『22』
……あまりにも話が突飛過ぎる。でも、本当なんだろう…………だからルチェは剣を使う俺ににあれだけ狂信したのか、……だけど……ルチェはそれを知らなかったな……じゃあ、あれか。ルチェは剣をちょっと好きすぎるだけだと。
「何でそんなに重要な事を父上も叔母上も教えてくれなかったんですか!」
「陛下のお達しでね……」
「幼い時の選択肢は人からの情報が無い方がいいと思ったのよ……剣が出来なくてもそれを理由にしたら伸びないわ」
ルチェが叔父上や母上に食ってかかった。まぁ、そうだろう。何故ならば問題が魔族、だからな。そういう前世ではありえないものは実に異世界らしいとは思っていたが……結構呑気な話ではない。俺達は小さい頃から異様なほどに「人類の敵」として教えられているんだが……魔族のことを。それも、……普段はそういうことは言わないアルバ先生にも、めったに話しかけてくれない父上も例外のように言うし、勿論母上にも、だ……。
散々言われたのは、「魔族は人類の敵」、「例外なぞ無いに等しい」、「魔族は人間を敵と見て、その高い身体能力と邪悪な黒の魔法で人間を滅ぼそうとしている」、「人間を見たらすぐに殺しに来る」、「魔族の特徴は黒い髪と黒い目……だけどそれは人間にもいる。取り敢えず警戒すること」、「魔族を見たら逃げなさい、戦うなんてもってのほか」、「魔族は強いものが好きだからリュートは逃げなさい。いくら剣ができても魔族から見れば子供は弱く、忌むべき存在」とかな……最早おかしいぐらい刷り込まれたが、その教えている側が実は魔族だって……何なんだ。だって脳みそに無理やり刷り込むように、ずっと魔族が危険だと言い続けられたんだぞ?人類の宿敵なんだなと思っただけで一応記憶には留めたが、特に深く考えたことはあまりなかったが。
話しによれば母上は魔族で、父上は人間かはわからない。俺やルチェ、アルバ先生は間違いなく人間や獣人で、目の前の似非弓使いは魔族で……周りの殆どの「人間だと思っていた者」は魔族だって?…………眉唾ものだ、信じられるか。王子は……どっちなんだろうな。
まぁ、そのお陰で「黒」が憎まれるのは知ってたんだが。そうか……黒色の髪の毛や目から魔族が連想されるからか……。黒は好きなんだが、残念なことだ。色自体には罪はないのに。
「魔族……人類の敵だと聞きましたが」
「ええそうね。だけど、私のように変化してしまった人間も魔族にとっては人間も同じよ。ただ……人間を裏切ったと言って偽った場合、受け入れられるのが私達。だから数少ない人間は……黒を嫌っていたのだけど……もう圧倒的に人間のほうが少なくなってしまったわ」
…………言葉の理解が追いつかない。で、一番気になるのは何で今までそういった素振りが全くなかったのか。だけどそんなこと、俺やルチェにとっては別に最初から言われてさえいればどうでもいいことだし、家族には変わりないのに、何故黙られていたのだろう。悲しいな……。
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「全く意味がわからないよ!何でいきなりこういう場でこういう話が始めるわけ?それに言うに事欠いて極悪非道、最悪最低、人類の敵にして永遠に相しれないって教えた魔族が自分だ!って言うんだよ?何がしたいの!」
「俺にも全く分からんが、取り敢えずルチェは落ち着け」
魔族についてのおおまかな説明の後、俺も人間から変化した魔族の剣使いと対峙した。が、アルバ先生と日々模擬戦をしている俺からすれば……実力者なんだろうが、もろに受けても全然痛くもない魔法を使ってあえて弱くなっている人にはさすがに負けようがない。昨日磨いた大剣で、相手の剣に軽く一撃を入れて終了だった。向こうの剣はポッキリ折れたが脆いなまくらを使っているそっちが悪い。人間なのに魔法を使っていないのに何故持ち上がるんだ……!と言われたが俺からすれば魔法に頼り切るしか無い魔族が意味不明だ。体を鍛えることは無意味ではない。怠慢は自己責任で何とかして欲しいもんだ。
