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眠れる勇者99九回目で  作者: ネム・サブロウ
第一部

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回想編1話使命を選んだ者の拳

皇太子「シュッ……! シュッ!」


乾いた空気を切り裂く音が、訓練場に規則正しく響いていた。

朝靄の残る空気の中、鋼が風を割るたび、張り詰めた緊張が場を支配する。

皇太子――スミロは一人、誰に見られるでもなく剣を振るっていた。


一振りごとに姿勢を正し、呼吸を整える。

無駄のない動き。

それは、才能というより「積み重ね」の結果だった。


ショウタ「皇太子様、こんにちは」


背後から、軽い声がかかる。

スミロは振り向かず、最後の一振りを終えてから剣を下ろした。


皇太子「やめろ。その呼び方。名前でいい」


ショウタ「わかったよ、スミロ」


スミロ「どうした。暇なのか?

先週、十一代目勇者に就任したばかりだろ。

息子を置いて冒険とは……可哀想にもほどがある」


その言葉に、ショウタは一瞬だけ視線を逸らし、すぐに苦笑した。


ショウタ「本当にそう思ってるよ」


乾いた笑い。

冗談とも本音とも取れる声音だった。


ショウタ「俺は冒険で忙しくて、シュンの稽古をしてやれねぇ。

だからお前に頼んだんだろ。……たまには帰ってくるさ」


スミロ「そうか」


スミロは剣を地面に立て、真っ直ぐにショウタを見据えた。

その視線には、昔と変わらぬ鋭さがあった。


スミロ「貴様、軍を抜けて冒険ばかりで、腕が鈍ったんじゃないか?」


ショウタ「うるせぇ。

軍の同期で、評価一位を争ってた仲だろ。

だが俺は勇者だ。戦士に負けねぇ」


言い終わるより早く――


スミロの高速の突き。

空気が鳴り、殺気が走る。


ショウタは首をわずかに傾けるだけでかわし、足元の枝を拾い上げた。


――トン。


枝の先が、正確にスミロの喉元へと触れる。


一瞬の静寂。


ショウタ「お前こそ、皇太子になって鈍ったんじゃねぇか?」


スミロ「……ふん。枝を下ろせ」


二人は同時に武器を下ろした。

かつて何度も交わした、言葉のいらないやり取り。


スミロ「お前がここへ来る時は、何かある。……何があった?」


その問いに、ショウタは答えなかった。

視線を落とし、しばらく沈黙する。


ショウタ「……うちの家系はな、色々と複雑でよ」


静かな語り口だった。


ショウタ「俺が本家。

初代勇者が冒険先でデキタ家族が分家だ」


スミロは何も言わず、続きを促す。


ショウタ「頭首同士が理解してた頃は平和だった。

だが――」


一度、喉を鳴らす。


ショウタ「親父が頭首になってから、

犬猿の仲の分家・粕田が頭首になりやがった」


スミロ「……なるほど」


ショウタ「前の頭首争いで負けたのを、親父のせいにしてる。

ただ会合しただけなのによ。

“頭首にさせないよう仕向けた”ってな……」


拳が、自然と強く握られる。

指の節が白くなるほどに。


ショウタ「魔王討伐で忙しいってのに」


スミロ「大変だな。

だが、お前の仕事は魔王討伐だ。集中しろ」


ショウタ「そうしたい所なんだがな……」


乾いた笑いが漏れる。


ショウタ「粕田が、自分の息子をうちのパーティーにねじ込んできやがった。

分家は、本家が討伐に行く時、息子を同行させる契約だ。

追放もできねぇ」


スミロ「安心しろ。

お前らには最強の戦士がついている」


ショウタ「……ハハ、ヒック。

自称最強だな」


スミロ「お前は、その笑い方が似合わんな」


ショウタは笑うのをやめ、真剣な目でスミロを見た。


ショウタ「魔王城を見つけた。……当分、帰らない」


スミロ「……」


ショウタ「だから今日、会いに来た。

だが、お前は来るな。本家を守ってくれ」


スミロ「あぁ、わかった」


ショウタの拳から、血が滴り落ちていた。

握り締めすぎた結果だ。


それでも、拳を開こうとはしなかった。

使命を選んだ者の拳だった。


ショウタは背を向け、何も言わず去っていく。


スミロ「……ったく」


一瞬だけ空を仰ぐ。

雲一つない、皮肉なほど澄んだ空だった。


スミロ「行くか」



スミロ「親父、入るぞ」


ベッドに横たわる男――スミロ二十世。

曽祖父が国王。

息子が将軍。

孫が皇太子。


その順を、代々守ってきた家系。


魔王軍幹部との戦いで、スミロ二十世は寝たきりだった。


スミロ「ショウタのやつ、魔王城を見つけたらしい。

だが俺は、家を守れと言われた」


言葉が、喉で詰まる。


スミロ「……でもよ。

家族を守りたいのは、あいつの方だ」


スミロ「拳を握りすぎて、血が出てた。

それでも使命を選んだんだ」


スミロ「親父、俺……討伐に行くべきかな」


スミロ二十世は、ゆっくりと上体を起こす。


――ペシ。


気の抜けた音。


痛みはない。

だが、その一撃は十分だった。


愛の鞭。



スミロは装備を整え、勇者の村へ走り出した。


スミロ「……はぁ……はぁ……」


息が切れる。

それでも足は止めない。


スミロ「……あいつ、こんな道を」


村への道は、外敵を防ぐため複雑に入り組んでいた。

迷わせ、削り、試すための道。


スミロ「……着いた」


シュン「師匠!?」


そこにいたのは、

まだ戦士の迫力もなく、

ただ真っ直ぐな瞳で師を見つめる少年。


スミロ「(……感情移入するな)」


自分に言い聞かせる。


スミロ「シュン。自主稽古か?」


シュン「はい!

……師匠、なぜ装備を? 父は……どこへ?」


スミロ「気にするな。

母と一緒に城へ行け」


シュン「なぜですか!」


一歩、踏み出した瞬間――


ドカーン。


轟音。

爆風が、町を包み込んだ。

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