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9/11

≠?

そこはおどろおどろしいお屋敷だった。


魔王城で期待したデフォルメそのままに、+αでとにかく日当たりがよろしくない。

鉄格子が嵌められた窓は、重厚なカーテンの隙間からは割れたガラスが覗いている。

ギャアギャアと謎の黒鳥が鳴き喚き……ちょっとでか過ぎだろ、あの鳥、怖いんだけど。

とにかく、魔族の住まう国のイメージそのものを凝縮したかのようなお屋敷だった。



「ち、ちょっと、何ここ、こんなとこ泊まるなんて無──」

「や……やあやあ、よ、よう、こ……そ……わ、我が屋敷、へえぇぇ……ぐええっほ!げっほ、げっほ!」

「旦那様!ご無理はなさらずにとあれほど……!」

「だ、大丈夫……じゃ、けえ……ゼーゼー」



あきらかに大丈夫じゃなさそうだけど。


某沈没豪華船映画さながらな中央階段 (でもおどろおどろしい) からえっちらおっちら降りてきたお爺ちゃんが、ゼーハー言いながら使用人らしき青年に止められていた。

咳き込んだりしてるけど……掃除しないからじゃない?

持病持ちなら、ハウスダストも気にした方がいいと思うよ。


否定の言葉を遮られたことより、お爺ちゃんに興味が行ってしまった。

腰痛なのか年なのか、ばっきり二つに折った腰、ついた杖は腕力さえ弱っているのかカタカタと震えていて、うっかりすると持ってない方が安全なんじゃないかと思わせる。

薄っすらと残ったロマンスグレーを何とか無理矢理後ろに撫でつけ、自宅らしいのに着ているのは燕尾服。

ついでに、使用人らしき青年が着ているのも蝶ネクタイ付き燕尾服。

皺々の顔は日に当たっていないからか真っ白で、蓄えたロマンスグレーの髭は小綺麗にデザインされており、それが何だかアンバランスだった。

たぶん、背は低くないと思うんだけど……てか、青年はやたらとこれまた美形であらせられること。

魔人か?

てことは、彼をお抱えにしているお爺ちゃんも魔人?

魔人て、お爺ちゃんもいるの?


と、ここでエウがついと前にでる。

何何、もしやエウも負けず劣らずハウスダストに弱くて一言物申すとか?

おう、言っちゃれ!



「久しいな、ドラキュラ伯爵」

「……」



予想を斜め上行く発言に、ガ─────ン!と、またも金だらい落下が見えた。





現在、あたしは応接室で茶をしばいております。

ここ──ドラキュラ伯爵邸で。



「す、すまん、のううぅ……わざわ、ざ、げーっほげほげほげふっ……あーっとぉ!ッカー、ぺっ!」

「旦那様、絨毯に唾を吐かないでください」

「おお……す、すまん、のー」



お爺ちゃん、最後まで喋れてないよ。


さて、言わずもがなドラキュラ伯爵と言えば、15世紀のルーマニアの領主であり別名串刺し公と呼ばれたヴラド・ツェペシュをモデルに、イギリスのアイルランド人作家、ブラム・ストーカーが書いたホラー小説が有名だけど……



「して、皆様、は……あ"─────っ、げっほ!」



だけど……



「如何し、て……ごっほぅえーっほ!」



だけど……



「こちらに、いらっしゃった、の……でえぇっほ、げっほ!」

「わたくしが変わってお話させていただきます」



その方がいいね、異議なく満場一致だしね。


だけど、ドラキュラ伯爵ってあんなんだったの?

まあ、世界が違うわけで、たまたま名前が同じだけかもしれないけどさ。

でも、ノンパレイルキッチンがあるなら、ドラキュラ伯爵がいたって別にね。

おかしくはないように思うんだよね。

ドラキュラとか言ったってお爺ちゃんだし、てか、何でもありなんでしょ、きっと。

上手く(?)翻訳されてるだけかもしれないしね。


ドラキュラお爺ちゃんについては、敢えて知識データベースも漁らないことにした。


と、ここでまたもやエウが口を開く。



「現魔王から通達があったと思うが、届いていないだろうか」



と、答えるは美形青年執事。



「はい、届いております。ヒーロー御一行様を一泊と、装備諸々の準備でございますね。しかと、承る所存にございます」



と、ドラキュラお爺ちゃんが。



「え、ええ、そうなん……ジーヴァ、お主、そ、そんなこ……げーぇっほげほ!」

「お部屋はすでにご用意してあります、エウ様」



お爺ちゃん、普通にスルーされてるけど、旦那様じゃなかったのか。

最初の方こそ心配されてる様子だったけど、後は微妙に (かなり) 蔑ろにされている。

威厳ナシ、ドラキュラお爺ちゃん。

もうお休みになられたら如何かと、進言したいくらいの扱いだ。


いろいろ今さらだが、ふと、湧いた疑問を口にした。



「あのさ、準備って、魔王様がすでにしてくれたんじゃないの?」



だから出発に三日も要したわけでは?


