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misunderstanding  作者: ryure
第一章 剣士の誕生と彼の苦悩
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『2』

 あれから時は過ぎ………………現在、俺は前の暦でいう五歳だ。それより前はほとんど羞恥しか無かったから割愛させていただこう。色々と判明したことはあるが。それは後にとっておこう。どうせ分かることだし。

 幸いなことに一年というのは前とさほど差はなく、一日もほぼ同じ長さだ。感覚がおかしくならなくてよかった。


 時間とともに変わったことは、滅多なことでは前世の口調が出なくなったことと、男としての自覚だ。それ以外は言葉が大体理解できるようになったことぐらい………………でも無かったか。結構いろいろある。それにそろそろ物心もついているだろうし、少し無茶してもやんちゃな少年、で済まされると思う。やってみたいことが沢山あるんだ。

 野を走り回りたい。自由に言うことを聞く体で太陽の光を浴びたい。夕日をぼんやり眺めていたいし、食べれなかったものも食べたい。天命を全うしたはずなのに俺はなんて欲深いんだろう。


 一番変わったことといえば…………そうだな、剣が使えるようになった。ほんのたしなみ程度のそれなり、だが。腕前は当たり前だが、とてもじゃないが大人には適わない。だが、ある程度年上のやつには負ける気はしないな。うん、努力とは重要だな。体がずいぶん軽いもんだから精が出る。前世では無理だった速さで走り回って、


「リュート、来なさい」

「…………はい」


 ただ、面倒なことに、言葉への理解は「大体」だ。そうだ、大体理解はしているんだ。これが英語なら、間違いなく教師レベルだろう。ただ………………俺は壊滅的に発音が下手なのだ。日本語に慣れきった発音しか出来ない。短い言葉でなければ未だにまともに話せる気がしない。出来る限り短く言葉を話しているうちに…………言語の知識までもが崩壊した。読む本だって幼児向けの絵本で精一杯。これ以上難しい本だと全くわからない。教育が始まったら必死で覚えるしかないな。聞くは一時の恥聞かぬは末代の恥、だ。

 今は舌っ足らずな発音で分かる限り短い言葉で返すしか無い。なんて俺は無愛想な子供なんだろう。もっと無邪気なふりをすべきか。だが今の俺には無邪気さを演出する喋り方すら分からない。文字も読めないのだから本からも学べない。


 にしても、父上は何の用だろう?俺に話しかけることは少ない。と言うより、話しかけてくれない。言語知識がつかないじゃないか。それに友達もいない。貴族だからしかたがないのか?大分悲しい。

 せめて、せめて一人でいいから友人を作りたい。そうでないのなら親戚に子供はいないのだろうか?もし従兄弟がいるのならば会ってみたいな……いないのなら絶望しか無いが。今世でも孤独なのか……?


「今日からお前に家庭教師をつける。リュートは学園などに通わないから、しっかりと学習するようにな」

「はい、父上」

「それと…………剣の先生もつけよう。名高い剣士だ。仲良くするようにな。勿論、魔法を習いたいなら教師をつけるが…………どうだ?」

「ありがとうございます。私に魔法は必要ありません」


 リスニングは得意だから意味はわかるが、返事は簡単にしか返せないってわかるか?だいたいそんな感じだ。

 幸いにも、俺が長く話すことはそうないから何とはなっているが………………大きくなればそうはいかないだろうな。


 さっきの返答だって、もう少し子供らしくしたかった。父上の顔がもっと見たかった。でも目が悪い上に言葉がよく分からないのだ。魔法、というのはあの、火とか水とかを出すやつのことだが、そんなことをするよりももっと体を動かしたい。だから断ったんだが…………子供らしからぬ子供。生意気にも程があるだろう。何とかしたい。

 ……喋ったり本を読んだり愛想をふりまくよりも剣の方が好きだというアピールをすれば……まだましになるだろうか……。


 そうそう、今世の俺の立場は、伯爵の息子。「アースルヴァイツ」という中級貴族の次期当主らしい。でも母上曰く、なりたいものになればいい、だそうだが。そうはいかないだろう。母上や父上はそういうことに寛大でも…………周りの目とは恐ろしいものだし、身を任せれば、辛くとも絶対に職が保証されるんだ。その道に進まずして何をするんだ?剣士か?俺は嫌だ。せっかくいいところに生まれたのだからその道を進むよ。

