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misunderstanding  作者: ryure
第三章 蛮族の剣士と最速の狩人
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 数だ。敵の数が多すぎる。でもこうして全員が生きているのも、リュートが単身捨て身で斬り込んで何とかその敵の数を減らしているからだ、だからこそなんとかなっている。でも。数が多すぎる。何故、ここに来れる魔族がこんなにいるのだろう?村の賢者級の力の魔族がこんなにいるはずはない。賢者は、賢く、強いからこそ賢者と呼ばれている。賢者の強さが当たり前ならば魔族も脅威に思って追い出したりはしないし、僕らもそう呼ばないだろう。ここへ攻めてきた魔族の数は村のみんなの数はもう、とっくに超えている。


「ぐわぁぁぁぁっ!」

「こ、この人間がっ!うわっ!」


 時折、魔族の悲鳴が聞こえる。ハッとして僕は槍を片手に近寄ってくる魔族に矢を打ち込んだ。側にいるウルガさんがたまにくる矢を払いのけてくれていなかったら僕とオランは死んでいただろう。そのオランは自分の手当てを終えて、爆発する玉を遠投して戦っていた。火薬入りの玉だ。一種の錬金術師に近い力を持つオランは、魔法をギリギリまで抑えて虚空から火薬を生み出した。勿論、普段はこんなことをしない。魔族になりたくないから。でも今はそうは言っていられない…………!


「魔法かっ?!」

「違う、魔力がない……っ!う、腕が……!」


 オランの武器の威力は思いの外高く、滅茶苦茶になった魔族の惨状に思わず目を逸らし、リュートの背後に忍び寄る魔族に三連打で矢を射った。この矢も、今は湯水のように使ってやる、いざというときのために大量に作っておいたのだから。ふと見えたリュートの背には無数の切り傷と矢が刺さっているのを見つけて、やるせなくなった。僕の弱々しい回復の魔法は、とてもじゃないがあれほどの傷は治せない。


 猛然と剣を振るリュートは、常に五対一以上で戦っている。弓の援護はリュートに当たらないようにしないといけないから、そうそう出来るものじゃない。だから、ひたすら射る。剣聖と呼ばれたアルバさんは、リュートの方へ斬り込みに走っていった。


「リュートの坊主ッ!無茶すんじゃねぇッ!」

「無茶じゃねぇよッ!」


 全身血塗れで、体と同じく血ですっかり輝きを失った大剣をリュートはまた魔族へ叩き込んだ。


・・・・

・・・

・・


「婆様はまだかっ!」


 悲鳴混じりのウルガ殿の声。目の前で魔族を薙払うリュートの坊主もだんだんとイライラしてきたようだ。その、今居る中で誰より小さい体は血でびっしょりだった。


 もう子供ではない、坊主は。俺よりもう剣は上手い。俺が踏み台となり、坊主は見事、「剣聖」を超えた。教えることは最早何もない。

 だが、坊主はそれでも俺にとっちゃあ坊主だ。ウルガ殿には悪いが、息子のようだ。しっかり者で、高潔で、誰よりも真っ直ぐだ。


 坊主、気付いているか?魔族が怪しい術で次々と雑魚共を送り込んでいることを。知っているか、真なる魔族がどうだの言っていたが、ここへ送り込まれてくる魔族はその「真なる魔族」の落ちこぼれで捨て石でしかないことを。

 豚のような魔族でも、最初にいた魔族でもなき奴が送り込んで来ているんだ、多分賢者殿でも止められないんだよ。薄々気付いているだろう、俺達が押されているのを。賢者殿も加勢し始めたが、もう無駄だってことを。


 ふと二十年前を思い出す。リュートの坊主が生まれた年を。


 獣人の俺は、人間に見下され、魔族に殺されかけながらも「剣聖」になったんだ。「剣聖」の称号があるならもう不必要な蔑みは無いと思っていたんだ。だが、違ったんだよ。人間は、俺を排除にかかった。

 そっから五年は、地獄だった。

 光が差したのはリュートの坊主に出会ってから。アースルヴァイツの人間に会ってから…………。


 暖かい笑顔を、シェーラ殿から。対等に接してくれたのはウルガ殿が初めだった。「先生」呼びも初めてだったなぁ……。


 なぁ、リュディトゥ。もう限界だろ?ちっせぇ体に何本矢が刺さってんだ。小憎たらしいオラニウスだって一本の矢であんなに弱ったんだ。な、リュディトゥ。もう休めよ、膝が揺れてんぞ?

 なぁ、リュディトゥ。最近は柔らかくなった目つきがあの時よりも吊り上がってんぞ?シェーラ殿とウルガ殿の息子何だから、もっと顔を磨け。そんな汚い血で汚すんじゃねぇよ。もう駄目なんだろ、力が入らないんだろ?

 リュディトゥ。な、リュディトゥ。


「賢者殿っ!」


 次々と沸く魔族を倒し、リュディトゥに近付きながら言った。賢者殿なら出来る。幸いにもルーウェンスとウルガ殿がオラニウスと固まっているし、近くに魔族はいない。リュディトゥは俺が庇えば大丈夫だ。


「魔族を一掃してくれっ!」


 賢者殿の不思議な目が瞬いた。魔族は魔法に耐性がある。だが魔法の高位に位置するものには所謂「物理攻撃」を生み出すものがある。それならば魔族は倒れるだろう、賢者殿なら一掃出来るだろうな。だが、魔法に何故か強い耐性があるリュディトゥも死んでしまう。リュディトゥを庇えば…………それで大丈夫だ。


「……分かった。勇気ある者よ。正義の剣聖よ、その命、承った」


 賢者殿の声は小さかったが、聞き取れた。聞こえた瞬間にふらりとよろめいたリュディトゥを、庇うように押さえつけた。カランと剣が落ちる。


 次の瞬間、降り注ぐ槍が俺を貫いた。だが、リュディトゥは離さない。死なせて…………たまるか。



 もがくリュディトゥを最後の力で押さえつけ、そして…………。


「先生っ?!先生っ?!

う、うわぁぁぁぁッ!先生ッ!」


 全ての敵が消し飛んだこの愛しい村で。愛弟子の悲鳴が響いた。


「ごめ……んな、ぼ、うず。

生きろ……な?」


 絞り出した言葉は、聞こえただろうか。それだけが、心残りだ。

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