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デビル・ザ・ナイト

現在、くくられてます。

「どこに?」って聞きたいじゃない?

聞きたいに決まってる、人とはそういう生き物だから。

わかってる、あたしはわかってる。

だから、声も高らかに教えてあげます。


──丸太にだよ!



「ダンダライーヤーダンダラヤー、ダンダライーヤーダンダラダラダラ」



踊ってます。

目の前で、なまはげみたいな仮面を付けた謎の部族達が。

謎の歌詞を恭しく歌い上げながら。


ねえこれ、もう、どうしたらいいの。

どっから突っ込んでいいかわからないんだけど。

なまはげならなまはげらしく、出刃包丁持って「わるいごいねがー!?」でいんじゃないの?

そっちの方が、やりたいことがわかりやすいと思うよ。

「ダンダライーヤー」じゃさあ、括り付けられてる側としても、反応に困るわけ。

何となくわかるけど、それはそれで、やっぱり反応に困るわけよ。


だって、わかりたくなんかないじゃない!


またも混乱状態で、自分の思考回路さえセーブ不可能だ。

もしや「ダンダライーヤー」ソングは混乱呪文か!?



「ダンダライーヤーダンダラヤー、ダンダライーヤーダンダラダラダラ……イヤ!」



バッ!と素っ頓狂なポーズを決めて、謎の部族達による謎の演目は終了した。

「イヤ!」は決め台詞だったわけね。

噴かなかった自分を褒めてあげたい。

猿轡嵌められてる状況は、ある意味、功を奏したと言って過言じゃないのかもしれない……そんなわけあるか!



「呼んだか」

「ぶっ──んぐっふっ」



功を奏しませんでした。

猿轡嵌めた状態で噴き出そうとすると、噴き出した反動で若干前傾姿勢になるので、口の端に丸太ごと縛られた縄が食い込んでものっそい痛いです。

もうしません、我慢します。


だって、突然何処いずこより登場ましましたこの人、「呼んだか」って言ったよね?

ダンダライーヤーソング (命名)は混乱呪文ではなく、この人を呼ぶための召喚ソングか何かってことでしょ?


あたしだったら、あのソングで呼ばれたくない!

末代までの恥にもほどがある!



「お前が異界より召喚された生贄か」



……ああ、この人も生贄って言った。

ヒーローはどこに行ったの、生贄ヒーローが正式名称じゃないの?

そもそも、生贄とヒーローを一緒くたにするのが間違いだと思うけどね!

現状では生贄で間違いなさそうだけど。


ダンダライーヤーソングで呼ばれたらしい彼は、真っ黒なロングのフードコートを着ていた。

顔は見えないけど、刺さるような鋭く冷たい声をしている。

その彼が、ぱさっとフードを取った。

……これはまた、BBやディルとは違う、ずいぶんと冷涼な美形だこと。

エウも涼しげな美形ではあったけど、割りと逞しい男性的な感じだった。

それよりもっと線が細くて、ナイフみたいで、中性的だ。

彼は一通りあたしを舐めるように上から下まで観察して、ふっと、嘲笑いながらこう言った。



「私はダンダライーヤー・ダン・ダラヤ。拝めたことを光栄に思え」



あたしはまた、噴いた。





──遡ること数時間前。



「本当に大丈夫?」

「大丈夫です」

「だけど、」

「結構です」

「でも、」

「結構です」

「やっぱり」

「結構だっつってんだ!」



散々一緒に寝るんだと聞かないBBを押し退けて、あたしはようやく平穏無事な夜を手に入れた。



「ええー、ヤろうよ」



何をだ!


ドア向こうからした言葉に思わず言い返したくなったけど、敢えて無言を貫きやり過ごした。

構ったぶんだけ攻防戦は長引く。

スルーに無視が一番!


どうやら、鍵を掛けなくても入って来る様子はない。

BBはね……他は知らんが。

鍵、付いてないけどね。


そんなわけで安らかにベッドで爆睡してたのだ。





──で、今に至る。


何これ、特に説明とかいらないような……。

て言うか、攫われたなら攫われたで、何で起きなかったかな自分!

ウェイクアップですでに丸太に括られてたって、どういうことだよ!

それ以前に、BB達は何してんの?

勝手に召喚したんだから、もっとこう、責任持って欲しい!

謎の演目を終始見せられたあたしのいろいろと複雑な心境をどうしろと!?

てか、この人どうしたらいいの!?



「ふん、あまりの恐怖に声も出ないか」



猿轡外してくれたらレスポンスは可能なんですけどね。



「お前がいては困るのでな。……まあ、察してはいるだろうが」



やっぱり、そういう流れ!?

