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misunderstanding  作者: ryure
第三章 蛮族の剣士と最速の狩人
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「流石だね、彼女と血の繋がりがあるだけあるよ」


 彼女、というのはきっとリュートの祖母の賢者のこと。あの人もあの人で魔王に目をつけられているけど、上手く立ちまわってリュートや僕達が殺されないようにしてくれた人だ。その代わりに彼女もシェーラさんと同様、魔国に閉じ込められてしまったけれど……。


「賢者様」

「あぁうん。わかったよ」


 別の話をしはじめそうな賢者にオランが声を上げ、オランの手から手紙を取ったリュートが賢者の手に手紙を戻す。手から手紙が離れた瞬間、オランはぐたりと下を向いた。


「……大丈夫か」

「……微妙……、なにこれ、気持ちがこもりすぎて気持ち悪いぐらい魔力が込められている……」


 僕には分からなかったし、リュートも賢者も全然そういう感じはないから……少し魔法をかじっている程度だと手に負えなくて、リュートや僕みたいに全然使えないなら影響がない……僕はかすり傷も治せないぐらいしか魔法が使えないし……、賢者ぐらいになると平気ってことか。


「……あぁ、オラニウスくんは魔力に当てられて死にそうだからそっとしておいてあげてね。下手したらこの手紙で魔族化しそうだからさ。

じゃあ読むね」


 何やら気になることをさらりと言った賢者はオランとリュートが握りつぶした手紙の皺を伸ばした。


・・・・

・・・

・・


「『私の可愛いリュディトゥへ

あの出来事から十年が経ちましたね。そちらにおられる皆様は元気に生きているでしょうか。この手紙も、リュートの読めない魔力のインクで書いていることを許してくださいね。人間に敵意のあるものの手に渡ると燃え尽きてしまうように呪術を施すには必要だったのです。そちらには賢者様が居られますから、きっと手紙の内容を知ることが出来るでしょう。

十年という月日は長い時を生きる憎き魔王にも長い時間であったようで、ようやく私と母様に対する警戒が薄まりました。ですが、この手紙がそちらに届く頃には私が手紙を出したことは分かってしまっているのですから、二度目の手紙はきっともっと先になってしまうでしょう……。

さて、リュートたちに重大な知らせがあります。そちら……未開の地は非常に魔力が少なく、魔族……私達にとっては息すらも毒のような場所です。ですから今まで魔王の毒牙にかかっていない土地だったのですが……近々魔王の侵略がその地にも及びます。十年で力を蓄えた魔王はその地を魔王の膨大な魔力で染め上げるつもりなのです。その前に、未開の地に生きる人間をすべて殺してから……。

リュート、その地を除いてこの世界に魔王から逃げる場はありません。私達にとってその地は生きられない場所ですが、賢者様のような存在には例外……また、逆に魔国にリュートやルチェくん……そうです、その地にいる、『染まらなかった人間』は魔国の土地に足を踏み入れても生きていけるのです。……顔を覚えられていない、リュートたちを除いた人々はいざとなったら魔国に逃げるようにお言いなさい。その人達はきっと助かりますから……でも、リュートたちは顔を覚えられてしまっています。ですから、いくら成長したとはいえその方法は危険なのです……ですから、母様がそちらに赴くことになりました。母様が、賢者のリュートのお祖母様がそちらに着いたら暫く戦いなさい。お祖母様が後はなんとかして下さいますから。

では、愛をこめて……。

シェーラ・スゥバァ・アディルフィーネ・アースルヴァイツより』」


・・・・

・・・

・・


 賢者様は手紙を読み終わると酷くゆっくりと丁寧に手紙を畳んで、封筒に入れなおした。そして目を見開いたまま微動だにしないリュートを伺いみた。リュートのすぐ後ろのルチェも、固まったままだ。多分、床にペタンと座り込んでいる俺も身動き一つ出来ていないのだろう。

 リュートの母君……シェーラ殿。昔に学んだことを思い返してみれば、リュートの当時の身分もすぐに分かる。隠された侯爵の息子。アースルヴァイツという侯爵家は伯爵家のふりをしていたが、そうではない。アースルヴァイツ侯爵家というえば現存する賢者の家系だ。あの方がやってくるのなら、魔王の進軍も平気だと思う。だが、それは身体的な安全のこと。ここに愛着のある者としてこの地を離れなくてはならないことはとても忌むべき事。


「っと、我は剣士の父と師匠を呼んでくるよ。よくよく考えるんだよ」


 しんとした雰囲気の中、少しかたい声で賢者様は言い、封筒をそっと窓際の棚においた。誰かに手渡さなかったことから、あの手紙にこもっている魔力は相当なものであることが伺える。


 賢者様が出て行った途端、リュートが頭を抱えて座り込んだ。


「ち、く……しょう!」


 悔しそうに叫ぶリュートはこの地を守れないと思ったのか。それとも、この地を離れないといけないことに対する苦悩か。どちらかは分からない。だが、いつもなら真っ先にリュートの側に寄っていくあのルチェがリュートの姿を見て動けないことから、苦悩が相当なのが分かる……俺は暗がり、隅に座っているから様子がよく見えないのだが。



オランの考えていることの正答率は二十パーセントぐらいです。残り八十パーセントはご察しの通り……。長い手紙ですから。

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