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エブリバディ、ホラー

ここまで来るのに神経を擦り減らしたあたしは、たぶん、間違ってない。



「お部屋はこちらです──どうなさいましたか、ヨリ様──本当に女子おなごなんですか?──とにかくこちらになります」



失礼の大盤振る舞い──もとい押し売り一方なジーヴァの口は止まることなく、三階最奥の客間に到着するまで続いた。

それだけならまだしも、ここに来るまでの道中のそれはそれは珍妙なこと……珍妙って言うか、もうホラー。



「客間にお連れするまでを楽しんでいただこうと、日々、旦那様が趣向を凝らしております。あ、こちらがの有名な鉄の処女アイアンメイデンでして、あちらは吠える雄牛、その先は審問椅子で別名祈りの椅子とも呼ばれていますが──」



うんたらかんたら、と。



「滅多にお客様などいらっしゃらないので、わたしも初めて解説させていただきました」



にっこりと満足気に笑って言ってたけど、そういう問題じゃないと思う。



「まあ……誰も来ないだろうな」



若干青褪めた顔でトリエーチがそう呟いたのをあたしは聞き逃さなかった。

あたしも青かったけど……。


趣向の凝らし方をもっとさ、こう、ポジティブな方向にしてみたらどうだろうか!

客間に到着するまで延々拷問器具見せられるって、泊まったら最後られるんじゃないかって思うよ!?

超笑顔で『吠える雄牛』とやらを解説されて、どう切り返せと!?



「いやあ、流石はドラキュラ伯爵。いいもの見せてもらったよ」

「ねーっ、僕感動しちゃった!」

「それはよかったな」



……何かを超越した方々がいらっしゃるようですが。


BBは魔族だからまだわかる、まだ、まだね。

でもさ──ディル、君ね、それは妖精族の看板背負ってる身でどうかと思うよ!

妖精なんでしょ!?

イメージ商売じゃないの!?

聞きたかないけど、どこに感動したわけ!?

エウに限っては、その動かない表情筋云々はもう何も言わないからね!

言わない、絶対に!



「大層お気に召したご様子ですが、エルフェニアにも、こういった拷問器具がおありで?」



日当たりがよければきっと豪奢で素晴らしいであろうドアに鍵を差し込みながら、ジーヴァがディルに問い掛ける。

君、何つう質問を。

エルフェニアにあるわけなかろうが!

……ない、よね?

こわくて知識データベース漁れない……!



「うちは大抵、焼き殺しちゃうから」

「……え、焼き殺……?」

「ああ、妖精族は刺しても刻んでも首を落としても死なないのでしたね」

「刻……首を……何……?」

「そー!うち、皆丈夫だからねー」



ジーヴァに答えながら、ディルはきゃらきゃらと笑っていた。


…… 笑 い ご と な の !?


より青褪めたのがあたしとトリエーチだっけだったことは、言うに及ばない。


そうこうしている内にドアは開かれ、目の前には、意外にすっきり爽やか日当たり良好、豪華素敵な大部屋個室が。

……大部屋個室?

つまり、大きな一部屋、と言いたかったわけで、窓際にはテーブルセット、その向かいにど─────っん!と、そりゃもうでっかいベッドが一つ。


でっかいベッドが一つだと?



「あの、ジーヴァさん」

「ジーヴァとお呼びください、ヨリ様」

「はあ……あの、この部屋って」

「ああ、大丈夫です。防音魔術は万全ですので、ご心配には及びません」

「え?あの、防音?いや、あのさ、違う部屋とか」

「では、ごゆるりと」



ばっちり全てを遮った彼は、にこっと超絶スマイルかまして、颯爽と燕尾服を翻し去って行った……行っちゃだめだろうが!


何、どういうこと。

急な展開に、思考回路が追いつきません。


雑魚寝?

──ああ、雑魚寝ね!

なあんだーヨリ、超絶びっくりしちゃった★

修学旅行とかでさ、結局大騒ぎしちゃって布団なんて関係ないみたいな感じで適当に寝ちゃったり──友達のアパートに大勢で押し掛けて酒に飲まれてその辺で寝ちゃったり──なあれね、あれ!


あれだよね、あれだろ、あれだろうな、雑魚寝あれ以外の異論は認めん!!!!!



「驚愕してるとこ悪いけど、一応、説明しておこうか?」

「聞きたくない」

「聞かなくていいの?ヨリ、ちゃんと『生贄ヒーロー』について知識データベース確認してないでしょ?」

「……」



してないけど、聞きたくないです……聞きたくない!

いやいやでも、でも、だが!

万が一ということもあるよね!


