『20』
「息子、オラニウス。一つ問おう。
アースルヴァイツのリュディトゥにしでかした自分の過去の過ちや、今までしてきたことについてどう思う?」
「……まだ、どうしても……黒色の人や獣人が同じなのだとは思えません。ですが、決して劣っているわけでも悪でもない、という事は……分かりました。……俺が間違ってたことは、分かりました」
やや下を向いて言葉を重ねるオラニウスは、不意に両手を握りしめた。きつく、自分を戒めるかのように。
「俺は……弱い。
父上、世界は広いし、俺は酷く無知だった。言い訳もない。だから……」
紡がれた、オラニウスの次の言葉。聞いて心底安心した。もう大丈夫だ、と。息子はやっと呪いの呪縛から外れることが出来たと。
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「何故か王子殿下がいきなりものすごくフレンドリーかつとっても親切になったんだけど、なにか知ってる?リュートくん」
「……いろいろ、反省したんじゃないか?」
王宮に泊まって、翌日。いきなり早朝から王子に綺麗な九十度のお辞儀で謝られるわ、王様の機嫌がなぜか良いやら……よく分からない。
ん?王子が謝った言葉?普通にごめんなさい、と言われたが……あぁ、そう言えば心無しか……ルーウェンスに殺されるっ!とかいう悲鳴混じりだったような……?あれは何だったのだろう。まぁあんまり聞く気もなかったし、うろ覚えだが。悪いが謝罪だと気付いたこと自体だいぶ聞いていたほうだ。
「それにしてもルチェ、その頭どうしたんだ?」
「あぁこれ?昨日父上に全力で殴られた跡。曰く……『陛下や王子殿下がいる前で何をやっている!』だそうだよ……リュートくんにも頭を下げられたけど、深く反省してるよ……」
何故か緑色のニット帽のような帽子をかぶっているらしいルチェにたずねてみる。目立つたんこぶが出来たんだな、今日はルチェが変なことを言ったら背中から押してやろう……頭を押して下げさせるのは痛そうだ。
「リュディトゥ、それにルーウェンスくん。今日はそれぞれ陛下の御前でいつもの剣や弓の練習をやるのよ。この日のために剣と弓の手練を呼んであるそうですから、心しなさいね」
「……はい、母上」
「えっ……!は、はい、叔母上!」
ルチェはどもってた上に一気に混乱したようだが……安心しろ、ルチェ。俺も混乱したから。意味がわからない。
それにだ……俺の練習風景を見てどうする?俺と違ってルチェは弓を練習しているときはとんでもなく集中するから見ててすごいけどな。あれは見る価値がある。百発百中の弓の練習って意味があるのかは知らんが。まぁ、鈍らせないためなんだろうな……正直あんなに鋭い弓を捌きたくない。一度だけ剣で捌いたことがあるが、死ぬかと思った。よく捌き切ったものだ、自分よ。この体のスペックの高さが半端ではないのがよく分かる。
つまり俺はルチェと模擬戦はしたくないということだ。昨日みたいなノリでやらされるのは勘弁だ……。
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弓を射る時は静かに。動かない水のように心を落ち着かせて……。心にさざ波を作ってはいけない。そして、一度放った矢は決して戻らない……だから絶対に当てる気で射る……。
「……どうしてなかなか。今年の十歳の貴族たちは揃いも揃って武術の腕前が素晴らしい」
「お褒めに預かり光栄です、陛下。
ルーウェンスは剣はからきし、真剣を持ったことすらありませんが……弓の腕ならば我が家の自慢であります」
リュートくんの鋭い、だけどどこか優しい視線を受けながら、いつもの練習の時のように心を落ち着かせる。周りの空気と僕が同化しているみたいに精神を集中させればもう大丈夫。
さぁ、あの的に当てるだけ。僕は今の一瞬だけ空気を切り裂き、的の中心に当たる矢になればいい。この瞬間だけ、僕の腕は矢を送る弓になればいいだけ……。わずかに使える魔法なんか関係なく、自然と同化していけばいい。魔法で補助をする弓士は永遠に認めたくないし。そして、体を同化させるようにして打てばいつも通り弓は僕の意志に忠実に矢を射るだろうし、放った矢は必ず中心に当たるんだから……。
ぎゅっと引き絞って射った矢は想像通りに的に当たる。
達成感を味わいながらふと一瞬、リュートくんを見ると優しく微笑んでくれていた。うん、問題なく頑張れそうだ。リュートくんが見てるから、大丈夫だ。
「では、ルシェヴァルツのルーウェンスよ。狩人同盟から手練の弓使いを呼んでいる。是非とも対戦して欲しいのだが……?」
「は、はい!勿論です!的を当てる数を競うのですよね?」
「勿論だ」
叔母上が仰っていたように、弓の名手と対戦することになって、とても緊張した。目をつぶってリュートくんのさっきの笑顔を思い浮かべる。あれ、誰にも負けない気がしてきた。それから目を開けて、リュートくんをみる。リュートくんは口をパクパクさせて何かを言っている。えっと……。
「頑張れ……、か」
観戦席に座っているリュートくんの声は勿論聞こえない。だけど、唇を見て判断した言葉にはいつものリュートくんの、優しいアルトの声がのっているがした。
そう言えばリュートくんって、たまに舌っ足らずだけどあれが前に本で読んだ「ギャップ」だよね、完璧な人間じゃないからこそ尊敬するよっ!正直舌っ足らずで言葉を間違える度に目を逸らすリュートくんって可愛い気がしてきた……失礼過ぎるけど。い、いや!それがリュートくんなのであって、リュートくんという存在は完璧なんだけどね!
さて、リュートくんに応援されたし、やっぱり負ける気がしない。まぁ、大人でしかも陛下もご存知なぐらい手練で弓の腕で稼いでる人にやすやすと勝てるなんて思っていないわけだけど……。絶対に接戦ぐらいは出来るよ!だって僕は弓で外したこと、ここ一年は一回も無いもん!
気合いをいれた瞬間、ドンッと誰かがぶつかってきた。あえて弓がお腹に直撃するように持ち直したのは僕なりの皮肉だよ。弓の一番端っこの尖ってる所でぶつかってきた相手の腹を抉るみたいに持ち直す。……リュートくんに後で怒られるかもしれないけど、なんか悪意を感じた。
「げふっ……おっと。小さすぎて見えなかったぜ、ルシェヴァルツの坊や」
「直撃してやんの…………もしもリュートくんが僕が小さすぎて見えないあまりにぶつかってくれるならいくらでも縮んでやりますよ、…………雷光の弓使いさん」
対戦相手は、弓の名手と名高い、剣で言うならば剣聖アルバさん。そんな人だった。…………一応、面識はあるよ。対戦したことはないけど。嫌みかつ皮肉屋で、うん。嫌いなんだよね。憧れすらないよ。だってこいつなよなよしているんだもの。




