~暖かくなってきた風。ふき散らす桜木~
~暖かくなってきた風。ふき散らす桜木~
だから、結末は決まっている。
結末は、
「別れる」
彼は言った。
「別れる」
彼女も言った。
それが彼らがつきあうことの前提だった。
彼には別に彼女がいる。
共通の友人。
その関係を壊さないこと。
それを承知で彼と彼女はつきあっている。
それでいいと。
◇
秋のはじまり。
風が吹いている。
まだ涼しい。
まだ冷たくもない、強くもない秋の風。
冬はまだまだ見えない。
感傷に引きこもりしない程度に秋の風が吹く。
「君はずるいね」
彼は、彼女の隣でニュース番組をただ見つめながらつぶやいた。
「どこが?」
彼女もテレビを見つめていた。
「君はひとを引き付けて、そして逃がさない」
「なによ、ひとをライオンか何かみたいに言わないで(笑)」
「君と目を合わせたら、それでお終いさ」
「私ってそんなに強烈なキャラクター?」
彼女は自覚していないらしい。
そういう無自覚なところも魅力の1つだと、彼は思っている。もし自覚しているとしたら、自分などはとても近寄れない存在だとも。彼女にはこのまま留まっていて、自分の届かない場所に去ってしまわないでほしいとも思う。
◇
秋。
外を歩くとランニングする人に追い抜かれることがやたら多くなった。
あちこちでグルメイベントが開催されている。
樹々が紅葉しきるまでには、さほど時間はかからないだろう。
彼女とつきあいだして1年になる。
いったい自分たちはどこで着地するのか、そういう場所があるのか、最近そういうことばかり彼は考えている。
彼は気持ちの整理ができないまま、彼女の部屋へ来てしまった。
「そう。そんなことを考えていたのね」
彼を試すように、彼女は言った。
「まだ私と会ってくれるの?」
すべては彼に委ねられていると言いたげだった。
彼は、冷めかけた紅茶の入ったカップを見つめて、
「僕はまだ君の目から離れられない」
と隣のソファに座る、彼女とは目を合わすことができないで言った。
「そう・・・ありがとう。私から―離れよう―なんて言わない。このままでいい。葵ちゃんがいても」
「ありがとう」
◇
秋の盛り
「紅葉はいいわね。カメラの中の世界にいるみたい」
寺内にはライトアップされた紅葉が赤々と、見る者を引き付けてやまない。
その情熱的な様は、彼女に相応しいと彼は思った。
「いま、ここでこうしていると。いつまでも続くものより、ほんの一瞬でも燃え盛るものの方が私には似合ってるって思うよ」
彼はなにも返さなかった。
返してあげる言葉がなかった。
刻々と終わりへと向かう、たった今燃え盛る紅葉を背景に、その一瞬の彼女をカメラに収めようとしない自分が虚しかった。
◇
冬。
暖かいファミレス。
冷たい季節。
冷たい風。
赤い頬と冷たい指。
ドリンクバーの温かな紅茶。
山盛りポテト。
「今日は誕生日でしょ?」
「よく知ってるね」
「あなた言ったじゃない」
「そうだっけ」
「じゃあ、私の誕生日は?」
「12月24日」
「よく覚えているわね」
「忘れるはずはずがないよ」
「ありがとう」
「でも、誕生日にファミレスかぁ(笑)」
「私たちにはちょうどいいのよ」
「どうして?」
「うるさいから目立たないでしょ。簡単に紛れることができる・・・」
「そうだね」
それ以上は、彼は何も言わなかった。
◇
真冬。
バレンタインデーの翌日。
スタバの紅茶。
ゴディバのチョコレート。
落して割れた。
「ごめん。落としてしまった」
「食べてもらえればいいのよ。私の渡し方が中途半端だった」
唐突に彼女は聞いた。
「葵ちゃんとは?」
「うまくいっていると思う」
「彼女からもチョコもらった?」
「うん」
「うれしかった?」
「うれしかったよ。たぶん」
気まずくて冷たい空気が存在した。
「ごめん。変なこと言って」
「構わないよ」
「私は覚えてるよ。―結末は別れ―だって。あなたも覚えてる?」
◇
春の始まり。
桜並木を歩いている。
紙吹雪のように舞っている。
深く悲しく舞う雪のように。
門出を祝っているかのように。
お互い同じことを思っている。
そろそろ終わりにしようと。
「私はあなたにどうするのかは任せるよ。それに従うだけ」
「僕は君のために何をしてあげられるのか、考えるようになった」
「ありがとう」
「答えが遅かった。ごめん」
「いいえ。ありがとう」
「ほかに言うことはない?」
「ないよ」
暖かくなってきた風。
まだ強い。
ふき散らす桜木。
別れの季節。
了




