1-6 能力の凄み
「ブラッドウイルス」、
流行している細菌の名称である。
そして抗ウイルス剤、「ヴィーナス」。女神と名付けられたその薬だが、効力は一時的なご加護に過ぎず、再び感染する可能性がある。
感染後に発症すれば、待つのは「死」。だが20代前半より若い者の1%は、「死なない」。それは成長ホルモンに近い成分が体内で抗体を作り、細菌と中和するためだ。中和された「ブラッドウイルス」は消滅せず、感染者に特殊な「能力」を与える。
その影響を受けた者は「能力者」と呼ばれる。
エリア05の地下にある「CAF」本部Bの連絡室にて。
弘前「B班指揮官弘前涼香、只今帰還しました」
牛嶋「御苦労」
B班が担当した現場は、最も本部Bに近い。司令官牛嶋はリーダーの弘前を出迎えた。
人員不足により、彼女はすぐ連絡室に身を置く。特に連絡係は休む暇も少なく、弘前は入隊当初、主に連絡担当だったためだ。
桐野「失礼しまーす」
扉を開けたのは、ポニーテールの桐野。
桐野「弘前先輩、コーヒーをお持ちしましたー」
悪気はないのだろうが、間延びした言いぐさは、まだ別の班の重要任務が完遂していないので若干気違いか。
桐野「あっ!!」
床の微妙な段差に体勢を崩した。運んでいた紙コップの中の液体が弘前の方向へと飛ぶ。そして彼女の服に……。
弘前「大丈夫?段差あるから気を付けて」
かかっていない。紙コップと、飛び出した液体は弘前の寸前で空中に静止している。
弘前は紙コップを掴み、空中のコーヒーをすくうと、一口含んだ。
桐野「す、すみません!」
弘前「いいえ、コーヒーどうも。ところで司令官。人体実験の件ですが…」
弘前涼香ランク6。能力者である。彼女は低質量の物質を操作する。
エリア04のとある造船所の倉庫前にて。
阪率いるC班5名は、手にサブマシンガンを構える。研究所では、暗い上に通路が狭かったため、扱いやすい拳銃を武器に捜索していた。リーダーによって異なるが、主に敵のアジトへ乗り込む際の基本の武器はサブマシンガンだ。
平生(何でエリア04に逃亡したって分かったんだろ、この人…)
平生は阪の背中を見ながら思う。すると阪は、平生をチラリと見た。
阪「何でエリア04だと分かったのか不思議そうな顔をしてんな」
平生「は、はい!」
平生(心を読まれた!?)
阪「ああいうのはニオイで分かる。エリア04の奴の特有のドブみたいなニオイがしたんだ」
はぁ、と気の抜けた返事をする平生。
感染者の1%未満は死なずに能力者になる。「CAF」内にも能力者は4名おり、全員が上位に名を連ねる。しかし阪は能力など持ち合わせていない。
阪「じゃ、行くぜ」
阪の突入に他の隊員も続く。中には10人ばかりのギャング達が、物陰に隠れようとしながら銃を向けていた。
C班と研究所で交戦した時の、ネイルガンで立ち向かおうとする愚者はいない。交戦した10代の彼らは囮ゆえ、拳銃は渡されていなかったのだった。
そして銃撃戦が始まった。
エリア05の「CAF」本部Aのトレーニング室にて。
??「992…、993…」
川崎「峰島!いつでも増援に行けるようにって、司令官の命令だ!」
川崎が勢いよく扉を開けて叫んだ。瞬間、ぎょっとした。スクワットをしながら重量上げをする男を見て。
峰島「ん?増援?はっはっははっ!」
必要以上に声を出して笑う男の名は峰島光良。抱えていた物体を下ろすと、ドン、という大きな音に加えて強めの風を起こした。
峰島「冗談でしょ?阪もいますし」
爽やかな雰囲気の峰島が持ち上げていたのはバーベルなどではない。
軽自動車だった。
ランク1の能力者、峰島。彼を一言で言えば、力持ち。
続く