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「……賢者様、先生を、炎で送ってくれませんか」
「……ん、あぁ、君たちは火葬が主だったね……我が魔法でいいなら……アルバ殿を送ってあげようね……」
泣いたせいで無理やり絞り出した声は酷く掠れていたが、今は気にせず言葉を紡ぐ。大の大人で、今は男である俺が泣き喚いたことは恥ずかしいが、今は静かに先生を見送らないと……。
「…………歴史に名を残すような、偉大なる剣聖に相応しい炎で送ろうね…………『葬送火』……」
ふと、懐かしい日本語が聞こえた気がしたが、今はそれを気にしている場合ではない。
賢者様の言葉と共に足先から眩い太陽の光のように輝いて、ゆっくりと消えていく先生の姿を目に焼き付けたいから。俺が…………先生の敵討ちをするから、見守っていて欲しい。そんな思いを込めて。立派で、優しく、強い先生を、送らないと……。
「…………きっと、敵討ちを、成し遂げます、先生……」
悲しみに彩られていたはずの俺の顔がだんだんと能面のように無表情になっていくのを自覚しながらも、それを変えずに誓った。深く、深く、心に刻み込み、誓った。父さんが咎めるように此方を見てきたが、何も言わなかったし、俺の言葉に反応してビクリと顔を上げたルチェとオランも何も言わなかった。
さぁ、魔王を倒しにいこうか…………。
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伝承は古く、その存在は古来よりあり……と伝えられる勇者と魔王。
今や人間の大多数が魔族と化した今となってはより深く知られていて存在が確認されているのは勇者でなく、皮肉にも魔王であったが…………四六時中命を握られ、時には人間のままであった為に家族は逃げ出すしかない状況で、時には殺され……。魔王に本心からの忠誠を誓える者など、人間から成った魔族では極少数派で。
魔族達は密かに願う。生き残った筈である僅かな人間に求めるは…………伝承の勇者。最早伝承にしか残らぬ光のその者を望み、渇望し、時には狂わんばかりに求め…………その結果、一人の復讐に駆られ、敵討ちに燃え、至上最強にして人間である、一人の剣聖を、勇者と成した。
それは魔族達の深い望みが具現化された物であり、剣聖の復讐心が成し遂げた物であり、…………。
後々、長きに渡って語り継がれるその勇者は……憎き魔王を討ち、敵討ちを成し、ある意味では世界を救い……そして、…………何を思うのか。
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「……………………」
「待ってよ、リュート」
アルバさんが光の中に完全に消えた瞬間、リュートはおもむろに立ち上がって近くにあった自分の、村から持ってきた大剣を引き寄せた。
そして扉へ向かって歩き出し、どこかへ行こうとしたのを僕は取り敢えず止めた。
「…………、ルチェ、何だ?」
僕の言葉にゆっくりと動きを止め、こっちを振り返ったリュートの顔に浮かぶ表情に、僕は泣き出しそうになった。あの、昔の、ここにいたときの無表情よりも…………人間味を欠いた表情だったから…………。
村での、生き生きと輝いていた、リュートはいない。金色の目にも、整った顔にも生気は宿っていない。ただただあるのは復讐心と憎しみだけだった。…………これなら、感情を露わに泣き叫んでいた方がずっと、ずっとましだよ、…………。
「リュート、…………そんなにすぐに乗り込んでも、きっと体力が持たないよ」
リュートの静かな決意は、止めても無駄だってことはすぐに分かった。それに、実はリュートは止めて聞く性格かというとそうじゃないってことも、僕は知ってる。だから、せめて一日ぐらいは引き止めようと本心とは別の事を言う。本当は、リュートに復讐とか、して欲しくないし、リュートが死ぬかもしれない所に行って明らかに勝率が低い戦いに、臨んで欲しくないから…………。
「…………、そうかも、な」
こちらを見るリュートの顔からゆっくりと鬼気迫る勢いが削がれていくのが分かった。あぁ良かった、冷静にはなってくれた。リュートが少しでも「今は無理だ」ということを思ってくれれば、優しいリュートは僕の言葉を無碍に出来なくて引き止められる。本当は、そんな卑怯な真似で引き止めたくなかったけれど……。
止めたいよ、だって魔王は…………あの悪夢のような数の魔族と比べ物にならないほど強いらしいから、リュートでも勝てない……かもしれない、から。
「…………、分かった、ルチェ。今から乗り込むのは止そう」
僕の無言の訴えに気付いてくれたリュートは、小さく溜め息を吐いて言ってくれた。
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「…………ミーミルファンの賢者」
薄暗い魔王の間で不気味な声が響く。賢者の声のように、不思議な響き方をする声で。
「アースルヴァイツの賢者、キルディエット」
忌々しそうな声色に変わった声は次々と人物の名前を挙げていく。
「弓士、ルシェヴァルツのルーウェンス……」
不気味な声は、リュート達の味方の名前を言い続け、それが終わると…………一際不気味に高笑いをしたのだった……。
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