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「賢者、この女って……?」
全く何があったのかが分からない、とばかりにふらふらと視線をさまよわせる、精霊らしきその女は言葉少なに喋った。でも、とても不安げに立ち竦む彼女にはいまいち言葉が通じていない気がする。舌っ足らずで文法も何もない。知り合いで喋るのが苦手に見えるのはリュートだが、ここまでは酷くない。
リュートに憑いてたのだがら、共通点を探そうと彼女を見やる。ふわふわした黒髪の毛の長さは、髪を切ったリュートぐらい、目は黒色で優しげな顔立ちには少しリュートを感じる。眠るように時が止まっている、金髪のリュートと足して割れば…………間違いなくいつものリュートになると確信した。でも見た目の年齢は十五歳ぐらいに見える。童顔だからその通りに見ると十三歳ぐらいかもしれないけど、多く見積もった。兄弟ぐらいには、似ている。
「……精霊、だよな?透けてるし」
「それならば魔力がある筈だ。
何の魔力も感じ取れない。…………むしろ我には彼女から魔力が感じ取れない」
あの賢者も困惑したようにしているのを見て、今度はルチェに視線を移した。
食い入るように少女と金髪のリュートを見比べ、うんうん唸っているのを見て、こいつも少女が今までのリュートに似ていることに気づいて、でも関連性に葛藤しているんだと思った。
『私……リュート……、どうして……いる……ルチェ?』
「…………君はリュートなの?そうじゃないの?」
どこか夢見がちな一所になかなか定まらない目だが、一応ルチェを見た彼女は、近くにいるルチェに問いかけた。だがルチェが返したのは質問。……、…………言葉が分かっていないように見えるのに、質問を返していいのか俺には分からない。
『私……リュート、そう。私、リュート違う』
「どっちなのさ!」
癇癪を起こして叫んだルチェの傍ら、賢者が魔法の光を金髪のリュートに浴びせたのは同時だった。
・・・・
・・・
・・
・
「傷が……治った?
リュートは魔法が効かない筈じゃ?」
「精霊の力で魔法が効かないなら分離している今なら効くと思ってね」
リュートの時を動かしながら、賢者は事も無げに言う。リュートの怪我が治ったのはいいけど、精霊はどうするのさ?
「さてと。剣士殿、気分は如何かい?」
「…………、最悪だ」
パチパチと目を瞬かせながら答えたリュートの言葉に、やっぱり今のリュートは何時ものリュートではないんだ……と思わせた。
賢者に何故か敬語を使ってたリュート。舌足らずなリュート。そんなリュートはいない。
彼はリュートじゃない。だってリュートは敵に向ける鋭い目を僕に向けない。
『……二人?』
「何で彩花がここにいる?」
二人の声が見事に重なったのを聞いて僕は我に返った。暗い意識から目を逸らし、少女と青年を見比べる。金髪に金色の目の青年は、叔父さんによく似ていた。少女は、別に叔母さんに似ているわけではなかったけれど……。黒い目に黒髪。魔族の象徴の色だけど、嫌な感じはしなかった。
『……私、リュート、あなた……?』
「××……×××××××××……」
リュートが不思議な言葉で彼女に話しかけた瞬間、アヤカと呼ばれた少女は花のように笑った。笑顔はまるきりリュートで頭の中の疑問が深まっていく。幼なじみは、親友はどこへ行ったのかと不安だけが募っていく。
『××!×××××!』
「…………翻訳の魔法を剣士殿にかけたいな」
「構わない。
××××××、××××××××××××××」
意味の分からない言葉で話し込む二人に賢者は溜め息と同時に、眩く青い光をリュートに浴びせた。リュートにかかった光なのに何故か精霊にも青い光がかかり、体が光っていたように見えたけど……。
『何故私はここにいるの?私は死んだんじゃなかったの?私はリュートじゃなかったの?』
「待て、質問には答える。とりあえず何故彩花がここにいるかは知らん。彩花が死んだか死んでないかは記憶にない。あと俺と彩花は同一だ」
『……なら、……』
一気に意味の分かる言葉に変わった二人に賢者が質問を投げかける前に、精霊はふわりとリュートの体に溶け込むように消えてしまった。
毛先から黒に染まっていくリュートがいつもの姿に戻ったとき、賢者が力尽きたように崩れ落ちた。
「賢者様!」
「瞬間移動に時を止め、回復魔法の最大に翻訳……疲れたよ」
ぐったりした賢者に駆け寄るリュートは普段のリュートにしか見えなくなっていた。精霊とリュートはどんな関係なのか。何故精霊の名前をリュートが知っていたのか。世界に司る筈の精霊が言葉を話せなかったのは何故か。
「…………すみません、俺が浅はかだったばかりに……」
滑らかな口調のリュートに、今は何もいえずにいた。
あの少女の優しげな風貌と、きつい金髪の青年の顔立ち。リュートは確かに二つを持っていて。僕はもう何も言えない。
彩花
リュートの前世の名前。精霊扱いされているがどちらかといえば幽霊。魔法が効かない以外に特徴はない。記憶が中途半端。