気を取り直し、BB以下従軍 (誰の?)に向き合う。

あ、何かトリエーチが嫌そうにしてる時点で、悪い予感しかしないのは何故だ。

そして、BBの説明が始まった。



「ヨリは異邦人だから、まず、俺と交わることで情報共有含め、こっちの世界に馴染む必要があったんだ。これはもうわかってるよね?」

「……まあ」



ついでに体は未成年にもなったけど、それはもう犬に噛まれたことになったので。



「取り敢えず座れ。ディル、お茶でも用意してやってくれるか」

「わかったー」



促されるまま椅子に座り、BB、エウ、トリエーチと順にテーブルを囲む。

備え付けオープンキッチン (?)の先では、ディルが茶葉を選別しているのが見えた。



「でね、俺達五人が何故『生贄ヒーロー』と呼ばれるのかだけど」

「剣と鞘がうんたらとかに関係してるんじゃないの?」

「タトゥーナ伝説ね」



BBの訂正はさておき、それが理由じゃないのか。

じゃあ、何が理由または由来なんだ。



「全てはその伝説に関係している。タトゥーナを裏切ったのは誰だった?」

「えーっと……」



誰だったっけ?

エウの問いに、知識を漁る。

──あれだ、あの恋に落ちたとか言う──



「傭兵アウゼンベルグ!」

「そうだ。彼は絶世の美青年であったらしい」

「絶世の美青年……美青年、ね」

「つまり、タトゥーナは美形に弱かったんだろうね」



へえ……タトゥーナも所詮は女だったってか。

それで剣になっちゃった (?)わけだしね。

まあ、美形嫌いな人なんて、なかなかいないもんだろうけど。

それがどう関係していると?


首を傾げたあたしにBBはさらりとこう言った。



「生贄ヒーローってのはね、生まれつきタトゥーナの呪詛を受けてるんだ。だから、身内としかセックス出来ないし愛せない」



──は?



「この場合、身内と言うのは生贄ヒーローの中でということになる」



何、冷静に語っちゃってるのエウ。



「過去、ヒーロー達の中に女が一人以上いたという記録は……ない……」



尻すぼみしないでよ、トリエーチ!

ついでに嫌そうな顔はいい加減やめて!


──ん?

つまり、身内でしか体も気持ちも含めいろいろ出来ないわけで、過去、女は常に五分の一だったと。

おや、何だか急に現代的俗っぽい話に……



「……BLアリってこと?」



問い掛けが恐る恐るになるのは仕方ないと思う。

そりゃあまあ、ずいぶん昔は男色は常識だったそうだけど、あたしにはまだ馴染みがない。

現代も国によっては法的に認知されてたりするし、個人の自由だとは思う。

が、何はともあれ、急に身近な話になるとね!

ちょっと、どうしても心構えとか必要になるじゃない!?

あ、大丈夫、偏見はないから!

慣れてないだけだから!


何だかわくわくしてきたあたしに訝しげな視線を向けたエウが、最もな疑問を口にした。



「びーえるとは何だ?」



やっぱり知らないか。



「ボーイズラブ」

「ボーイズラブ……男と男が、ということだろうか」

「すごい理解力だね」



上手いこと翻訳されている。

それとも、表情筋動かないだけで、そっちの要素アリとか?

ま─────っ、エウってば現代っ子!

あたし、その辺興味皆無だけど。


ここでお茶と共に、キンキラ王子が登場──ついでに、容赦なく爆弾を投下した。



「違うよーヨリ。ヨリは剣、僕達は鞘。僕達はね、ヨリとエッチしないと死んじゃうんだ」

「─────?」



今度こそ、理解は追いつかなかった。





今、とてつもなく怖い話を耳にしたような気がする。


僕達はね、ヨリとエッチしないと死んじゃうんだ……死んじゃうんだ……じゃうんだ……うんだ……んだんだ…… (エコー)


どこから突っ込めば!!???


いや、待て待て落ち着け。

突っ込むのはあっちであって、あたしは突っ込まれる側であり──いや、そうだけどそうじゃないって言うか何て言うか、そもそもそこで剣と鞘の話なの?

剣と鞘なら剣は凸で鞘は凹だよね。

男女に例えるなら、剣が男で鞘が女では……あれ、でもタトゥーナ (女)は剣でアウゼンベルグ (男)は鞘なのか。


……?????


何、どういうこと?

極論で、剣は女王様で鞘は下僕とか、SMの話?

ていうか、これ、真面目に考えなきゃいけない話なの?

皆ものっそい真剣な顔してるけど、壮大な下ネタにしか聞こえないのはあたしだけ?


壮大な下ネタにしか聞こえない。

はずなのに、百物語実践中くらいの気持ちです。


何ここ、ファンタジーじゃなくてホラーじゃん!


鉄の処女アイアンメイデン

人型をした棘のある開閉扉付きの箱の中に人を入れて串刺しにする有名な拷問器具その1。


【吠える雄牛】

鉄製雄牛型の中に人を入れて蒸し焼きにする拷問器具その2。

中に入る際、口元にはチューブ付きマスクを装着され、叫び声が牛の中からするのでこう呼ばれるらしい。


【審問椅子(祈りの椅子)】

腰掛け、背凭れ、足乗せ、肘掛けなど椅子の全部分に無数の釘を植えつけてある拷問器具その3。

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