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眠れる勇者99九回目で  作者: ネム・サブロウ
第一部

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9/12

回想編2話守る側が先に壊れる

けたたましい爆発音が響き渡り、爆風が町を包み込んだ。

地面が跳ね、空気が悲鳴を上げる。

耳鳴りの奥で、建物が軋む音と人の叫びが重なり合った。

遅れて、焼けた土と焦げた木の匂いが鼻を刺した。

熱を帯びた風が肌を撫で、破片が雨のように降り注ぐ。


スミロは反射的にシュンへ覆い被さる。

考えるよりも早く身体が動いていた。

守るべきものを包み込むように、無意識に背を向ける。

その背中を、容赦ない衝撃が叩いた。

骨に響く衝撃に、歯を食いしばる。


肺の奥から息が漏れ、視界が一瞬揺らぐ。

それでも腕は緩めなかった。


スミロ

「シュン、大丈夫か!」


背中に走る鈍い痛みを無視し、腕の中を確かめる。

確かな体温がそこにあることに、ほんの一瞬だけ安堵した。

その一瞬が、逆に恐怖を鮮明にする。


シュン

「師匠! 爆発があった場所……!

お母さんの家がある所です!」


声が震えていた。

言葉の意味を理解した瞬間、シュンの呼吸が目に見えて乱れる。

喉が鳴り、肩が上下する。

目に浮かんだ光景を、必死に振り払おうとしていた


シュンはスミロの腕を振りほどき、爆心地へ走り出そうとする。

視界の端で炎が揺れ、遠くから悲鳴が聞こえた。

足が前へ出るより先に、感情が突き動かしている。


スミロは咄嗟に、その首根っこを掴んで引き止めた。

細い身体が衝撃で揺れる。


スミロ

「シュン! お前は城へ行け!

お母さんと町の人は、俺が助ける!」


掴んだ手に、少年の体温と震えが伝わる。

それは恐怖だけではなく、焦りと後悔が混じった震えだった。


シュン

「師匠、いやだ! 僕も行きます!」


その瞬間――

スミロの脳裏に、拳を強く握り締めていたショウタの姿がよぎった。

背を向ける直前の、迷いを押し殺した横顔。

自分の感情よりも役目を選んだ、あの背中。


唇を震わせ、腹の底から叫ぶ。


スミロ

「いい加減にしろ!

お前が行って何になる!

ショウタはな……お前を助けたい気持ちを抑えて、魔王討伐に行ったんだ!

お前たちを守るのが、俺に託された役目だ!

あいつがどれだけ責任感の塊の男か……

お前が一番知ってるだろ、シュン!」


吐き出すような言葉は、怒りと焦りと恐怖が入り混じっていた。

言葉を投げつけながら、胸の奥が軋む。

自分もまた、同じ立場に立っているのだと理解していた。


シュンは歯を食いしばり、涙を堪えながら踵を返した。

肩が一度だけ震える。

振り返らず、城の方角へ全力で走り出す。

その背中が小さくなるのを、スミロは一瞬だけ見送った。


スミロ

「……クソ野郎ども。

親友の家族に、手を出しやがって」


吐き捨てるように呟き、剣を強く握る。


怒りを宿した眼で、スミロはトップスピードのまま爆心地へ向かう。

呼吸が荒れ、血が沸騰する。

鼓動が剣を伝って、腕に響いた。


スミロ

「……一回だけだ。

あいつの家に行ったことがある」


曖昧な記憶を必死に辿りながら、足を止めず走る。


集落へ辿り着いた時、そこはすでに炎に包まれていた。

屋根は崩れ、柱は黒く焦げ、空は赤く染まっている。

火の粉が舞い、地面には無数の足跡と血痕が残されていた。


瓦礫の下で呻く親子。

息絶えた赤子。

生き残った本家の者たちは、満身創痍のまま必死に応戦している。

誰もが限界を超えた顔をしていた。


スミロは一瞬、視線を巡らせ――

次の瞬間、殺気を纏った眼で襲撃者たちを睨みつけた。


炎を消すほど冷たく、

それでいて業火のように熱い殺気が、場を支配する。

空気が張り詰め、襲撃者たちの動きが鈍る。


襲撃者A

「な、なんだ……あいつ……!」


恐怖が、声を掠れさせる。

本能が危険を訴えていた。


襲撃者たちは一斉に炎の魔法を放つ。

熱風が押し寄せ、地面が爆ぜる。


だが――

スミロは神速に達した斬撃で、迫る炎をことごとく断ち切った。

剣閃が走り、火は空中で裂かれ、消え失せる。


襲撃者B

「なんなんだ、あいつは!」


襲撃者C

「あいつはスミロ21世だ!

