『21』
「母上、ルーウェンスの相手は、あの雷光の弓使いですか?」
「えぇ、 『自称』雷光の弓使いよ。あの弓使いさんは実際に強者だからいいのだけど、あんな風に自分で呼び名を決めちゃ駄目よ。剣聖のアルバさんのように自然と呼ばれるような人になるのよ」
「……?はい、母上」
きょとんとした私のかわいいリュートくんは頷いたけど……意味は分かっているのかしらね。でも、アルバさんのことは本当に尊敬して日々剣の練習に励んでいるようだし、あんな軽薄な弓使いさんみたいにはならないわね。それに弓といえばルチェくんだけど、ルチェくんはああいう風になりたくないと分かっているから大丈夫だわ。……それにしても、自分で二つ名とかを決めてしまう人って……どうにも子供っぽいこと。
「××××××!××××××××!」
あら、ルチェくんが弓使いさんに何か叫んでいるわ。どうしたのかしら?……とても、ルチェくん、怒っているみたいね?珍しいこと。ルチェくんはその年の男の子にしては穏やかなのに。
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「一ルース先の的に当てる…………コントロール以前に矢が落ちますよ、陛下」
「弓使いフィーディックはやって見せたのだが…………無理かね」
そう言われてもね、陛下……。「自称」、雷光の弓使いフィーディックはイラつくけど強い。何よりフィーディックは大人だし、僕みたいに魔法を弓に使わないなんて馬鹿なことをしていないから出来るだろうけど、明らかに全てにおいて僕より強い…………しかも、僕は大人みたいに長弓、ロングボウを上手く使えない。力が足りないし、無理に使ったら腕が痛む。
他のことなら一応、弓で攻撃するんなら僕の矢は威力はあるし、コントロールも出来るけど遠くへは飛ばない……。力が足りない、圧倒的に。
「坊やは魔法を弓に使うのが嫌いなのさ、陛下。魔法の才能もある癖に訳わかんないヤツでね」
………………ちなみにこのムカつく弓使い、こんなんでも王族の端くれだったりする。リュートくんもだよね?リュートくんと血の繋がりが……こんなヤツにあるなんて……後で血抜きしてやろうかな……。でもそれでも王族の端くれ。リュートくんの方が濃いんだよね……なら何でコイツ、陛下にそんな口聞いてんだよ……経緯を少しは払えよ……本当に血抜きにしようか……。
アイツの、陛下に対する砕けた口調の理由は一応王族だから何だけど。何故弓使いをやってるかは知らない。だけど、陛下にそんな口を聞くのは駄目だと思う。
昨日の僕の失態?父さん……父上に殴られたから許してよ。まだ頭痛いよ。
「…………しかし、もう舞台を変えることは出来ない」
「…………では、コントロールを捨てて長弓を使いますから、大丈夫です。長弓なら僕でも一ルースぐらい、飛ばせますから」
でも残念なことに僕の場合は長弓でも矢が飛ぶんじゃないんだよね、必死で飛ばすの。だけど魔法を使わずに飛ばす方法はこれぐらい。魔法は単体では使うんだけど…………弓に使わないよ、追いつめられても。でも…………リュートくんが危機なら使うだろうな……。有り得ないけどね。リュートくんが危機なら僕はすでに死んでるよ。
「長弓とな……ルシェヴァルツのルーウェンスよ、そなたはまだ幼い。長弓は力が必要だと聞く……本当に使いこなせるのか?」
「ですから、無理やり押さえ込んで力を使わずにコントロールを捨てて飛ばすことに専念します。このままでは届きませんので。
それに友人のアースルヴァイツのリュディトゥは大剣を片手で持てますし、操ることすら可能です。私にもきっと出来ますから」
陛下に納得してもらおうと、リュートくんを引き合いに出した。ごめん、リュートくん。でもね、嘘は吐いていないよ…………リュートくんほど腕が細かったら多分普通は大剣なんか持ち上がらないと思うんだ……。だけど今はリュートくんぐらいのすごい人を引き合いに出さなきゃ、リュートくんより背も低くて小さい僕には到底無理だって止められそうだし……。
陛下の沈黙を肯定ととって、僕はフィーディックを睨んだ。早くやってみせろ、と言うんばかりに。
「あーー、はいはい。坊やに見本を見せてやるよ」
いけ好かない弓使いは無造作に弓を引き絞ると適当にはなった。でも魔法の力がかかっている矢は落ちずに的まで届いた。…………なんて、酷い。弓の力なんて、全く関係ないじゃないか!そんなの、赤ちゃんが適当に投げたオモチャにでも魔法をかける方がマシだ!
