1-5 大人の裏切り
チームβ、
全81名(新人3名含む)。
厳しい入隊審査を通過した者のみが入れる組織「CAF」。しかしチームβの活動範囲エリアは、全国でもトップクラスの治安の悪さを誇る地域であるがゆえに、死者の多さに反して入隊者は減少中。人員不足から派遣に頼っている始末。
司令官は経験豊富の牛嶋留彦。作戦上の隊列を構成するために、81名の中で実力のランクがある。もちろん実技試験を受けた新人3名も例外ではない。
エリア03の特殊高速道を走る護送車内にて。
桐野「三葉って、ランクいくつ?」
車を運転する桐野は尋ねた。運転免許は入隊必須条件。しかし新人の高宮はまだ18歳のペーパードライバーで助手席に甘んじる。
高宮「あっと…、81です」
桐野「あっ、最下位かー。つってもウチも最下位で入ったんだけどね。今は69位」
射撃、格闘、咄嗟における判断力など、様々な分野を元にランク付けされる。だが新人には実績や経験がないため、入隊審査の成績だけでは大抵の場合が最下位だ。
桐野「弘前先輩とか、シングルの人達見てるとホンット次元が違うよ…」
一般に、ランク一桁の者は上位と呼ばれる。その実力は二桁と比べて、文字通り桁違い。年齢を無視して任務の指揮を任されることが多い。
エリア03の広い研究所の跡地にて。
爆発から逃れきれなかったA班6名。負傷者5名、死者0名。鋼は本部と連絡をとっていた。
鋼「了解、俺と新人の深見で向かいます」
数分前まで建っていた広い研究所の面影はなく、そこは瓦礫の山と化している。鋼らA班が発見した時限爆弾1つの威力ではこうはならない。他の場所にも爆弾が取り付けられていたのだろう。
鋼「っ痛ぇー…」
鋼は瓦礫に尻餅をつきながら、肩に突き刺さったガラスの破片を引き抜く。出血はほとんどない。
深見「本部は何と?」
新人トリオの1人、深見はランク14という数値を叩き出している。すなわち超エリートだ。
鋼はただ1人、無傷で平然と質問する深見に苛立ちを感じる。
鋼「あぁ、こっちとC班とこはおそらく同一犯らしい。で、傷の浅い俺とお前があっちに助太刀に行くから。こっから近いらしいし」
深見は足に怪我を負った黒田を見た。鋼と深見以外はとても援護に行けるような状態ではない。
鋼「黒田さ…」
黒田「さっさと行け。上位が1人か2人かで全然違ーんだからよ」
鋼の気遣いを手の平で制した黒田はシングル外。しかし限りなく上位に近い、ランク10に位置する。
鋼「分かりました。新人、行くぞ!」
1台しかない装甲車に乗り込み、2人は出発した。
金髪のお調子者、鋼。ランクは9。
エリア04のとある造船所の倉庫にて。
ギャング達は2つの研究所に内部の者として、あらかじめ仲間を忍び込ませ、襲撃のタイミングから逃走ルートまで完璧にした上での計画的な犯行だった。
彼らが手に入れた抗ウイルス剤の数は計11本。すべて注射器型だ。坂口と唐沢は、自らの腕に注射する。
二人は感染者であった。だが、感染しても体調を崩したり痛みを伴うわけではない。黒いアザが出来る。外見の変化としてはただそれだけだ。
坂口「あーあ、でも能力者になるチャンスをみすみす逃しちゃったなー」
唐沢「そう悲観するな、坂口。噂だが、能力者になるには他にも方法があると聞く」
ウイルスは個人差によるが、感染して一月で発症するケースもあれば、わずか数十分で発症したと報告されたこともある。
発症すれば身体中から血が流れ出る。そして死に至る。ワクチンを摂取しなかった感染者の中で、30代以降の死亡率が100%。が、一方で30歳未満の死亡率は99%。1%、死なない。
大場「残り9本はどうするんスか?」
「CAF」のC班から逃げきった大場。彼と捕まった仲間らは10代だ。
抗ウイルス剤はたいへん貴重で、裏では高値で取引されている。大量生産が難儀していることに加え、一度ワクチンを摂取したとしても、再発症した例が過去に何度もある。つまり、抗ウイルス剤はたくさん保持するに越したことはない。持っているだけでリスキーな代物。
坂口「大場よぉ…」
坂口がガムを噛みながら、言葉を続ける。
坂口「何でテメーらのグループが4人で、こっちのグループが10人だったのか知ってっかー?」
大場「は?そっちの研究所のが広いからって…」
坂口は近くに転がっているネイルガンを拾い上げた。
坂口「囮だったんだよテメーらガキ共は」
照準は大場。バシュバシュと軽やかな音が数回。長い釘は大場の目や首に直撃した。
坂口「ホントは全員帰ってこないでよかったんだよ、足がついちまうからよー」
口の中のガムを、惨死体の側に吐き捨てた。そこで唐沢や他の面々は倉庫外の異変に気付く。
唐沢「おい待て、何か音がしねぇか?」
坂口「まさか…、「CAF」!?馬鹿早ぇ!」
続く