試合早々に終わらせた俺とルチェそれから王子を、主にルチェが騒ぐ要因を潰すためにもともとルチェが泊まっている部屋に俺とルチェと王子を有無を言わさず突っ込まれた。誰がまとめて突っ込んだって、叔父上と母上だ。あまりの気迫にルチェも王子も素直だった。
陛下が何故か殿下もこの部屋に突っ込んだのには謎だが……、何故か王子はひどくこちらを怯えて部屋の隅でブルブル震えていたのでそっとしておいた。ルチェ、王子を見て鼻で笑わない。その、頭のたんこぶを押すぞ。
「……ドアには、鍵がかけられているな」
「無理に出たくはないけど……何で……?」
鍵を閉めたのは誰かは知らんが……。閉じ込めたいのか。何故?俺は今まで母上の言葉に逆らったことはないし、真実を知って暴れる程ルチェは幼くない。王子はよく知らんが、一緒に俺たちも閉じ込める理由もわからない。
「魔族になるか、人間のままいるかの、決意か?」
「……どうだろうね」
二人も話し込んでいると、不意にガタガタ震えていた王子がすっくと立ち上がった。若干離れているから何時もよりさらに見えないが、腰が引けている。俺でも分かる程腰が引けているせいか、ルチェは笑いをこらえるのに必死だ。こらえられていないがな。ほら、声が漏れてる。だが確かに見事な膝の笑いっぷり。立ち上がった時の威勢までは良かったんだが……立ったはいいが怖気付いたのか。
王子から、鼻で笑いそうになるほど弱い殺気がルチェに向いた。ルチェは予想通り笑い飛ばした。はっ。こんなかんじの声が聞こえる。鼻の笑い方はどこも変わらないな。
「なぁ、リュディトゥ」
「何でしょう?」
手足を一緒に出してこっちに歩いてきた王子は、ぎごちなく俺に尋ねてくる。声が震えてるんだが、俺はとって食いやしないぞ。というか肌に感じる視線がぶれっぱなしだ。
王子が俺に話しかけてきた瞬間、ルチェがものすごいスピードで俺に引っ付いてきたのには驚いた。絨毯が擦れる音が普通じゃなかったんだが…………破れたんじゃいか?……流石に無いか。ギュンッという音が聞こえた気がした。
……おい、掴むな、腕を。痛いほど握り締めるな、ルチェ。俺は筋肉という意味ではルチェの何倍も軟弱なんだから。痛い痛い痛い痛い!
「あの扉、剣を使ってもいいから吹き飛ばさ…………無くてもいい。取り敢えず開けれるか?」
「開けられますよ、今すぐにでも。壊しますが」
吹き飛ばす?いやいや、そんな後片付けが面倒なことをしなくても金属の鍵ぐらいねじ切れるし、王子ご所望のドアの粉砕…………吹き飛ばすことも出来るだろう。剣なら手元に大剣しかないが、王子やルチェが安全に通れる四角い穴を開けることが出来るだろうな。ただし開けるならドアは絶対に壊れる。鍵穴は此方には無く、ピッキングするには俺の目は悪すぎるからな。魔法で閉まっていても、まぁ実力者らしいあの剣士の魔法は全然痛くなく、痒くもなかった。多分無視出来るだろうし。……魔法で閉まってしたとしてもねじ開けるから結局金具は粉砕するしかないな。
「そうか。なら今すぐドアを出来るだけ派手に破壊してくれないか」
「……弁償はしませんよ」
「弁償は俺がする。多分見張りはいないはずだから思い切り派手にやってくれ」
派手に……壊す?今俺は手袋はしているが、別にグローブみたいな手を保護する物を付けていないんだが……素手で破壊するのが一番派手に木屑が飛ぶだろうが…………まぁ、権力は怖い。ドアを破壊するか。多分母上に会えれば治してもらえるだろうし……。
「ルチェ、王子。下がっていて下さいね」
俺は扉を粉砕するべく構えをとると、蹴りと突きでドアを粉砕にかかった。弾かれて凹んだだけだった……案外丈夫だな。少し、時間がかかりそうだ。