皇太子で、勇者パーティーの戦士!

王国No.1の強さらしい!」


言葉が広がるより早く、次の動きが来る。


再び攻撃に移ろうとした、その瞬間――


シュパーン。


鋭い音と共に、杖ごと身体が断ち切られた。

血が飛び、地面に倒れる。


スミロ

「お前ら! 粕田を出せ!」


踏み込もうとした瞬間、スミロは急転回する。

横合いからの追撃をかわしながら、崩落した家屋へと駆けた。


スミロ

「くそっ……横目で見えちまった!

シュンの母さんだ!」


迷いはなかった。

一瞬で建物を斬り裂き、瓦礫の隙間にいた

シュンの母・ユズキを救い出す。


息は弱く、身体は冷えていた。

安全な場所へ寝かせると、

スミロは一度だけ、その顔を見下ろし――

何も言わず、再び戦場へ戻った。


―――


一方、城へ向かったシュンは、門番へ必死に訴えていた。


シュン

「スミロ師匠の弟子、シュンです!

町で爆発が起きました! 助けてください!」


門番たちはシュンを知っていた。


門番

「シュンくん、わかった!」


一人が、国王への報告へと走る。


三十分後。

二百人の軍勢を率いて現れたのは、

当時、軍の参謀に就任した若き日のグルートだった。


グルート

「シュンくんだね。

スミロ坊ちゃんが、君を逃してくれたんだな」


シュン

「はい、グルートさん!」


グルート

「君はここで待ちなさい。

我々が向かう」


シュンはスミロの言葉を思い出し、歯を食いしばって頷いた。


グルートは門番に命じ、シュンを道場へ向かわせる。

それを見届けてから、軍勢は勇者村へ進軍した。


グルート

「坊ちゃん……今、行きますから!」


―――


スミロ

「粕田って言ったな。

お前、なんで襲った?」


ボロボロの粕田の髪を鷲掴みにする。


粕田

「本家は悪だ。だが、それも過去の話だ。

先祖の恨み? そんなものは知らん。

俺の利益を邪魔するから潰しただけだ。

弱者は正面からは来ない。

だからこそ、守る側が先に壊れる。

こっちには大義名分がある」


スミロは何も言わず、

全てを見下すような眼で、

静かに粕田の胸へ剣を突き刺した。


―――


グルートたちが到着した時、

スミロはすでに粕田を倒していた。


防具は原型を留めず、全身に無数の切り傷。

魔法による凍傷と火傷。

割れた額から血が流れている。


グルート

「スミロ坊ちゃん……!?」


近づいた瞬間、スミロはその場に崩れ落ちた。


スミロは、その場で一人になった気がした。


スミロ

「こいつが……

ショウタのパーティに自分の息子を入れて、

その息子に、ショウタ殺害の命令を出した……!

しかも……もう実行したと言いやがった……!

でも……俺には……

あいつが死ぬ姿なんて、想像できねぇ……!」


スミロはグルートに縋り、声を殺して泣き伏せた。


グルートは即座に二百人の兵を捜索へ向かわせ、

スミロを後ろに乗せて城へ戻る。


グルート

「坊ちゃん、あなたはよくやりました」


スミロ

「よくなんかねぇ!

シュンの母さんを死なせた!

粕田を倒して駆け寄った時には、もう……!

勇者村も守れなかった……!

俺が弱いからだ!」


グルート

「スミロ21世、しっかりしなさい!

全滅ではありません!

あなたはその身を挺して、シュンくんを生かした!

シュンくんのお母さんが命を懸けて守ったものは、

“シュンくんの命”だったはずです!

ショウタ様の安否確認は、我々に任せなさい!」


グルートの喝に、スミロは俯いたまま答えた。


スミロ

「……ありがとう、グルートさん」


スミロは馬を降り、城へ戻る。

グルートは再び、捜索のため戦場へ向かった。


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