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misunderstanding  作者: ryure
第三章 蛮族の剣士と最速の狩人
26/73

『24』

 鬱蒼とした密林を疾走し、獣を見つければすぐさま狩る。獣はその首筋や、厄介な魔物に関してはひたすらに覚え込んだ急所を剣で一突きすれば容易く狩れる。走り抜ける速度はそのままに次々と獲物を狩り、それを肩に縄で結わえ付けていく。持って帰るのは小動物が中心だが……まぁ一匹ぐらいはでかい動物を狩っても運べるだろう、と仮定して目の前に現れた大鹿を仕留めた。勿論みんなで食べきれないような無駄な狩りはしていない。魔物であっても、俺達は食う。命が軽いこの地で好き嫌いを言う奴は居ない。毒を持つ動物すら、俺達は学んだ解毒術を施して食うのだから。

 さぁ、今日の狩りはこれぐらいにして村の皆の所に帰らなくては。今日は白い米が食えればいいな。誰か交換してくれないか……まぁ、運次第だ。農業に関してはさっぱりわからない。そういうことは頭のいいあいつに聞けばいい。俺はただ力をふるうのみ。老いれば死ぬ予定だ。


 様々な緑の素晴らしく鮮やかな視界は、幼きあの頃と同じく決して鮮明な姿は見せないが、瑞々しい新鮮な空気に程よい緊張。秒単位での命のやり取りに村での平和な空気。幼い頃からの親友と信頼の置ける父親、絶対的なる師匠と新たな友。あの煌びやかな日々は二度と返って来ないだろうが、俺は今、幸せなんだ。


 密林を駆けるリュディトゥは、すっかり変わり果てた自分を見下ろし、肉食獣の獰猛な笑みを浮かべた。たなびく黒髪は、長くなり、無造作に結われていてかつての繊細な少年の面影は殆どなかった。そこにいたのは、気高き者達の王者であり、名だたる剣聖である青年のみ。


・・・・

・・・

・・


「あ、リュートだ。お帰り」

「あぁただいま」


 声変わりしてすっかり低くなった声だが、あの頃と変わらずよく懐いてくれるルチェと短い言葉を交わし、肩の獲物をどさりと地面に下ろした。焚き火の前で鳥の羽をむしっていたルチェがふと顔を上げる。相変わらずどんな表情をしているのかはよく見えないが、きっと穏やかな表情をしているのだろう、ここに来たばかりとは違って。よく、ルチェに懸想している娘が優しい顔をしていると言っているからな。


「そういえばオランがリュートを呼んでたよ」


 オラン…………あのオラニウス王子のことだ。俺達がここへもう、来て十年経った。俺達は二十歳だ。そうだ……あの出来事から十年が経ち、すっかり俺達の見た目と心は成長した。……俺は中身に関しては大して変わっていない気がするが、まぁ、多分変わったのだろう。そして俺の言語能力と目は癪だが治っていないが。まぁここでは言葉は短くても、砕けていても、少しばかりおかしくても通じるし、この大自然の中では俺の視力で不便はない。あの頃はちょっと裁縫をやればすぐに手が血塗れになったもんだが……まぁこの話しは止そう。俺はもう裁縫をしないし、細かい作業は出来る人がすればいい。


「オラン、か。毛皮が要るのかも知れないな」


 狩ってきたばかりの獲物にそのオランが作った、動物型の魔物の骨で出来た剣を首に突き刺して血抜きしながらルチェと話す。そのルチェは俺より頭一つは大きくなり、筋骨逞しい弓専門の狩人に成長した。一応俺も背は伸びたが……まぁ、あの頃のように生っ白く青白い不健康な体では無くなった、とだけ言おうか。でも相変わらず俺は貧弱だ。髪は伸びたがそれはどうでもいい。前と同じく結んでいるから気にならない。


「そういえばリュート、鳥食う?」

「あぁ。なら適当に何か持っていってくれ」


 ルチェがおもむろに丸々太った鳥を見せると、話し出した。物々交換はよくあることだ。ルチェは本当に腕がいい狩人だから、肉には困っていないだろうが。ルチェの弓を遠方から浴びせられれば全部はいなせる気はしない。近い距離なら打ち手を先に殺れば済む話だが……って何の話なんだ。


「じゃあ何かふわふわの毛皮のやつ……」

「手袋か?」

「うん、そう」


 俺は地に足を着ける獲物なら逃がさないが、ほとんど鳥は狩れない。が、ルチェは鳥はこれこそいくらでも狩れるが地の獣は狩りにくい。だから獲物の物々交換は日々行っている。

 今回はルチェの手袋の毛皮が磨り減った為、毛皮の良い獣が欲しいのだろう。ふわふわの毛皮で手袋が出来るかは知らん。冬用かも知れんが正直最近はそういう私事についてはお互い知ったこっちゃない。……いや、俺が無干渉なだけか。ルチェはうるさいほどに俺の方に口出しする。服の綻びぐらい俺は全く気にしないが、目がいいルチェには気になるのか。まぁそこら辺は好きにさせている。自分の服すら丈夫で動きやすいのならいいぐらいで、気にしているのは首につけた飾りぐらいか。あの頃の服のボタンで出来ているから替えの作りようがないからだが。しかし……ルチェは目ざとく怪我だの綻びだの見つけてはなんとかしてくれるが、そういうのは娘たちにしろ。俺の前世は女だが、そういうことはどうでもいいだろうよ……そもそもそのことをルチェは知らないだろう。若干乙女趣味なのは認めるが。今はそんなもの、言っている場合ではないので何一つ持っては居ないが。


「オランに言ってさ、ささっと作って貰うかな」


 すっかり手先が器用になったオランは殆ど何でも作れる。代わりに俺達のように武器で獣は狩れないし、獣を仕留めるのはもっぱら罠だ。だからほとんど物を作るのと引き換えに食料と交換する。それにオランはとても博識だ。まぁ、食える物と食えない物の区別まではオランに聞く必要はないが。野草は匂いで大体分かるし、もし間違えようものなら一口目で分かるだろう。その前にルチェが飛んで来て(ルチェは目が良い上に野草に詳しいからな)無理やりにでも食べるのを阻止してくれる。最初の頃、二、三回ルチェが飛んできたからな……まぁここ五年は一度もない。

 つまり分からないことがあったらオランに聞けば確実、オランに分からなければ賢者様に聞きに行けばいい。賢者様は俺達と同じくレッサヴィーラから追放された魔族だ。勿論生粋の、ではなく元人間のな。賢者様はその力故に追放されたので魔族としてはかなり強いほうだ。因みに見た目は俺達と同じぐらいだ。……もしかしたら不老不死なのかもしれないな。彼ならば、あり得る。


「じゃあこれ貰っていい?」

「あぁ」


 茶色っぽい小さな動物を抱えたルチェはそのままお礼を言ってから木の上の小屋に登っていった。この小屋は俺とルチェとオランの家だ。隣の木の上の家は父さんとアルバ先生の家だ。他の住民は木の上に住んでいないんだがな。何故か俺はここでは偉い人扱いらしい。魔王に脅威に見られたから…………らしいが。それからアルバ先生が剣聖であり、俺がその弟子だからというのもある。

 さてと。血抜きのために木に動物をぶら下げると、焚き火に砂をかけてもみ消した。じゃあ、オランの所に俺も向かうか。

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