1-2 三つの研究所
エリア03のとある広い研究所にて。
鋼が指揮をとっていると「される」A班の6名がいた。敷地だけならば学校と同等の広さの場所。
鋼「俺まとめんの無理ですよ、黒田さんお願いしますって」
黒田「黙って仕切れ」
全身を黒でコーディネートした背の高い男が冷たく突き放す。多少洒落た格好だが、当然内側は武装している。
黒田「テメーが一番上だろ」
黒く薄めのハットをかぶり直して言った。黒田征一郎は班の中では41歳で最年長。指揮を執るのは実力順の場合もあり、それが今だ。
ウッス、と軽く頷く鋼だった。
深見「黒田先輩、ちょっといいですか」
エリア03のとある地下研究所の地上地点にて。
弘前を中心とした8名のB班が到着していた。数少ない女性隊員が3名と固められている
襲撃された、という点では他の2班と同じだが、任務は被害の確認に加え、負傷者の保護。生存者の確認はない。つまり死者はいないのだった。
護送車で来ていたが、研究員の数が予想より上回っていたため、数分前に護送ヘリを呼んでいた。薬品や機材の損傷がひどく、室内は半壊の有り様。
新人の高宮はもう1人の女性隊員ら3名と共に、地上で負傷者を護送車に乗せるアクセス役を担っている。
高宮「地下なのに襲撃されるんですね」
桐野「まぁ、抗ウイルス剤を作ってるって知られたらどこだろうと危ないのよ」
先輩の桐野美鈴はそう言った。長い茶髪をポニーテールにしているつり目の彼女はまだ20歳。
桐野「名前三葉だっけ?弘前先輩ってさぁ、素敵だと思わない?」
高宮は元々、班長の弘前と共に地下の救助へと向かう予定だった。しかし地上役の桐野が高宮との交代を志願するなどいざこざがあったため、二人揃ってアクセス担当となった。
桐野「あの人に憧れてわざわざこんな酷い環境の部に入って、最近になってやっと同じ班組んでもらうようになったんだけど。三葉は初任務で同じ班なんてついてるわね」
そこで高宮は何故地下への探索を志願したのかが分かった。
ところで、と、さらに弘前の話を続けようとする桐野を遮るように尋ねる。
高宮「なんで救急車呼ばないで護送車なんでしょうか?少ない人員割いてまで…」
桐野「……三葉、新入りだから知らないんだね…」
エリア03の巨大研究所にて。
C班は阪を先頭に探索中だった。阪は初め、平生に対し新入りの扱いはしないと宣言していたが、実際探索しながら指導はしていた。
阪「っと…」
右手で隊列を静止させた阪。さらに指の動きで隊員を配置させる。
迎えるは電気が通っていないのか、扉のない、完全な闇の部屋。
拳銃を構えながら、小さな懐中電灯で部屋を照らし進む4名。平生は部屋前で待機だ。
突如、プツン、と先頭の阪の足下で何かが切れた小さな音が。
阪(ピアノ線か!?)
阪「全員、下がれ!!」
命令を出した瞬間、爆音と煙が隊員達を襲った。
エリア03のとある地下研究所の内部にて。
弘前はおそらく研究所職員でも偉いであろう、鯨川と呼ばれる眼鏡を掛けた人物と話している。近くにも3人、無傷の職員がいる。
弘前「それで、襲撃者は単独犯なんですか?」
鯨川「はい多分。誰も複数の姿を見ていないって言うんで」
弘前「そうですか。それで何故あなた方は背後の扉を遮るように立っているんです?」
と、職員3人に向かって言う。
弘前「被害確認をしないといけないので」
鯨川「いえ、あちらは危険な薬品を取り扱っていますので、立ち入るのはちょっと…」
眼鏡を上げながら彼女の侵食を阻止する。
その対応を見て、弘前は冷たく言い放った。
弘前「この研究所が人体実験をしてるって情報は入ってんのよ」
鯨川ら4人はゾッとした。
鯨川「くっ…!!」
そして一斉に白衣の内側から拳銃を取り出す。弘前は表情を変えない。腰に装備していた拳銃をゆっくりと構える。
彼女よりも先に研究員が発砲。
ドンドンドン、と銃声はしたが、弘前は無傷。そして何故か足元の床にいくつもの弾痕が。
鯨川「!?」
一瞬戸惑った隙を狙い、弘前は8発、4人の両膝を無駄なく的確に撃ち抜いた。苦痛の声が響く。そして研究員らの武器を取り上げる。
鯨川「っ、貴様、能力者かっ…!!」
弘前は男の言葉を無視し全員に手錠をかけ、右肩に装着した通信機に口を当てる。
弘前「こちら弘前涼香、研究員4名の身柄を保護及び確保。これで全職員の拘束完了」
続く