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misunderstanding  作者: ryure
第四章 不死身の剣士と剣聖と大魔王
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「魔法なんて無かった。魔法なんて空想の世界だった。魔族なんていなかった。人間以外に人間の言葉を理解して喋る生き物はいなかった。知的生命体は人間以外にもいたが、人間が文明の中心にある世界だった。獣人もいなかったし、エルフなども伝説だった。

普通に生きてさえいれば、真剣を持つことはないのが普通だった。戦いなんて殴り合いの喧嘩以上はないのが普通だった。命の危険はあった。だが、それはほんの少しの警戒をすれば幼児にも回避できるものだったからな。

そんな平和な世界で生まれた……少なくとも彼女のいた国は……『アヤカ』は体の弱さ故に若くして死んだ。恐らく、『テンセイ』をした俺の体には『アヤカ』の記憶が色濃く残っている……、もちろん、『リュディトゥ』の記憶も生まれてから全部ある。

アヤカはごく普通の女だったが、リュディトゥは男だ。二十年も男をやっているが、俺が結局なりきれているのかは知らんな。

まあ、とにかく魔法のおかげで今はすらすら喋れるから俺に関する質問には答えようか。ちなみに俺こと『リュート』の本体の体には今世の記憶が全部と一部の前世の記憶があるようだ。恐らく魂だけの存在の幽霊、『アヤカ』はその反対だと思ってもらえればいい」


 不思議なことに喋りながら笑顔で言い切ったリュートはさぁどうぞとばかりに促してきた。ルチェは相変わらず食い入るようにリュートの顔を見ながら俺には聞こえない音量で何やらぶつぶつ言っている。ほっておこう。


「……、そうだな、異世界語は今も喋れるのか?魔王に魔法言語である異世界語が完璧に喋れることがバレれば言葉に関してリュートが拷問にかけられると思うんだが……」

「喋れるか、か?今は翻訳の魔法が効いているようだが『ニホンゴ』を話している感覚だ。そうか、これは魔法を使う言語になるのかか…………出来うる限り『ニホンゴ』を喋らず、口を閉ざしておこうか。

にしても魔法がない世界の言葉が魔法を使役するとはまた、皮肉な」

 はっ、と馬鹿にしたかのようにリュートは息を吐き出した。別に秘密にわざわざしていたわけではないだろうが、異世界語の奇妙さとこの世界の言葉の差異を笑ったかのように見えた。…………言語体系の違いに随分と苦労していたように見えたし、な……。やりたくても出来ない魔法を使う言語が完璧に話せるなんて、この言葉に苦労し続けたリュートからすれば本当に強烈な皮肉だ。


 リュートが口を閉ざすと、夢見がちな気持ち悪い表情を浮かべたルチェが代わりに話し始めた。


「じゃあさ、質問だけどリュートは女の子の気持ちが分かるんだよね?女の子だったんだよね?」

「…………前世から女らしくなかったが、まぁルチェよりは分かる……と思うが。恋の話はオランにでもしてくれると助かるんだが。まぁ、女だったな」


 夢見がちにキラキラキラキラとした、何時もの「リュートを尊敬してます!」、「リュートが大好きです!」と言わんばかりに輝く目でルチェはリュートに迫る。リュートは俺ならする、後ずさりこそしなかったが、浮かべていた仮面のような笑顔がぴしりと引きつったのはありありと分かった。心なしか目が死んでいる。止めてくれと唇が動いたが、ルチェは気にもとめなかった。


「……あ……そうだ。リュートって小さい時から記憶があるんだよね?」

「……ん、そう言ったが」

「なら、小さい頃の馬鹿な僕や生意気王子黒嫌いなオランの事もしっかり覚えてるんだよね?」


 一応、非常事態であるのにルチェの阿呆くさい質問は続く。それに嫌な予感しかしなくなってきたが……………。溢れ出る危ないオーラにとうとうリュートは浮かべた表情を無くしてゆっくりと後ずさり始めた……。おい、そっちは湖だぞ?


「そ、そうだな。小さい頃から弓が得意だったな、ルチェは。それから、あの頃のオランは記憶への刷り込みで俺の黒髪にとやかく言ってたが、今は無いよな……」


 やや震えた声で十年前の当たり障りのない出来事をボソボソ言うリュートは冷や汗を垂らしている。見てるだけで哀れになってきた。見ているだけの俺も分かるほど悪化していくリュート厨、気持ち悪さなら無駄に最高レベルのルチェにただただ引くばかりだ。俺は当事者でないからこそまた余裕はあるが、迫られ追い詰められるリュートにはたまったもんじゃないだろう。


 心を安らげよう。そうだ……あの、ふわふわした髪のあの少女アヤカがルチェの熱愛に迫られて告白されていると見ればまだ視界の暴力ではないかも知れないな……。だ、だめだ、それだとルチェがロリコン……いや、変態になってしまう。……今更か。ルチェの、熱烈に大好きらしいもまぁまぁ童顔だったな、そういえば。一途だからそれないとは思うが、親戚としてリュートを助けたい。無論リュートの友としても。親友で従兄弟のルチェから救うとは意味が分からんが。


「恋バナなんてわざわざリュートが聞いてくれなくても阿呆ほどオランが語るからそういうのはいいんだよ!そうじゃなくて……その……」

「あのな、ルチェがもごもごしたら状況が分からなくなるからはっきり言え。リュートにはっきり喋って貰わなくてもお前がはっきり言え」


 リュートにまともな滑舌を望めるのは魔法で翻訳している間だけだからな、ルチェがはっきり喋らないと状況が全く分からなくなるんだよな。

オランが辛辣。

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