ヒーロー5
ここまで。
結構展開早い気がしてはいるけど、話自体に展開はあんまりない。
個人的な展開が早かっただけで……人外と致しちゃったよ、あたし……。
お陰様で、喚ばれた理由はぼんやりとわかったけどね。
それしかわかってないし、それさえもぼんやりだけどね。
いいんだ、もう。
気にしないんだ。
生娘でもあるまいし、犬に一発噛まれたと思えば!
若返っちゃったのも、狐に抓まれたと思えば!
……思えば、ね……。
脱力したあたしをあろうことか米俵担ぎで部屋を出たBBには、やっぱり、デリカシーは皆無と見たよ。
その見掛け倒し、ほんっと、どうにかしたらいいと思うよ。
しかし。
「でっかいね」
「あそこが?」
やめなよ本当、その絶世の美女顔で。
やめなよ、ていうかやめてください。
「身長が。あたしちびっこだからさあ、羨ましいなあ」
見事に当たり障りなくスルーして、思ったことを口にした。
そう、BBはでかかった。
いくつあるんだろう……190以上あるんじゃないのかな。
「ヨリも、見掛けによらずすごくいい具合だったよ。可愛く啼くし、しがみついて離れないし、締まりもいいよね。あんあん言っちゃってさ、あはは」
「……」
スルーしたじゃないか!
何故、わざわざ混ぜっ返すの!?
何故!!!!!
下ネタは内輪の飲み会で充分なんです!
ああ、通路の人達の生温い視線が痛い……。
揺れる見事な真紅を間近で眺めること少し。
担がれたままに、どこぞの応接室らしき場所に到着した。
「いらっしゃい、我らが生贄の最後の者よ」
穏やかながらもからかうようなハスキーボイスからは、すでに『ヒーロー』の言葉さえもなかった。
……本当にただの生贄だったらどうしよう。
未だ顔も見えない声の主に対峙したBBが、やんわりと溜め息をつく。
「やめてやってよ、共有が上手くいかなくて混乱気味なんだから」
「お前が失敗したとは、世の中にはまだまだ不可思議なことがあるものだな」
おかしそうに笑ってるけど、あたしは笑い事にも冗談にも出来ません!
ひとこと言ってやりたくてぐいっと上体を反らして……
「む、無理……」
諦めました。
ああ、あたし、背筋弱かったっけ。
情けない!
「あ、ごめんね」
本当に思ってるんだか怪しい謝罪を口にして、BBは、あたしを正面に向けて抱え直した。
降ろす気はないらしい。
で、
顔を見てびっくり。
絶世の美少女が、くつくつと笑ってこっちを見ている!
あれ!?
ハスキーボイスじゃなかったっけ!?
貴女じゃないの!?
まん丸にした目でこれでもかってほど凝視していれば、BBにあっさりと目隠しを食らってしまった。
「せっかくわたしを見ていたのに」
「目が腐るよ、ヨリ」
「ふん、嫉妬か。お前も所詮は雄だな」
「お、雄?」
魔族って、雄雌の判断なんだ!?
一応、不可抗力ながらも情報共有に勤しんでくれた……ええ、もう、そりゃあ勤しんでくれたBBのお陰様で、多少の知識ベースはあたしの中にある。
この世界イヴィーには五つの大国と、七つの小国が存在している。
中央を陣取るのがここ、タンジーナバロウ大国。
よりによって、魔族の国なんだって。
魔族の国が世界の中央を陣取ってるってどうなんだろう。
大国は後四つ。
一つ。
山脈と岩壁に囲まれた竜族の住まうドラゴラム大国。
何となく覚えやすいよね。
ドラゴンイメージのネーミング。
ただ、厳ついイメージしか湧いてこない……エウの国なのかな。
一つ。
森と泉、広大な草原を持つ緑豊かな妖精の住まうエルフェニア大国。
これも、エルフイメージで覚えやすい。
きっと綺麗なんだろうなあ、行ってみたいかも。
一つ。
深き森と多数の港を持ち、商業的にも発展を遂げた獣人の住まうベットバビナスタ大国。
……獣耳付きってことかな?