「そんな使い方をするなら最初から魔法で矢を飛ばせよ!そんなの、弓で打つ意味が無い!」
「坊やのポリシーは知らないがな、今の弓使いなんてみんなこんなもんだぞ?魔法でなんとかなるんだ、剣術だって剣聖や一部の酔狂な奴以外には魔法の補助なしで持ち上がるかっつうの……俺はだいたいもう、魔法なしに弓を引けやしない」
…………そういえば、最近魔法の力が上がっているって聞いてけど……まさか。いつからか、体の力が抜けたのはいつだっけ……でも、弓の練習を重ねて、そしたら元に戻ったし……。
「あぁ、坊やのお友達のリュート?リュディトゥだっけ?アイツは違うな、確かに自分の力だけで剣を使ってやがるなぁ。多分体に魔力はあるんだろうが、勿体ねぇなあ。あの剣使いも、師匠の剣聖も魔法を使わずに剣やら何やらをやる最後の人間だな。……坊やは知らねぇかもしれないが、人間の身体能力が衰退してるんだ、しかたがないだろう」
「何だって?!じゃあ剣聖のアルバさんや、僕や、リュートくんが普通に魔法に頼らないのが異常だっていうのか?!」
長弓を持ちながら呆然とするしかない。身体能力の衰退?嘘に決まっている。
あ、は、早く僕も射たなきゃ。
「まぁ、頑張れよ。魔王の魔術やら、精霊が怒ったやらいろいろ説はあるがな、間違いないんだから」
「うるさい!」
苛つく声を無視して矢をつがえる。そして無理やり集中して、放つ。腕を壊さないよう長弓を無理やり抑えこんでいないから勿論弓は外れる。無茶苦茶に力を込めたせいか、とんでもない勢いで弓が吹き飛んでいった。もちろん弓は耐え切れずに、弦がちぎれた。
「畜生……」
情けなくなって、フィーディックを睨んだけど、彼はむしろ驚いてこっちを見ていた……何でこっちを見るんだよ。
「……は?あの『異変』の後に生まれた餓鬼が自分の力だけで弓を一ルース飛ばす?どんな力してんだ……お前、まさか……人間か?」
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「…………そういえば、子どもたちは知らなかったわね。今から大体十五年前ぐらいにね、急に魔法がだれでも使えるようになったの。それ以前は賢者様とか、特殊な才能を持つ人しか出来なかったの」
どういうことかわからなかった僕は、すぐさま叔母上に話を聞くことにした。リュートくんはいつもと違って不思議そうな顔をするだけで別に詳しく叔母上の話を聞く気はないみたい。知ってたわけじゃない……みたいだけど、冷静だね、さすがはリュートくんだ。
「でもその代わりにいきなり体の力が抜けたの。そうね、ウルガは今でも剣を使えるけど、あの出来事がなかったら第二の剣聖になっていたかもしれないわ……あの人、力がなくなったって、子供みたいに落ち込んでいたの。でも、ウルガは努力で力を取り戻したわ」
「……ですが母上、私は全く関係なく剣を振れます」
「そうね、それは努力の結果とも言えるし、魔法を使わないからかもしれないわ」
その異変には抜け穴があって、魔法を一切使わないか、あまり使わないのなら影響はないのよ、と叔母上は続ける。
「陛下が十歳の貴族達に武術を披露するようにしたのはその頃から。すると驚いたことに、魔法を当たり前に使う『魔族』に私達人間の体が変わっているか、そのままの人間か……二択にきっちり分けられたの」
つまり、少数派の人間は僕や、リュートくんや、剣聖アルバや……叔父上で……叔母上やフィーディックは魔族?そんな馬鹿なこと……だいたい、魔族といえば魔法だけじゃなくて身体能力も高いっていうことで有名じゃないか。なのに、何故。それに、どうして人間がいきなり変わってしまったの?