 剣士は大変そうだ。文明はあまり発達していないこの世界だが、何故かなよなよとした細身の人間が多い。貴族だからか……?それにしても変なのだが。


「では、失礼致します」


 この言葉だけは、妙に明確な発音で言える。この言葉はこれ以上話してぼろが出る前に母上や父上から逃げる口実になるからだ。………………なんか嫌な餓鬼だな、俺。

 にしても、先生、か。やっとまともに話せそうだな。少し、楽しみだ。


・・・・

・・・

・・


「シェーラァァァァァァァ!うちのリュートくんがクールビューティ過ぎてまともに話しかけれないよぉぉぉぉぉ!もっと小さいうちは息子だろうと娘だろうと仲良くしたいのに!リュートくんの冷めた目が心を貫く!心が痛いよ…………」

「あなた。リュートは賢い子なんですから、あなたの深い愛情をちゃんと理解しています。

それに…………ママだってリュートくんをすりすりしてなでなでしてベッタベタに甘やかしたいのよぉぉぉぉぉ!リュートくんがクールに育ちすぎて出来ないのよぉぉぉぉ!」


 地下にある、アースルヴァイツ家秘蔵の書物が有る、かび臭い書庫にて。


 アースルヴァイツ家現当主、ウルガ・アッディ・ルシェヴァルツ=アースルヴァイツは雄叫びを上げる。息子がクールすぎてまともに話せていないという非常事態に、職務よりも頭を悩ませているのだ。もともと見た目は細身の金髪金眼、文武両道にしては武に長けていそうな見た目だが立派な剣士であるウルガは職務が大嫌いな…………息子に素直に接せない残念な大人だった。


 一方、リュートの母、シェーラ・スゥバァ・アディルフィーネ・アースルヴァイツも、息子を甘やかしたいのにそれが叶わないという、悶々とした日々を過ごしていた。

 何故なら、話しかけても初めての子どもということもあり、どう接すればいいのかが分からなくなったり、早々にリュートが自分の部屋に引っ込んでしまうからだ。


「今日な…………リュートに家庭教師と剣術の教師をつける、と言う話をしたんだ…………」

「まぁ!リュートくんと話せたのですね!」


 少女のようにはしゃぐシェーラと、微妙にうなだれた、若い貴族。シュールな光景である。この光景をもしリュートが見たのなら…………この後も続く勘違いを止めることが出来たのだが…………それを知る者は一人もいない。悲しい現実だった。

 リュートの孤独に気づけないこの両親もなんとかしてやればいいものを……。


 因みに何かと理由を付けなければ実の息子と話すことすら出来ないウルガはヘタレかつ親ばかであると明記しておこう。それも、重度な。


「リュートは、家庭教師をつける、ということに何の疑問も抱かなかった…………出来た息子だ!俺が子供の時は大暴れしたもんだ…………」

「私はメイドを総動員させる程逃げまわりました…………リュートくん、本当に賢い子ね…………」


 喜びを全身で表現するようにキラキラとした笑顔をシェーラに向ける、ウルガ。それを見て、喜びのあまり嬉し泣きをしてハンカチで目元を拭う、シェーラ。アースルヴァイツの愉快な人々は今日もまた絶好調だ。


「それから、剣術の教師をつける、といった時にリュートの目は輝いた!生きててよかった!」

「剣が好きなのね、リュートくん!誕生日プレゼントは聖剣とか、宝剣にするべきかしら…………?アースルヴァイツに伝わるレイピアなんかもいいわね…………いえ、リュートくんが喜ぶならば今すぐにでも!」

「シェーラ!そのことには賛成だがリュートは今ベッドの中だ!流石に真夜中に剣のプレゼントはまずいぞ!」


 暴走する両親を見れば、リュートは変わるのに。

 それに気づく由もない、アースルヴァイツの愉快な人々は今日も書庫を震わせる。親ばかが行き過ぎた結果、というべきか。


「その後に魔法も習うか?と聞いたんだが…………リュートはいらない、と断ったんだ…………!パパはリュートに魔法も剣も使う格好いい騎士になって欲しかっただけなのに!」

「魔法…………まずいわ、リュートくんが正しいわ。剣も魔法も使えて格好よくて、アースルヴァイツの次期当主だったらリュートくん、変な虫がついちゃうわ。魔法は危ないもの。リュートくんったら剣一筋ね!やっぱりクールビューティなのね!」

「リュートはやらん!」


 響き渡る笑い声。それが当事者であるリュディトゥに残念ながら届く日はない…………。


 かの有名な剣聖、リュディトゥ・スゥバァ・アッディ・アースルヴァイツと     の物語は始まったばかりなのだ。

 勘違いを勘違いで上塗りし、その膜が剥がれ落ちてもあっという間に上塗りされる勘違いの中で生きる者たちの物語は…………。

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