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misunderstanding  作者: ryure
第二章 剣士の成長と異変
25/73

『23』

 派手に木屑を巻き散らかし、我ながら前世では到底出し得ないような強烈な蹴りと突きでめちゃめちゃにしたドアを乱暴に蹴り開けた。


「な、なんでこんなにめちゃめちゃにしたんですか?」

「魔族は強い者が好きだ。だからあの分厚いドアをめちゃめちゃに魔法を使わずに壊し、強さを表しておけば魔族になった人間に生かされるだろう?あわよくば気に入られるかもしれないしな。多分、俺達人間という種族はこの国に不要だ。弱すぎれば殺され、強すぎれば魔族に、魔族でなく強いなら…………多分捨てられるんだろう。邪魔だから……な。殺されたくはないだろう?」


 ルチェと王子がなにか喋っているが……沢山しゃべっているせいで良く分からん。緊急事態だからか早口だから特に、な。……考えるより人を捜そうか。ちなみに結構な勢いで殴った割には手に怪我はしなかった。なんかコツでも掴んだんだろうか。これはアルバ先生に褒めてもらえるかもしれない。


・・・・

・・・

・・


「父上!アルバ先生!」

「…………リュディトゥとルチェ……それから、王子殿下か」


 すぐに二人が見つかった。だけど、様子がおかしい。リュートくんを見つけてすぐ後ろに僕と王子を見つけた叔父上はホッとした顔になったけど同時にとても悲しそうな顔をしたから。だけどリュートくんはそれには気付かずにアルバさんにも声をかける。そのリュートくんの後ろ姿は何時もと変わらずにまっすぐしていて、とても広く見えた。だから僕はまだ安心していられるし、驚きや悲しみで取り乱さなくていられるんだ。


「良かった、アルバ先生…………もし、城にいなかったら、ルチェと、脱出するところでした」

「あ、あぁ。脱出はするぞ。城からも、国からも」


 脱出する、とこの非常事態では至極当たり前のことを何故か言いにくそうに言ったアルバさんはすまなそうな表情で素早くリュートくんの口と鼻に布を押し付けた。あまりのことに反応できず、途端にガクッと崩れ落ちるリュートくん…………。それを見た時、僕の頭にはカッと頭に血が上り、瞬時に腰の弓に手が伸びた。例えリュートくんが師事し、心から尊敬しているアルバさんでも……リュートくんに危害を加えるのなら、たとえ僕がリュートくんに嫌われたって、僕はその者を排除してやる!そうさ、それが王様だからって、王子だからって、叔父上でも、絶対に止めないんだ!


「…………すまないな、リュートの坊主。すまないな、ルチェの坊主」

「リュートくんに何をっ…………」


 愛用の弓を、僕が引き絞る前に、謝るアルバさんの声が聞こえて、逞しい叔父上の腕が…………僕の口元を覆う。同時に押し付けられたのはあの、リュートくんを気絶された布だ。リュートくんでも駄目だったんだ、僕ごときの意識なんて、つはずなんか、なかった。

 隣にいたはずの王子が異変に気づいて部屋に走って逃げていくのが見える。今はあいつさえ逃げてほしい。誰か、助けを呼んで…………。この危険な場所からリュートくんを救って。僕なんてどうでもいいから。


・・・・

・・・

・・


 未開の地に、僕たちが追放されてからもう、三日が経った。

 僕達が落ち着いたのを見計らってしてくれた叔父上の話では、リュートくんや僕が幼いときに始まった悲劇の話。突如現れた強大な力を持つ新しい魔王によって、人間がどんどん魔族に変えられていっているらしい。もちろん何とかしようと現国王は反発したけど…………王様自身もあっという間に魔族に変えられてしまったんだ。

 なお悪いことに、魔族という種族は生かすも殺すも魔王次第なんだ……。それは純魔と呼ばれる生まれながらの魔族も同じで……。だからこそ魔族っていうのは時代によって危険度が違うんだけど。たまに、人間にも友好的な魔族がいる時代もあるけど……神話の時代みたいなもの。普通は敵なんだ。だからこそ、国民の命を人質にされてしまった王様は魔国と併合するしかなかったんだね……。その事実は、貴族にも隠され、しかも僕らが王城を訪れた三日前が不幸にも執行の日。

 レッサヴィーラはとても不思議な国で、生まれながらにして人間が魔法に対する耐性を持っている。他の人間の国のどこにもそんな特性はないのにね……この国の血を引く者達はみんなみんなその特別な能力を持っている。だから、魔王が真っ先に狙ったんだ。世界を乗っ取ろうと目論む今代の魔王は。

 それから、魔王が人間にかけた魔法は、その受けた人間の魔力の量に比例してかかりやすくなるものだった。だから僕たちみたいに滅多に魔法を使わない者、元々魔法を使わない人間は魔族になりにくかった。種族的に強い魔族としては魔法も使えないような弱い人間が一人二人いても気にしないんだけど…………そこに現れたのはリュートくんだ。

