1-3 釘の武器
エリア03の巨大研究所の第三実験室にて。
粉塵に巻き込まれたC班4名。入口にいた平生以外は視界が奪われる。
阪「催涙ガスだ!!」
隊員達は入口へと引き返そうとする。だが、
ふわっ、と阪の横に風が吹き抜けた。その変化を見逃さない阪は、風を起こした謎の影に掴みかかる。
??「ぐあっ!!」
片手で捕まえたその影を、床に叩きつける。
仰向けになったのは、迷彩服姿の男であった。ガスマスクを着けている。
阪「おい!!犯人がいる!気を付けろ!」
と、男を押さえつけながら、見えない隊員達に向かって怒鳴り付ける。
カチリ、という音が聞こえたのは阪の真下からだ。それが阪の顔面に向けられた攻撃するための道具だと判断する前に、直撃寸前で頭を動かしてかわす。
バシュ、と鋭い何かが阪の頬を傷付けた。
阪「ちぃ…!」
阪は男の武器を持つ腕を弾き、ガスマスクを奪った。
煙が撒かれてから阪がガスマスクを入手するまで、わずか10数秒の出来事。
その間に白煙の中ではいくつもの足音やうめき声があった。他の隊員達も交戦しているのだろう。
それでも一人分の足音が入口へと駆け抜けていったのは確かだった。武装をしていた隊員の重量とは若干違う音。
阪「一人逃した!平生、捕らえろ!」
平生「!」
部屋から漏れ出す煙から一人のガスマスクをした男が飛び出した。平生は煙の届かないギリギリの位置に立っていたため、男に肩をぶつけられた。ガスマスクの男はそのまま走り去ろうとする。
平生「ちょっ!!」
突然の出来事にもなんとか拳銃を向け、発砲。しかし、角を曲がった男には当たらなかった。
平生はそのまま追跡を試みる。
エリア03の広い研究所の第一研究室にて。
鋼「んだこりゃあ?」
若手の鋼、ベテランの黒田ら擁するA班は、大量に転がった研究員達を目撃していた。
一人一人の息を確認するものの、全員死んでいる。
黒田「駄目だな、全滅だ」
柱のような長身の、黒田が吐き捨てる。そしてそれらの死体は共通して、大量の太く長い釘が刺さっている惨殺状態。
待ち伏せに注意しながらさらに奥へと進んでいく6名。長い通路を鋼を先頭とする。
拳銃を手に、走っていたその時。脇の壁に不審な小さい機器が取り付けられていたのに鋼は気付く。
「00:42」という数字を横目で見た。そしてその数値は41、40と減っている。その存在に黒田もすかさず気付いた。
黒田「!?」
鋼「ヤバっ!!戻れ戻れ!!」
隊員に後退を命じる鋼。その機器が時限爆弾だと認識したためだ。
やがて、研究所周辺には轟音が響きわたった。
エリア03の巨大研究所にて。
阪「逃がしただと?」
平生「す、すみません。見失ってしまいまして…」
阪「ば!っ、…………」
逃亡を許した平生を叱咤しようとするが、冷静さを装う。左手で頬から流れ出る血を拭いながら思う。
阪(いや、これはリーダーの俺の責任か。初日の平生に入口待機させたのは配置ミスだったな…)
奇襲を受けたものの、C班の死者はいない。他の隊員達は、自らが撒いた催涙ガスで気を失っている襲撃者ら、計3名を取り押さえている。
逃亡者を含めてたった4名で襲撃に成功した、ということは内部に手引きしていた者がいたのだ。
今の時代、あらゆる施設のセキュリティは厳重である。中でも研究所という施設は、抗ウイルス剤の開発の有無に関わらず、警戒レベルは高い。普通に襲撃するならば、最低でも50人は必要となってくるだろう。
阪「西脇さん、大丈夫ですか?」
阪は深手を負った隊員、西脇の様子を心配する。まとめ役の阪だが、隊員5名の中での年齢は3番目。強面で屈強な体格から老けて見られがちだが、実際かなり若い。
西脇「ああ、大したことはない」
西脇は肩と足を撃ち抜かれている。ただの拳銃によるものではない。
釘を撃つ工具用の道具、ネイルガン。襲撃者は拳銃ではなく、ネイルガンを肘から手首にかけて巻き付けて装着していた。
拳銃の入手が難しくない時代、あえてネイルガンを選んだ理由は二つだとC班は予想する。一つは改造され連射可能になっており、内蔵本数が多いから。二つ目は、腕に取り付けていることで格闘の達人相手でも弾かれる心配はないからだと。
西脇「こいつら、多分ギャングだろ」
阪「でしょうね、薬狙いの。誰も持っていないってことは、おそらく逃亡者が所持してたんですね」
本部への連絡のため、圏内へと移動する一同。
平生(俺、足手まといだな…)
続く