すぐそこの城下町ノンパレイルキッチンに一泊する意味が見出せず首を傾げたなら、あまりにさらっと、BBが答えをくれた。



「あのゼルがそんなことするわけも出来るわけもないよ。彼はね、無類の怠慢魔王なんだ。ここの宿泊許可願いを直々に書いただけでもよく働いた方だよ」

「だな」

「だね」

「魔力と容姿だけの魔王だと聞いてはいたが、あれは本当だったのか」



続いたエウ、ディルは魔王様の実態をどうやら知っていたらしい。

最後のトリエーチに限っては、呆れついでに眉を寄せていた。


上記の様子から推測するに、魔族タンジーナバロウ竜族ドラゴラム妖精族エルフェニアとは、どうやら国交が盛んらしい。

獣人族ベットバビナスタとは、噂が及ぶ程度ってことだろうか。

BBは魔王様をゼルと呼ぶけど、結構深い仲ってこと?

それとも、あたしが常識とするような主従関係と魔族のそれは、ちょっと違うのかな。


ここで出番の知識データベース──



「ああ、俺とゼルは幼馴染なんだよ。生まれた時期が一緒でね、彼が魔王に就任して、俺は補佐官の役割を与えられたんだ」



……せっかくの知識データベース、出番ナシ。


いやいや、まだまだ!

さっきからほら、何故かドラキュラお爺ちゃんとエウは顔見知りっぽいし?

そこを漁って──



「ちなみに、ドラキュラ伯爵は我らが竜族の血を引いている。格はわたしが上なので、魔王の手紙に一筆添えたのだ」



エウがすかさず補足説明までしてくれた。



「……あのさ、」

「どうした」



表情筋という言葉が辞書にないエウに、「……何でもない」と言うしかなかった。

情報共有、本当に必要だった?

ねえ、必要じゃなくない?


……あれ?



「えっ?ドラキュラお爺ちゃんが何だって言った?」

「竜族の血を引いている」



え。



「えええぇえ─────っ!!???、て、ちょ、腰を撫で摩るな!」



何故かこのタイミングでさわさわと動き出したBBの手を叩き落とし、それでも驚愕は止まらない!

BBの厭らしさ全開な艶笑も止まらない!

止まらないよノンストップ!

BBのにやにやは止まれ!

じ、じゃあ、お爺ちゃん (ドラキュラ省略) 竜になれちゃうの!?

いや、なれなかったから魔族タンジーナバロウにいるのか!?



「旦那様は竜族とのハーフでして、竜型は中途半端以下だったのですが──それにしてもずいぶんと今回の異邦人の方はお若いのですね──魔力は高く──おいくつですか?未成年?──よって、こちらに屋敷を構え、奥様と一緒にお世話に──と言うか男子おのこ女子おなご?──なっている次第でして──BB様のお手つきですか?女子おなごでしたらすでに処女おとめではないですか?──わたくしも同じく竜族の血を引いてはいますがクォーターでして──それにしても幼いですね──竜型は取れません」

「……そ、そうなんだね」



ジーヴァと呼ばれていた青年執事が、いろいろだだ漏れ状態で話してくれた。

初対面でこれだけ失礼にだだ漏られたのは、人生初だったよ。

失礼だけなら三日前に経験済みだけど、あれはドストレートだったからなあ……現在進行形だよちきしょうめ。



「最初から処女おとめじゃなかったらしいよ」



何故このタイミングでディルはそのレスポンス選択したの、ねえ!?

キラキラエフェクト掛けてりゃいいってもんじゃないから!

いっつも必要なことは言わないくせに、本当、下ネタだけはレスポンス最速だなこいつらは!


こ い つ ら は !!!!!





──そして、衝撃の事態まで、後数時間。

ということに未だ気付くはずもなく、ただこの時は「いつ旅は始まるんだ」と、BBの手をまたもや叩き落としながら考えているのみだった。


お爺ちゃん、寝落ちしてたけど。


ドラキュラ

ルーマニア語/『竜の息子』という意味があり、また『竜は悪魔』という意味もあるらしい。

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