『13』
「私、リュディトゥ・スゥバァ・アッディはアースルヴァイツ家の者として陛下に剣を誓います」
その薄い金色の、実に鋭い目を此方に向ける少年。ふと、自分の馬鹿息子である王子、第一王位継承権を持つあやつを思い出す。こんなにも礼儀正しく、真面目な子だ。確かにかの冷徹なウルガ・アースルヴァイツが社交界で散々自慢しているだけあるな。そしてあの剣聖アルバの唯一の教え子になる。賢者の孫であり、侯爵家、しかも王位継承権を持っている。
どれだけ彼のような少年が私の息子ならいいか。しかしまだ…………希望はある。あの馬鹿息子が更正するか、彼の王位継承権を上げることだ。まぁ、彼とは会ってから数分。今から見極めるのには違いない。ただ、…………アースルヴァイツが羨ましすぎる。洗脳が解けない馬鹿は今もなお誤解を生み、ただその七光を使っているだけだ。
「わた、私、ルーウェンス・イルはルシェヴァルツ家の者として、陛下にゆ、弓を誓います」
どもったルシェヴァルツ家の少年と共に武器を捧げたアースルヴァイツ家の少年は静かに私を見据えた。
やれやれ。この後の二人の行動が楽しみだ。どもっていたが、ルシェヴァルツ家の少年もいい子じゃないか。傍目には隙だらけだが、自分よりも隣にいるアースルヴァイツを全力で守る構え。……こやつは昏倒しているな、これは。
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「おい、そこの汚らしい黒髪!俺に挨拶はないのか!俺はお前と違って金髪だからな、神に選ばれているのだ!挨拶しろ、俺はレッサヴィーラの王子だぞ、第一王位継承権を持っている!」
「はじめまして、リュディトゥ・スゥバァ・アッディ・アースルヴァイツです……殿下」
その王子様の理論だと、僕の叔父上の、リュートくんのお父上って、金髪に金色の目なんだから、神様級に偉い人になる気がするなぁ…………。王子様も髪の毛は金色だけど目は青じゃないか、リュートくんなんて目は綺麗な綺麗な金色だぞっ。目の色は変えられないけどその髪の毛は染めれるんだぞっ。だからリュートくんの方がものすごくすごいんだっ!いくら王子様だといってもねっ。
「は、はじめまして、ルーウェンス・イル・ルシェヴァルツです」
「おぅ、ルシェヴァルツ、お前は綺麗な銀髪をしているな!目は黒いが綺麗な色だな!お前なら俺の家来にしてやってもいいぞ?」
「お言葉ですが、私が好きで大好きで尊敬していて、姿形が格好良くて、様々な剣の腕が本当に素晴らしくて、どんな数学者よりも賢くて、何より格それはもう好良くて格好良くて、私が一番大好きな従兄弟であり大切な友達で、生涯親友となり、そう言い切れるのは彼一人だと思うほど大好きでたまらなくてしょうがなくてしょうがなくて、やはり大好きで大好きで彼が相手なら同性愛者になってもいい、結婚してもいいと頭の先から足の先から髪の毛の先っぽまで信じきっていて、彼がくれるならば塵だろうと塵屑だろうと一生の宝物にするほどの素晴らしい人格者で、ともかく素晴らしい人物であることは間違い無く、もしも彼が犯罪を犯した時、間違い無くそれは必要な事だと私は絶対に信じ切りますし、彼が冷たい言葉を私に浴びせるならば、理由もあるのは確実でありますし、彼がサディストになるなら私はマゾヒストになろうと誓っていて、最早今すぐここで踏んでくれてもいいんだよと彼に言いたい気持ちでいっぱいで、逆に彼が絶対に有り得ないけれどマゾヒストでも、私は恐れ多くて踏めないと、確実に尊すぎて踏めないというのは間違い無く、私は彼が最早神でも信じると言うことです、殿下。いえ、間違いがございました。彼は最早私にとって神なのです。間違いありません。
間違い無く私は彼が神なら狂信者にでも盲信者にでも敬虔な使徒にでもなりますし、彼を害なす者がいるなら私が完璧に、迅速に排除しますから殿下はリュディトゥの事をもっとお知りになっても別に嫉妬はしません、と言うことです。私はリュディトゥの素晴らしさをとても良く知っているので、リュディトゥのことを好きになっても仕方がない、尊敬しても仕方がないと分かっているのでむしろお教えいたします、今すぐにでも、何時間でもお話させて頂きます。それはもう、じっくりと。ですが、私とリュディトゥが一緒にいる時間を邪魔された場合は殿下の安全を保証致しませんよ?
つまり、何が言いたいかというと私よりリュディトゥが素晴らしい、私よりリュディトゥが優れていない筈が無く、私の方がリュディトゥより勝るのは有り得ないのです、殿下。よって私は殿下の家来には当たりますが、リュディトゥをけなされる理由にはなりませんし、殿下のご命令に背いても、神を敵に回してもリュディトゥを守ると言いたいのです」
殿下、王子様だからって世の常ぐらいは知ってもらわないといけないよねっ。そう思って言ってるのにな……。なんでこんなに顔がひきつっているんだろう、この王子様。
と思ったらリュートくんが僕の頭を掴んで(嬉しくて死にそうになったよ!)無理やり王子様に下げさせた。でもリュートくんがすることだからさ、喜んで土下座でもなんでもするよ!
「申し訳ありません、殿下。友人のルーウェンスは暴走癖があり、ふとした言葉で正気を失うのです……」
「…………………」
上目遣いっ!リュートくんの上目遣いだよ!王子様に上目遣いだよ!僕なら嬉しすぎて死んだよ、なのに王子様は何も思わないなんて、どうしてなんだろうね。ってこの王子様はいつまでリュートくんに頭を下げさせているの?頭のなかは空っぽなの?
「う、うむ、ルシェヴァルツは暴走癖があるのだな…………」
「決して害は『出させません』から、殿下はご安心下さい」
わぁっ!何か僕が殿下に害をなそうとしたらリュートくんが直々に止めてくれるんだねっ!…………ちょっと嬉しくなっちゃった!何かやろうかな…………?
「ま、まぁよい。
アースルヴァイツよ、剣が出来るそうだな?」
「はい、殿下」
リュートくんが殿下に跪いて、頷いているよ。僕?リュートくんが怒ってるから小さくなって跪いているよ。リュートくんに本気で怒らせたら僕一人ぐらい簡単に蒸発すると思って。
「父上!アースルヴァイツと剣を交えてもよろしいか?」
「ま、まぁよい」
忘れてたけどここ玉座の間なんだよね、父上に後で殺されそうだよ、主に僕が。にこにこと笑っている叔母上からは全然怖い感じがしないのが……救いかな……。正直ね、父上よりも叔母上の方が怖いからさ。
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「リュディトゥ・アースルヴァイツ…………」
「何でしょう、陛下」
殿下が大戦の準備に走っていってしまったあと、陛下が俺を呼ぶ。
「あの馬鹿息子…………オラニウスに手加減は要らないと言っておこう。
いや、アースルヴァイツに命じる。
あの王子を叩きのめせ。あやつには一度痛い目にあわせておかなくてはならないのだから」
「……承知致しました。私、リュディトゥは王子に手加減は一切致しません、そのことを誓います」




