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misunderstanding  作者: ryure
第三章 蛮族の剣士と最速の狩人
30/73

外伝1

時系列はバラバラですが、何歳か分かるようになっています。二編の短編です。

『オランの意外な趣味』


「おぉう……青春……」

「何見てるんだ?オラン」


 木の影に隠れてこそこそと誰かの家のほうを覗いているオランはびくりと肩を揺らした。覗きは駄目だ、覗きは。女であった俺としては覗きがどれだけやられる方が怖い目に遭うのかが分かるから絶対に止めたい。

 今なら別に覗かれたって男の体だ、気にしないがな。流石に十五年も男をやってたらそう女々しくもなくなる。……そういえば俺が前に死んだのは十五歳だっけ。


「あ、何だ、リュートか……」


 ホッとしたように息をつくのを感じて、訝しげにオランを見る。木陰で、しかもオランは黒い服を着ているから傍目には目立たないだろうが、俺にはとても見辛い出で立ちのオランは、せっかく目立つ金髪をフードを被って隠してしまう。今のように向かい合っていれば見えるが、正直家では間違えて蹴り飛ばしそうで怖い。オランはいつも床に座って何かをしているからな、すごく蹴りやすい位置に頭がある。何度寸前で足を止めたことか。今度目立つように赤色の染料を頭からぶちまけてやろうか。


「ルチェだったら騒ぎ立てる、アルバ殿だったら大丈夫、ウルガ殿だったら説教だ。リュートは安全圏だな」

「何の話だ」


 ルチェとは違うが妙にキラキラとした雰囲気で、ここ数年見なかったようなはっきりとした物言いで言い始めた。


「ちょっと物語チックな恋愛劇を見ててね!薄幸の少女と強気な少年の恋物語……なんて王道なんだ!それを言うならリュートは王道物語の王子や騎士のような容姿をしているから早く健気な美少女と恋愛してくれないか!」

「巣に帰れ」


 オランの言葉は滑舌よくわかりやすいようにしっかりと話してくれるから聞き取りやすいな……こういう時に限って一字一句間違いなく聞き取れてしまった……。


「リュートはそういう恋愛物は嫌いか?」

「読むことが苦手だ。……おい、その本どこから出した」


 ニタァ……と笑ったオランはどこから出したのか、辞典のように分厚いピンク色の本を取り出した。嫌な予感しかしない。


 余談だが、前世から恋愛物は苦手である。砂糖を吐き散らかしたくなるような甘いシチュエーション、蜂蜜が口から出てきそうな甘い関係、歯が浮くようなセリフ。反対に悲壮な恋の話は平気だが、明らかにオランが持っている本が醸し出す雰囲気はベタな恋愛物だ。


「読んでやるから聞いてくれ!」

「頭から染料をかけてやろうか?それともその貧弱な腕を噛みきって欲しいのか?剣で胸を一突きでもいいが?」


 思わず本を開いて読み始めようとするオランを脅してしまった。怯えているが、自業自得だ。お前、そんな趣味があったのか。俺のいない所でしてくれないか……?


「リュートが言うと口説き文句に聞こえるな、このイケメンが。俺にじゃなく、三本樺の横の美女、アデリンにしてきてくれないか……?」

「何故土下座する」


 誰が口説き文句だ。全部実行すれば酷い目に遭うのはお前なんだが。赤い染料は濃いままだと火吹き草の毒で死ぬし、腕を噛みきったらまず死ぬし、胸に突き刺せばまず間違いなく死ぬと思うんだがな。


 その後一時間ほど甘ったるい恋愛話を聞かされた俺はオランの服を赤く染めてやったのは言うまでもない。ただ、次の日にはそれはルチェの所有物になり、オランが部屋の端で灰になっていたが。ルチェ、ありがとう。


 オランの趣味とは、意外にも恋愛小説が好きだというやや乙女チックなものだという……。


『リュート会その後』


「えーー、ルチェくんはリュートが十歳の頃まで我がアースルヴァイツ家にて『リュート会』なるものを行っていたのを知っているか?」

「えっ、何それ知らない」


 木の上の家から、剣のメンテナンスをしているリュートを穴があくほど凝視していたルチェは突然声をかけられた。


「ふむ。会員は俺とシェーラ、メイド達だったが……現在も一人で運行中だ、入会は?」

「するっ!」


 決してルチェはあの頃のように語り始めたりはしないが、頭の中ではあの時以上に強化されたリュートに対する様々な褒め言葉が連ねられているのが分かる。


「叔父さん、もう僕その会から脱退しない……!むしろ僕が乗っ取ってリュートを、あの格好良くて素晴らしい僕らの英雄をずっとずっと崇め称えるんだ……!」


 訂正しよう、ルーウェンス十七歳は今も語り癖の治らぬただのリュート盲信者であると。


「……ルチェくん」

「何、叔父さん」


 暴走はあまりしていないものの、今にも爆発して長々と語りつくしそうなルチェをまじまじと眺めるウルガはまだ、常識的でかつまだまともな人間であることが分かる。ウルガ自身もかなり常識から逸脱した人間であるが(あの魔国と化したレッサヴィーラで長年人間であったこの村の先住民以外は皆だが)、ルチェのリュートの盲信ぶりはあまりにも異常だった。


「リュートが、そうだな、そう格好いいだのクールだの……というのは分かる。だが……何故そこまで盲信するのだ?」


 そのため、思わず言ってしまったとばがりに禁句を犯すウルガだった。ルチェにそのことを尋ねるのは暗黙の了解で聞かないことになっているのに……。


「リュートを崇め讃えて信仰して祭り上げて格好いいと褒めて敬わなくて誰を称えるのか……叔父さんには分かる?」

「…………」


 その時のルチェは誰がどう見ても危ない人間だったという……。


 現在のリュート会会長は言わなずもがな、ルーウェンスである。



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