どうしよう……台詞に全く捻りもくそもなければ、結果までがお決まりのものらしい。

こういうところはセオリーなんだ……最初はあんなんだったくせに。


ダンダライーヤーは薄く嘲笑わらったまま、謎の部族に支持を出す。



「燃やせ」



わああぁあ!

だよね、やっぱりそうだよね!

足元にやたらと藁とか小枝とか盛られてるもんね!

ど─────しよ─────っ!?



「ふむむほへふははい!(ほんとごめんなさい!)ほふははははいはは!(もう笑わないから!)いいははへはほほほふはらーっ!(いい名前だと思うからーっ!)」



あたしはテンパっていた。

混乱と恐怖真っただ中だった。


ゴツッと鈍くも響く音がして、ドサッと何かが倒れる音、それから、謎の部族 (この人達は何なんだ)がどよめき出すまで、目を瞑っていたから。



「また君か」

「……──?」



……聞いたことある声だな、と思って、そっと目を開ける。

まだ足元は燃えていなくて、そこには──



「お待たせ」



にっこりと場違いに妖艶なる笑みを浮かべた美女──もとい、BBが、ダンダライーヤーを足蹴に、鉄パイプを持って立っていた。


ごめん。

やっぱりいろいろ、どうかと思うよ。



「いやあ、まさかダンがこんな行動に出るとは思わなくて。まあ、実行したのはダンの下僕達だけど、完全に隙を突かれたみたいでね」



丸太から下ろされたあたしは、猿轡を外してもらいながら怒りマックス。

気絶したダンダライーヤーがBBに片手で引き摺られてて大変なことになってはいるけど、そんなのは自業自得だ。

今なら限界突破で9999のクリティカルヒットが出せそうだよ!



「何、隙って!あのね、勝手に召喚したんだから、警備とか保護とかそこんとこちゃんとしてくれないと困る!生命の危機とか困る!」

「まあ……でも、なかなか笑えたでしょ」



生命を賭けた笑いはいらないから!

いや、笑っちゃったけど!

不可抗力で異議なし!


ちなみ、謎の部族はやたらとおとなしくなってはいるけど、目がちょっと危ない。

たぶん、BBの魅了チャームにやられてる。

薄ぼんやりと紫色のもやが漂っているのが、何よりの証拠だ。



「そんな怒らないで。ヨリもよくなかったんだから」

「あたしが?何で」

「一緒に寝ればよかったんだよ」

「やだ」



即却下。



「……やっぱり、魅了チャームが効いてないね」

「あたしにまで掛けたの!?また!?」



だから嫌なんだ!と言おうとしたなら、先に口を開かれてしまった。



「追い出された後、ヨリの部屋に結界を張ろうとしたけど無効化された。いろいろ試してはみたけど、全て効かなかったんだよ。で、ドアを開けたら、すでに攫われた後だったってこと」



その短時間で爆睡の域に到達出来る自分がすごい。



「……結局ドアは開けたんだ……」

「まあね」



選択肢は最初から『られる』か『られる』しかなかったらしい。

……何故この二択。

奇跡の『無事生還』コマンドが出たので、終わりよければ全てよしにしとこう!


何とかイベントを自分的に消化しようと奮闘しているうちも、BBは説明を続けている。



「だからつまり、ヨリは『無の魔力』持ちだってことだね」



無の魔力?

ああ、何か最初にそんなこと言ってたような。

無の魔力、無の魔力──知識データベースを無言で漁る。


『無の魔力』──全ての魔力を無効化する魔力。


ガ─────ン!


召喚されてから二度目の金だらい落下が見えた気がした。



「何、無効化って……結界も無効化されちゃうなんて、何て使えない魔力!」

「だから一緒に寝ようって言ったんだよ」

「違う!BBは『ヤろう』って言ったの!」

「どうせ一緒にいるならね」



落ち着かせるために頭を撫でてくれていただろうその手の動きが、微妙に妖しくなってきたので、バシッと叩き落とした。

もうやだ!

まだ二日目なのに、この仕打ちは何!?



「うーん……わかった。今日はしないから、おとなしく一緒に寝て?」



「ね?」といたずらっ子みたいに微笑まれて、少しだけ、BBが素敵に見えてしまったのは、きっと、何だかんだで助けてくれたからかも……しれない。

小さく頷いたあたしをまたもや米俵担ぎして、片手には鉄パイプ、足でダンダライーヤーを踏み付けたまま、BBは一瞬にして、お城に帰還したのでした。


流石は上位魔族。

鉄パイプは忘れよう。





ようやく本当の安眠を手に入れたあたしは、ダンダライーヤーについて、すっかりさっぱり忘れ去っていたのだった。


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