ふわふわがたくさんいるならぜひに見てみたいけど、国名は噛みそうに長い。
一つ。
最後の大国は世界最弱と言われる人間の住まうヒューグ大国。
ここにはどうやら、あたしの同種がたくさんいると予想。
帰れなかったら、諦め半分で勝手にここにお世話になるつもりでいる。
さて、ここであたしは思考する。
大国は五つで、共有された知識ベースによると、『生贄ヒーロー』はどうやら五人。
言わずもがな、BB、エウ、ディル、トリエーチ、そして何故だか召喚されたあたしのことだ。
予測してみよう、いや、してみたい。
BBは淫魔族、つまりは魔族ってことで、タンジーナバロウ大国代表?だとする。
エウは自分で竜族って名乗ってたから、ドラゴラム大国代表。
ディルはキンキラキンの色彩と現実離れしたビューティーオーラから、この理屈で当て嵌めるなら妖精国エルフェニア大国代表としよう。
トリエーチは……見たとこ、普通なんだよね。
群青色の髪色とか、ありえないんだけど、まあ、見たとこ普通。
ヒューグ大国人間代表?
あたしは?
異邦人代表?
そう考えて首を捻った。
ベットバビナスタ大国代表はいないの?
「……ねえ、トリエーチってフルネームは何て言うの?人間でしょ?」
「私は人間などではない。トリエーチ・ポーリー、獣人だ」
絶句。
あ、あたしの膨らみつつあった妄想を返してください!
獣耳どころか、全然全くふわふわしてないじゃーん!
硬い!
硬いよ、トリエーチ!
それがこの世界の獣人だと言うのかトリエーチ!
「……トリエーチはベットバビナスタ大国代表?」
ふと、おかしなことに気づいた。
おかしなことってのがすでにおかしいけど。
あたしがここに存在すること自体、すでにおかしいのだから。
でも、おかしい。
「国についての共有は問題ないみたいだね」
にこりとBBが間近で妖艶に笑う。
「生贄代表という意味なら、そうだろうな」
何てことはない顔でトリエーチが答える。
「ヨリが召喚されてくれたお陰ですぐに死ななくて済んだんだから、よかったじゃない!」
「ねっ!」と、場違いなほど眩い笑顔でディルが言う。
「予想外だったがな」
真顔でエウが相槌を打つ。
待って。
よくわからないなりに考えてみるから。
つまり、四人はそれぞれに人外であって、人間じゃないってこと。
生贄ヒーローは五人。
残るはヒューグ大国……人間代表の生贄。
「あ、あたしは……異邦人代表じゃなくて、ヒューグ大国代表の生贄って……こと?」
まさか──まさか、まさか。
「人間てのは狡賢いよね。自分達から生贄を出すのが嫌だから、わざわざ無関係な異邦人を召喚する。召喚が失敗するたび、他の生贄四人を無残に殺すんだよ。『剣』と相性が悪いからだって言ってね」
BBが肩を竦めて笑った。
──殺、す?
他の四人を?
「しかし、タトゥーナが人であると記されている以上、真の『英雄』は人間であることに違いないからな」
エウの声がどこか遠い。
真の英雄?
人が……そんな、世界を呪うような人が英雄?
「まあねえ。現に初めて召喚した異邦人が、これまた初めて剣を鞘に収めちゃったもんだから、それがベストだ!って思い込んじゃってるし」
やっぱり、その眩いディルの笑顔は、場違いな気がした。
「お前は第五の生贄英雄だ。お前の行動と結果如何せんに、私達の命が掛かっている。……忘れるな」
最後にトリエーチの無情な台詞が脳内をごわーんっと叩いて、
「……ふうー」
間抜けな声と共に、あたしは意識を手放した。
こんなとんでもハプンな予測は、当たらなくていいのに!
トリエーチの名前はロシア語からの拝借です。
【トリエーチ】は【第三の】
【ポーリ(作中ポーリーと表記)】は【宿命】
だそうです。
大層な名前ですが、気に入ってます。