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「元王城に行けばいいんですね」
「えぇ。今は魔王城にされてしまっていて……」
翌日、荷物を纏めた……といっても服を着替えて剣を担いだだけだが……俺達は母さんに魔王の居場所を聞いてすぐに向かうことにした。部屋から出れば半分の確率で俺達は魔王に見つかっていることになる。ならば早く行ってやればいい。
あと、一人で行くつもりだったんだがルチェは当然のようについて来るし、オランは我が家の変貌っぷりが知りたいらしい……ルチェに言わせればつんでれ?らしい……、何故か賢者様も魔王に因縁があるとかでついてきた。父さんは顔を良く知られているからパスらしい。
魔王に因縁って、賢者様は何をしでかしたのだろう……?
「道は分かるかい、見習い勇者殿?」
「方角なら分かります。幸いにも高い建物はあまりないので最悪乗り越えます」
今日も怪しげな服……今日怪しいのは色だな、怪しい服を来た賢者様はフッと笑った。あまり嫌みではないが、クールになりきれていない残念な空気がそこらに漂う。
「我を誰だと思っているんだい?」
「ミーミルファンの賢者様です」
よく見えないが、何とも言えない色の髪を持つ賢者様がどや顔をしている気がした。腰に手を当て、……これは完璧に威張っている。残念な空気がさらに充満した。
「賢者である前に我は魔族だよ。家を乗り越えたりするのは魔法でしか出来ないよ。魔法で空を飛ぶなら『瞬間移動』の魔法の方が楽だよ!」
楽アピールをしている賢者様には本当に悪いが、ルチェはともかくオランは結構魔族になりかけていたらしいし(王族の英才教育には魔法が含まれていたらしい。ルチェと違ってなかなか実用レベルの魔法が今でも使える)俺なんかやってみたことすらないから安全圏だが……ここに来た時点で拍車がかかっている。出来れば止めておきたいが……。
「この部屋から外に出れば瞬間移動をしようとしまいと同じくらい魔力を浴びるから気にしないで、剣士殿。技術者殿はそう簡単に魔族になったりしないから」
……結局言い込められて魔法で移動させられた。
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「……これはこれは。飛び入りのお客様のお出ましではないか」
薄暗い部屋に突如現れた四人の男。一人は見覚えのある魔族だ、人間あがりだが。そして別の一人は鏡で見たような顔に少し似ていた。
「……やぁ、魔王シド・ディッダ……久しぶりだね」
「ミーミルファンの賢者か……」
見覚えのある魔族は馴れ馴れしく笑いかけてきた。勿論その目は笑っていない。目は殺意が混じった色をしていた。好奇心を満たすことにしか興味がないと思っていたこの賢者と呼ばれる魔族は……人並みに感情を露わにすることも出来たらしい。
「……はて、私はそなたらに何か恨みを買わせるようなことをしたのかな?」
「…………ミーミルファンを知っている時点で想像は容易いだろう、魔王め」
銀髪の背の高い青年が低く答えた。ふむ、ミーミルファン…………成程、賢者に隠れてよく分からなかったが人間か。面白い。醜く汚い人間も生き残って復讐しにくるなど。我々真なる魔族でも想像出来ていなかったな。あの報を聞くまでは僅かに残った軟弱で中途半端なだけである下等生物の寄せ集めだと思っていた。
「ほう、人間にはまだ『勇者』になろうと足掻くだけの力があるとは」
「勇者なんて誰も求めていない」
また別の金髪の青年が答えた。ん……?あの顔立ちに金髪、青い目……もしや。
「これはこれは。旧王国レッサヴィーラの王子殿下がわざわざ来られるとは光栄な」
「俺は王子の称号なんてどうでもいい、皮肉げな笑いが不愉快だ」
レッサヴィーラの王子は忌々しそうに言い捨てると睨んできた。煌々と燃える憎しみ。素晴らしい、十年もの時を生き延びてそれだけの力があるとは。
「ふむ。では何のようかね、鴉色の勇者殿?」
真ん中にいながら、未だに一言も喋らない青年を真っ直ぐに見つめながら問うと、剣が目前に迫っていた。
・・・・
・・・
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「…………×」
剣を構えて迫るリュートを見据えて一言、魔王から言葉が飛び出す。意味は分からないが魔法の鍵の言葉だったらしい。
今までに見たこともないような巨大な炎がリュートを焼き尽くそうと燃え上がった。熱気は顔を焼くようにこちらにも迫ってくる。
成程、側近もなく魔王が一人でいる訳が分かった。強いから護衛がいらないからだ。
僕としてはリュートが心配だから慌てたいところだけど、今は黙って見ておく。矢はきっと燃え尽きるから無意味だろうし。
「……人間風情が剣を向ければこうなると、賢者は人間に教えないらしいな。無知な」
おどろおどろしい魔王の声に体が震え出す。気にしないようにしていたいが、どうにもならない。本能が、魔王を全力で拒絶する。本能が、魔王を本気で怖がる。リュートのような強者に惹かれるように。




