顰めたリュートにルチェは露骨に慌て出す。
前世云々は関係なくリュートは「彼女」ではなく「彼」なのだからそこに怒られてとてもおどおどしていた。それは傍から見ている分には頭一つ分はないがそれぐらいの身長差のある男が自分より華奢な青年に盛大に動揺させられているから面白い。ただ、その動揺させているリュートと敵対なんてしたいわけがない。あくまで見ている分にだ。自分に降りかかるのなら俺は魔法を使ってでも逃げる。
「そ、そうなの……じゃ、じゃあ昔に本を貸したのも嫌だった?あの、歴史書とか……」
「いや別に?時間はかかったが一応全部読めたし……それに、元々(ぜんせ)は本は好きだ。
ってルチェ、よくそんな前の事を覚えてるな……」
一瞬険悪な雰囲気になったものの、それから話は和やかな方にゆっくりと変わっていったのを感じて、俺は二人からそっと視線を外すと賢者殿の介抱に務めた。賢者殿が倒れたのは魔力が切れたのか、はたまた足りなくなったのかは魔族ではない俺にはよくわからないが、一応魔法に関しては赤ん坊以下であるリュートや魔法に関しては無いも同然なルチェよりは俺がマシ、だからな……。困った物だ。
二人はほっていても親友であり血のつながりのある相棒だ。二人の仲に比べれば部外者同然な俺が口出しするのは良くないだろうな。
「う、わ……ぼ、僕はあんな可愛い子に剣を降って見せてとか、言っちゃったのか……」
「……世辞はいいが何も出ないからな?」
「お、お世辞じゃないってば!可愛い女の子だったもの!」
和やかな空気に頬が少し緩む。ただ、これから続く困難を、リュートが受ける受難を思えば安心なぞ出来なかった。
・・・・
・・・
・・
・
・
・・
・・・
・・・・
……「私」、アヤカは「俺」、リュディトゥに問います。貴男の中に、私は存在します……。自分の生で天命により死んでしまった私は、今貴男と共に生きているに等しい状況です。それを、貴男は許してくれるのですか?それとも、今すぐに貴男の中から出て行ったほうがいいのですか?これは貴男の生なのですから、私は、邪魔してはならないのです。
そんなこと言わないで。ねぇ、行かないで、「俺」の半身。貴女は俺の姉、そして兄弟。俺はこの世界に生まれてから貴女の意識をずっとずっと感じて生きてきた。親よりも貴女を信頼し、貴女の意志に従って生きてきた。貴女は俺よりずっと年上のはずなのに、何故か時折幼い貴女に俺は支えられて、支えて、そうだ。支え合って生きてきた。こうして互いの意識を知れるのは、会話することが出来るのは悲しい事に魔王の憎むべき、忌むべき最悪の攻撃のせいで心を裂かれたからであり、賢者の精霊を呼ぶ魔法のおかげであったけど……やっと、やっと俺は貴女と話せるんだ。だから行かないで、ここにいてよ、ずっと。
それでいいのですか?私は貴男を蔑ろにしてきたかもしれないのです。私がいるせいで貴男は残酷に、過酷な十年をおくったかもしれないのです。私がいなければ栄誉あるアースルヴァイツ家の貴族として今も生きているかもしれない。偉大な魔術師への道を歩んだかもしれない貴男の将来を、私は消してしまったのですよ?それに、貴男の大切な友人や親愛している両親に、本当に思っていることを私の幼稚な語彙のせいで伝えられていないでしょう。私は、ここで「私」としての意識があります。そしてもう一つ、この体には貴男と結びついた意識が宿っているのです。それが、今までの「リュディトゥ・スゥバァ・アッディ・アースルヴァイツ」です。でも、貴男が望み、私が実行すれば「私」は貴男からいなくなる。そうすれば、貴男はきっと……。
きっと?そんなことをして得るものは何もないんだよ。むしろ大切な半身を俺は失ってしまう。ねぇ、知ってるかい?俺は貴女がいるから、今の俺がいる。だから、さ。悲しいことを言わないで…………。俺は貴女を恨んだことなんか一度も無いんだから。アヤカ、俺は初めて本当の意味で独りになったときとても不安だったんだよ。体は確かにそこにあるのに、欠如した貴女がいないだけで俺は不安でたまらなかった。アヤカ、先生の敵を討つんだろう?俺も打ちたいよ、二人で。だから、出て行くなんて…………言わないで。
・・・・
・・・
・・
・
「ねぇ……、こんなにすぐでいいの?二の舞いにならない、よね?」
「大丈夫だ。色々、頭のなか整理したし…な……弱さはない。次は勝つ」
俺は至極あっさりと魔王に撃退された。それから、少しが経つ。傷は初日に賢者様に治してもらったし、心の整理もついた。賢者様も回復されたし、大丈夫だ。
そして何故か、どうしてかは分からないが……。今度は絶対に負けない。「心の底から」そう思うんだから。
先生の敵を討つ。みんなの人生を狂わせた魔王を倒す。倒した先に何があるか、何が残るかは分からない、が……今は迷い無く、進もう。
次から五章です。
リュディトゥの口調が違うのは普段の口調はアヤカのものだからです。




