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ノンパレイルキッチン

翌日朝、魔王様に呼ばれてあの美少女面を拝見して、ようやく昨夜のとんでもハプンを思い出したあたしは、それゃあもう抗議した。

魔王ゼルガスディは「ふうん、そうか」と素っ気なく言っただけで、労わりの言葉とかは特になかった。

興味ないにもほどがあるでしょうよ。

あたしが起きなかったのも悪いが、それ以前の問題でしょうよ!

それでも挫けず抗議しまくったら「だから、BBが一緒に寝ると言っただろう」と、射殺さんばかりの視線で言われ、強制終了。


魔王様、血も涙も興味も皆無。


何なの、あたしは重要な生贄ヒーローじゃないのか。

死んだら困るだろ、あたしも貴方達も!

いや寧ろ生贄だからいいと言うか!


憤慨冷めやらぬあたしにBBが苦笑を漏らす。



「あれでもゼルは心配したんだと思うよ」

「どこが!」

「普段なら一言だって話さずに目で射殺して終わりだから」



……目で、本当に射殺せるんだ?


これ以上は恐ろしいので、いろいろと黙殺して強制終了。


で、今。


突然ですが、旅立ちを迎えている。

昨日の今日で?

ねえ、あの、本当に魔王様、あたしのこと心配してた?

攫われたのって昨夜だよね?

乙女に対してこれは、あまりに配慮がなさ過ぎではないの、ねえ?


……まあ、しつこいしもういいや。

よくわからんが、剣を鞘に収めないと帰れないんだもんね。

やりますよ、やるやるーあたし超がんばっちゃう!

……で、何するわけ?



「ヒーロー御一行出立!開門!」



仰々しく高らかな声と共に、そびえんばかりにどでかい門が、ギイ─────ッと開く。

外に出たのが誘拐以外になかったからあれだけど……何か、魔城って感じじゃないんだね。

もっとこう、おどろおどろしいデザインなのかと思ってた……イメージカラーは黒と紫、蜘蛛の巣はデフォルメです、みたいな。

そう言えば、城内も白と木目ベースで小綺麗だったな。


案外、普通。

存外、落胆。


RPGのボスキャラの城をイメージしていたのに。


もっとあたしを落胆させたのは、ある意味想像通りの活気溢れる城下町だった。

所々街道に沿った植え込みは綺麗に切り揃えられているし、大通りは馬車(馬らしき生物が引いているから)が通りやすいようにか歩きやすいようにか、石が敷き詰められている。

建物はレンガ造りで、結構普通だった。

本当、西洋の街並みみたいなイメージ。


活気、超溢れてる──『人』がいないけど。


爬虫類っぽいけど二足歩行で人語を解する謎の生物から豚っぽい生物 (獣人とどう違うの?)から兎の耳をくっつけた……でも顔はライオンで尻尾は蛇の生物などなどなど、バリエーションは幅広く揃えているようで。

ときどきやたらと美人が混じってるんだけど、あれが魔人かな。

その隣を歩いてる男(雄?)があきらかにもう人型じゃない何かなんだけど、魔人さんは頬を染めてはにかんでたりするから、まあ……いいのかな……趣味嗜好は本人の自由ということで。


そんなわけで、あたし達ヒーロー御一行は出発したのである。





「え、もう休憩?」

「休憩ではない、今夜はここ、ノンパレイルキッチンに一泊する予定だ」



魔王城を出て訳一時間、がったんと馬車が止まったのは、城下町ど真ん中のとあるお屋敷前だった。

休憩かと問えば、全く表情の変わらないエウに即座に否定される。

されたうえ、仰天の事実がその口から飛び出した。



「は?え、一泊?ここに?」

「そうだよー。ここはね、いろいろ揃えるのにちょうどいいんだ」



にこっとキンキラ王子ディルが無邪気に笑ったけど。

いや、いやいやそうじゃないだろう。

さっき出たばっかじゃねえか!


──で、



「待って、さっき何て言った?」

「いろいろ揃えるのにちょうどいいって」



かくっとディルが首を傾げるが、聞きたいのはそこじゃない。



「その前」

「休憩ではない」



エウが淡々と答える。

お前の表情筋は飾りか。

それはまあいい。

違う、そこまで遡らない。



「その次」

「ノンパレイルキッチンに一泊する」

「ノンパレイル……キッチン、だと?」

「ここの城下町の名前だけど、どうかした?」



せっせと馬車から荷物を下ろしに掛かっていたBBが、あたしに視線を投げた。





──魔王城の城下町が天下の台所ノンパレイルキッチンって、どういうことだ!!!!!



「ネーミングセンス皆無!」

「うるさいぞ!さっさと降りろ!」



トリエーチに引きずり降ろされながらも、あたしは納得出来なかった。

てかあんた、マジであたしのこと女と思ってないでしょ!?


ノンパレイルキッチン

和訳/天下の台所、または無類の台所(都市)


という意味。

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