『9』
アースルヴァイツのリュートくんが我が家に来た!この事実だけで僕、三年ぐらいは笑顔でいれるよ!とっても嬉しい!ずっとずっと来て欲しいって思っていたんだ。
僕の満点の笑みに、面白そうに小さく笑い返してくれたリュートくんを、さぁ、さぁ!と、部屋に入ってもらう。若干無理やり押し込んでる気がしたけど、まぁいいよね!ごめんね、今日は許してね、リュートくんっ!
「リュートくん、ルシェヴァルツに来てくれてありがとうっ!」
「いや、これまでルチェがこちらに来てばかりだったからな」
リュートくんが僕に気をつかってくれたなんて幸せだよ!リュートくんは何故かその言葉を言い訳するみたいにぼそぼそっと言うと、ぐるりと僕の部屋を見回した。昨日と今日の朝に本棚とかを整頓しててよかった!いつもはぐちゃぐちゃだけど、そんな情けない姿は見せたくないし……よし、今度から片付けるようにしよう。いつリュートくんが来ても恥ずかしくないように。
「ルチェの部屋には弓や本が多いな」
「う、うん!弓は大好きだし、本を読むのも大好きなんだ。
あ、リュートくんはどんな本が好きなの?」
何となく、リュートくんが読書好きそうに見えたから(めったに社交辞令以外に表情を変えないリュートくんが本を見てちょっとだけ笑ったんだよ!)、聞いてみる。読みたい本があるならそれを貸してあげるのは勿論だし、単純にリュートくんの趣味の本が気になるんだ。知って、リュートくんとの話の種にもいいし、似通った趣味ならやっぱり話が弾むだろうし、ね!僕はそこまで本のことが好きなわけじゃないけど……リュートくんが読むならいくらでも読むし、嫌いなわけじゃないし、ちょっと図書室に行くぐらいでも屋敷の中を歩き回りたくないから部屋中本だらけなんだけどね。
「本……。
本自身は好きだが、あまり『読む』ということが得意ではないんだ。読むといえば、歴史書や騎士の出てくる話だな」
丁寧に、言葉をゆっくり選んだリュートくんは教えてくれた。
歴史書は、何となく分かる気がするけど……騎士の出てくる話?リュートくん自身が騎士より格好いいからあんまり……そんな気はしなかったけど……。
「騎士の出てくる話って、『騎士ランスロットの伝説』とか、『騎士物語』シリーズとかの事?そういうの、好きなの?」
「あぁ、そうだが……母上が好きで、本棚に沢山あるからな」
あ、なぁんだ。リュートくんのお母上の趣味なんだ。リュートくんって、すっごく家族に愛されてるもの、そりゃあお母上の趣味とかで本棚の中身まで決まっちゃうよね。変な本を避けそうだし。例えば、「恋愛初心者白書」とか。あんなのがリュートくんの目に一生触れてほしくない。僕、間違えて読んでしまったからちょっとトラウマ。甘い甘い砂糖漬けのお菓子に熟した果実を混ぜたみたいな話だったし……。砂糖を吐きそうな感じだった。使用人は喜んでああいうのを読むみたいだけど……うぅ、理解できないよ……。
じゃあ、リュートくんが本当に好きなジャンルは歴史物、かなぁ?でも読んでるのは歴史書かぁ。なら、歴史が好きなんだ。血に、涙に染まったようなすごい歴史のある国だけど……リュートくんはそういうのから目を逸らさないのかな。すごいや……。
「じゃあ、こういうのは読んだ?」
本棚からぶあっつい歴史書を取り出す。この本は他国から(友好国だよ)見たこの、レッサヴィーラについて綴った本で、結構珍しい。
出来たのは最近だけど、あんまり部数が発行されていない本なんだ。この本は、たまたま父上に家臣が贈り物として貰ったものだし。それを貰ったのは僕だけど、綺麗な表紙の本でもらって良かったのかと不安になったぐらい。でも、リュートくんに貸してあげる本としてはぴったりだよ。リュートくんに汚い本を貸すとか、プレゼントするとかはありえないからね。
「……!それは読んだことがないな……」
「貸してあげるよ! また返してくれたらいいんだし!ほら、最初に剣の短い演舞を見せてもらったお礼ってことにして!」
「……なら、有難く貸してもらうよ」
遠慮しそうなリュートくんの言葉を封じて、歴史書をリュートくんのて持たせる。華奢なリュートくんの手には不釣り合いだけど、剣を持てるリュートくんなら大丈夫だよね!かなり重いけど……。で、でも……リュートくん、今も剣持ってるし……大丈夫、だよね?
「有難う。ゆっくり読ませてもらう」
「うん!喜んでくれてよかった!」
リュートくんが笑ってくれたし、喜んでくれたし、リュートくんの趣味の本が分かったし、リュートくんが我が家に来てくれたし、リュートくんが僕の部屋に来てくれるんて……今日はなんて幸せな日なんだろう!今日は姉さんの部屋に襲撃をかけても生き残れそうだよ。
・・・・
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「父上、ルチェから歴史書を借りました」
「そうか。ルチェくんととても仲がいいのだな」
「はい」
アースルヴァイツ家に帰って、父上に報告をする。借りた本はかなり貴重な本だし、今世の俺がこれだけの外出をするのは随分稀だからな。あれ?ルシェヴァルツより遠いところには行ったことがないんじゃないか?お忍びとかで外に出ることもないし……外に出ても言葉が分からないからなんだが。
「いい友を得たな、リュート」
「はい。本当にルチェは良い友達です」
父上はとても満足そうに頷いてみせる。父上にとっては俺は、とても不甲斐ない息子だが、いい友達が得れた。それはとてもいい事だと思ったんだろうか。昔から貴族らしい父上や気品あふれる母上のように綺麗な容姿は持っていないが、やっと親友と呼んでも差し支えない様な素晴らしい友を得れた。得ることが出来た。少し、俺もほっとした。一人ぼっちは悲しいから。まだ言葉の通じなさや悪い視界にイライラして潰されそうになったり、期待に負けそうになるけど…………同じように踏ん張って生きるルチェがいるなら……大丈夫だ。
何故か、父上の後ろに立つ母上がハンカチで目元を抑えていた……ようだが、よく見えなかった。だけど、母上はすぐに俺の頭に手をおいて、そっと撫でてくれた。その母上の艷やかな黒髪に日本という、前世の平和な、だが俺にとっては危険きまわりない懐かしき心の故郷を思い出して少し、切なくなった。