 リュートくんはわずか十歳にしてとんでもない力を、強さを持っていた。今はまだ、魔族にとっては脅威ではないけれど、きっと大人になれば人間や獣人でありながら魔族に恐れられる「剣聖」を超えるであろう剣使いだ。勿論、「剣聖」のアルバさんも魔王には邪魔だった。もちろん、ウルガ叔父上も。叔父上は「賢者」を出した家系に婿入りした「人間」だ。だから僕たちはまとめて殺されるところだった。逃げ出せたのは、運もあったそうだよ……。そうそう、賢者は魔族になろうとも魔王の支配下におけない特別な力を持っているから邪魔で仕方がないんだって。だから叔父上も邪魔だって、だからあの日、寸前に王様に知らされた叔父上とアルバさんは逃げ出したんだ……。

 凡庸な僕が何故狙われたのかというと、僕はその叔父上と血のつながりがあり、しかも未だに人間だ。人間でありながら一定以上の力がある僕も、完璧に作戦を動かしたい魔族にとっては邪魔。王族でありながらも未だに人間であり続けたオラニウス王子も要らなかったんだ。

 そして、他にも国にちらほらいる人間や獣人を纏めて未開の地に捨てた。僕たちは新しく生まれた魔王が全ての…………悪だと分かった。元々、最近は魔族とは敵対関係にあるとは知っていたけど、ここまでじゃなかったはずのに……。

 僕達が今居る、この未開の地は大地に魔力が一切なくて、魔族が殆ど来ないかわり、捨てられた人間や獣人による秩序のない完全なる実力主義の最悪の地。だけどここは力があるならばここより安全なところは、人間や獣人に存在しないんだ。もちろん先住民たちもいて、名の知れ渡っている「剣聖」アルバさんのお陰で僕たちはここにいること認められた。それに、とてもとてもすごいリュートくんは魔王自ら邪魔だと思われるほど力をあるからね。


「リュートくん?」


 だけど今は、帰れないことや父上に会えないことよりも、心配なことがある。それはリュートくんが昨日から小屋に閉じこもっていること。部屋に入る前に見たリュートくんは、変わらず無表情だったけど、何か……そうだよ、何時もと違ったんだ。それが何かかと聞かれても分からないんだけど……。


 ここに来て、早速猪を大剣で仕留めたリュートくんは、何やら先住民の人たち(獣人さんと人間が半分ずつぐらいかな)肉と布を交換して閉じこもってしまったんだ。

 僕も鳥なんかを仕留めたけど、矢の数が心許ないし、鳥をむしって焼くのは難しい。それでも出来るのは…………死にたくないから。王子はどうだろう。あの人も最近見てない。話を聞いた後に真っ青な顔をしてうずくまっていたような……流石に、心配だ。


「ん?ルチェ、何か用か?」

「用はないけど…………リュートくんが出てこないから」


 リュートくんからの返事はあるんだ。アースルヴァイツ家に居たときみたいに声は元気。ごそごそ変な音は聞こえるけど……。


「あ、ちょうど服が出来たんだ。ルチェ、見てくれよ」


 小屋の暗がりを眺めていると、明るいリュートくんの声がして、あんなに僕にとっては重苦しかった扉があっさりと開いた。

 その先に居たのは見慣れた綺麗な貴族の服をきたリュートくんじゃなかった。先住民の人たちと同じように布を巻いた格好になったリュートくんは、今までに見てきた中で一番格好良かったし、獣に襲いかかる肉食獣のような顔をしていた。生き生きとしていて、金色の目には星が宿っているみたいで、綺麗だった。


「りゅ、リュートくん……?」

「へへっ、捨てられたんなら、仕方ねぇ。生きるためには、あんなお堅い格好なんかしてたら死んじまうさ。決めたんだ、俺はここで、生きるってな」


 装飾品がすっかり取り払われた大剣は、無骨にギラリと輝き、白い歯をむき出して如何にも獰猛そうに笑ったリュートくんは星の宿った金色の目を細めた。その笑顔は、自然だった。


「ははっ、『久しぶりだ、こういうの』」


 不思議な言葉を言ってから、ちろりと唇を舐めるリュートくんは、そのまま僕の肩に手を置いた。力強く。


「ルチェ、必ず生き残れるから安心しな」

「う、うんっ」


 その日からリュートくんは変わった。

 レイピアで大人を圧倒する、輝かんばかりに格好良いリュートくんはいなくなった。でも、リュートくんが僕の憧れなのには変わりない。リュートくんは、その、大人でも持ち上げられないような大剣で獲物を狩り、未開の地での救世主になったのだから。リュートくんは、獣も眠るような漆黒の夜に月の光によって輝く銀の指輪のような光を持つようになった。それは、どうしてか、とてもリュートくんらしかったんだ。

 だからリュートくんは、「今」でもずっと、僕の憧れだ。僕が弓士ルーウェンスとして未開の地に名を馳せるようになろうが、それよりもずっと剣士リュディトゥの方がよっぽど子どもたちや戦士たちの憧れで在り続けた。僕じゃ到底及ばない強さだったんだから。

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