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misunderstanding  作者: ryure
第一章 剣士の誕生と彼の苦悩
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『1』

 生まれ変わった先は、どうやら日本どころか地球ですらなかった。


・・・・

・・・

・・


 …………何故、こうなりましたか?


 思わず前世の、敬語の猫被りの口調で思考が進んでしまう。せっかく自由に体の動く男に転生したのだから、今から少しでも男らしい口調を心がけて今から生きなければ。その為には変な違和感があってはならない。「前のように」容姿に合った話し方をすべきだ。

 それがわた……俺の、円滑に生きる人生の一番のコツなんだから。周りに溶け込んで生きれば普通には生きられるものだろう。なるべく目立つ個性は消すべきだから。


 わた……俺は現在、まだ首さえ座らない零歳児の赤ん坊だ。今までに色々と羞恥に死にたくなることも多いが、それはさておき、だ。

 今、「あぁ」とか「うーー」とかしか喋れないのも仕方がないこと。今喋れたら喋れたで異端なのだから演技の必要がなくてよかった。


 だが、生まれ変わっても悲しいこともある。そうなのだ。結局俺がド近眼なのは変わらなかった。それは薄々気付いていたからどうって事無い。いや、そのことはショックではあるがそれよりも問題は俺の「名前」だ。


 言葉の壁とは、想像以上に酷いもので本当に、今洒落にならないほど何を言っているか分からない。これは初めて英語に触れた中学生よりなお酷いだろう。何故なら予備知識は一切無いのだから。


 名前の他に学んだ言葉といえば、母親らしき影が自分を指差し、「アイル」と何回も言うから、その「アイル」がママだとか母さんとかいう意味なのは分かる。もしかしたらそれは名前なのかもしれないが、まぁ、それは後々知ろう。

 父親らしき影が自分を指差し、「ディーヴェ」と言っているから、父親の呼び名も薄々分かる。いや、これはちゃんと聞けているのかは些か疑問だがそれはどうでもいいか。


 が。


 その発音の難しさは半端なものじゃない。赤ん坊だから、というのも勿論あるが、母親の「アイル」はともかく父親の「ディーヴェ」は無理がある。無理だ。成長してからもちゃんと話せる気がしない。女子高生だった「私」にも発音出来るかが謎でしょうがない。ヴェ、だ。言える気がしない。普通、日本人なら「ベ」になっても仕方ないだろう……。う、う……べ……か?…………言えてないな。


 あぁ、そうそう。すっかり忘れていたが、わた……俺の名前も分かった。まぁ……微妙にだが。


 どうやら俺の名前は、「リュディトゥ」と言う、噛みそうな、いや、実際噛む名前だ。この名前、何とかかんとか、今持ちうる聴力を総動員して聞き取ったが、普段はリュートと呼ばれている。その、リュートで俺の名前、いいんじゃないのか?日本語になおせば「龍斗」とか、格好いい漢字で当てられる良い名前だと思うんだが。まぁ、こっちの意味は全く違うだろうな。名前の後に「蕎麦」だの「あでぃ」だのとついていた気がしたが、あれも名前なのか。それとも言葉の一部なのかがわからないから判断できなかった。……蕎麦、か。食べたく、じゃなかった、食いたくなったな……。


 ちなみに、信じたくはないが、どうやら苗字は別にあるらしい。そんなに複雑なもの、私なんかに覚えれるわけがありませんよ…………しまった、気を抜くと口調が。


 ただでさえ長く複雑な「リュディトゥ」…………蕎麦とあでぃと苗字がくっつく。そんなもの、言ってるだけで一日が終わるわ!名前でこんなに長いんだったら苗字はもっと長いんじゃないか……?……まぁ、蕎麦ではないと思いたいが、それはそれ、だ。

 ……考えるだけで寒気がしてきた。何でそんなに長いんだろう。文化の違いか。カルチャーショックか。仕方ないと諦めきれない。若干では済まされない厨二臭もする。それなら潔くリュートと呼んでくれ。日本人でも「りゅうとくん」ならいただろう。それなら普通に諦めれるじゃないか!なんで……こんなに複雑な名前なのだろう……?りゅ、りゅで、りゅでと……リュディトゥ……はぁ。考えるだけでこれか……。


 はぁ、取り乱した…………。


 だが…………なんだ、妙に体が動きやすい。今までがポンコツだっただけならいいがな…………。赤ん坊の体でこんなに動きやすいなんて、高スペックなんだな。


 にしてもディーヴェが難しすぎる。無理だろ。

 赤ん坊がこんなの喋ろうとする時点で嫌なもんだが。気持ち悪いだろ、生き急ぎすぎだ。もう少し自重すべきだろうか。



・・・・

・・・

・・


 中級貴族アースルヴァイツ。


 名前の知名度はそこそこ、中級貴族としては上位に位置する、伯爵家の末席である。


 いくら中級貴族とはいえ、アースルヴァイツ家はなんと、遠縁に様々な国の王族の血を、僅かに引いている貴族家なのだ。勿論、このレッサヴィーラという国の王族もだ。

 公爵家や王家が、子供の誕生を無視できない家なのだ。「面倒なことに」。


 かくして、様々な人間の期待と共に生まれた子は…………元気な男の子だった。アースルヴァイツ家も存続がほぼ確定したようで、本家だけではなく、余り関係ない分家までもがお祭り騒ぎだ。何故なら、ここ数百年はアースルヴァイツ家に女子しか生まれなかったのだから。由々しき事態はやっと終局した。勿論、現当主もアースルヴァイツ家の血を引いていない。母親の方がアースルヴァイツの直系である。


「新しく我がアースルヴァイツ家に生まれ出た、次期当主の名前はリュディトゥ・スゥバァ・アッディ・アースルヴァイツだ。将来は家の当主となってもらおう!やっと、後ろ指を指されないぞ!」

「待って下さいませ、あなた」


 にしても、書庫で叫ぶ貴族とはいかほどなものか。ただ、頭のネジがあらゆる意味でゆるゆるとしているアースルヴァイツ家ではこのようなもの、ただの挨拶である。勿論、叫んでいる男こそが現当主、血は引いていないがアースルヴァイツとしての教育は完璧に骨まで染み付いている男である。

 変人奇人ぞろいのアースルヴァイツ家。これでも娘が王の側室に召し上げられることもある、それなりの名門家である。


「ぬ、シェーラか。

何のようだ?」

「はい、あなた。

リュートを次期当主にするのは構いません。ですが、あの子にも道を選ばせて下さいませ……私たちアースルヴァイツ家の者は道を自分で選んできましたから。それが男であろうと関係ありません」

「勿論だ。我が家ではそれが当たり前だろう?」


 自由かつ常識を逸脱する、そんなアースルヴァイツ家では今日も王家の人間が真っ青になるような発言をする。かび臭い書庫で。

 男の子が生まれたのに次期当主にしないとはいかなることか。しかも、あらゆる王家の継承権を、一応は持っているのにだ。


「平民だろうがリュディトゥが愛した娘なら許そう。騎士になりたいなら、私が死ぬまでならいいだろう。商売をしようが成り上がろうが、リュートがいつか我がアースルヴァイツ家の当主になるなら、パパは止めないっ!リュート愛してる!」

「勿論、ママも止めませんっ!

ではあなた、リュディトゥに会いに行きましょう」


 変人ぞろいのアースルヴァイツ家、絶好調である。


 そのころ、部屋の様子が全くわからないリュートは視界の悪さに眉間に皺を寄せながら小さくくしゃみをした。

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