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眠れる勇者99九回目で  作者: ネム・サブロウ


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第2話死んだ感覚だけが残った

三郎「……なんだったんだ、さっきの夢?」


困惑しながら周囲を見渡す。

だが、そこは何一つ変わらない――いつもの自分の部屋だった。


散乱した空き缶。

机の端に積み上げられたそれらは、微妙なバランスで崩れかけている。

画面が止まったままのゲーム機。

操作を受け付けないキャラクターが、無言でこちらを見つめていた。


同じオレンジ色の夕陽。

カーテンの隙間から差し込む光は、

さっき“夢の中”で見たものと、角度まで酷似している。


三郎「……夢、だよな」


自分に言い聞かせるように呟き、コントローラーを握り直す。

プラスチックの冷たさが、指先に妙に強く残る。


三郎「とりあえず……昨日の続きからやるか」


無理やり思考を現実へ引き戻すように、

親指をスティックにかける。


ふと時計を見る。

19時50分。


三郎「あ、やべ。ご飯」


部屋の扉を開けた瞬間、

階下から声が飛んできた。


トヨコ「三郎ー! 起きたの!

呼んでも全然起きないし、ラブレターを部屋の前で読んでも反応ないし!

今日はもう早く寝なさいよー!」


三郎「読むな! 母さん!」


(……そんなに寝てたのか)


自分の記憶よりも、

時間がごっそり抜け落ちている感覚に、

わずかな違和感を覚える。


頭を掻きながら、風呂場へ向かう。


シャー……


湯気が立ち上り、

鏡が一気に白く曇る。


三郎「(……妙にリアルだったよな。

匂いも、音も、感触も。

夢って、あんなだったか?)」


異世界漫画は嫌というほど読んできた。

だが、あんな“感覚”の描写は、どれにもなかった。

死ぬ瞬間の圧迫感。

体の内側が裏返るような、不快な引き抜かれ方。


トヨコ「いつまで入ってんの! 水道代が高くなるでしょ!」


三郎「……あ、ごめん」


上の空で返事をし、部屋へ戻る。


三郎「今日は……なんか、疲れたな」


理由の分からない疲労が、

骨の奥に溜まっている。


布団に潜り込む。


三郎「(……この感じ……また、だ)」


さっきと同じ。

抗えない予感。


頭の奥が、引き抜かれる。


三郎「(やめ……ろ……)」


意識が、暗転した。


――――――


三郎「……ん?」


目を開ける。


見覚えのある光景。

土の匂い。

湿った空気。


二足歩行の獣。

杖を持った女。


三郎「……おばさん?」


「だーれがおばさんよ!」


紫髪の少女が頬を膨らませる。


ヒサト「私はまだピチピチの18歳!」


三郎「……ヒサト」


思わず名前が口をついた。


ヒサト「え?」


三郎は彼女の肩を掴む。

皮膚の温度。

人間と変わらない感触。


ヒサト「ちょ、なに急に!?

そんなに私が可愛いの? 可愛いのは知って……ん?」


三郎「(……セリフまで同じだ)」


胸の奥が、冷たくなる。


ヒサト「ねぇ! 何か言いなさいよ!」


拳でポカポカと殴られる


次の瞬間、三郎は避けた。


体が、勝手に動いた。

考えるより先に。


ヒサトの拳は空を切り――


ドテッ。


ヒサト「いたた……!

ちょっと! どこ行くのよ!」


三郎は走り出していた。


(同じだ。流れも、会話も、全部)


足音。

風景。

距離感。


武器屋の前で立ち止まる。


巨大な天使像。

キラキラ光る文字。

ヒサト「なんでここが武器屋ってわかったの?」


三郎「そりゃーだって、こんな堂々と“武器屋”って書いてあったら分かるだろ」


そこには、ものすごく大きく

『エンジェル武器屋』

と、キラキラ光る文字が掲げられている。


ヒサト「この街の看板名物だからね。

ところで……あなた、名前は?」


三郎「んぁ? 俺は田中三郎。勇者になりに来たんだ」


一瞬だけ、言葉が詰まる。


三郎「(小さい頃から、学校でもずっと孤独でさ。

だから、なろう系を読んで……勇者になりたかったんだ)」


ヒサト「そう。じゃあ、改めて自己紹介するね。

私は案内役のヒサト。よろしく。

次の村に行くために、色々手伝うの」


三郎「よろしくな」


戸を開ける。


キヨシ「あら〜、いらっしゃ〜い。たべた〜い♡」


三郎「……やっぱ癖強いな」


ヒサト「やっぱ? 来たことあるの?」


三郎「いや、知らないよ」


店内をざっと見回し、三郎は指を差す。


三郎「とりあえず、この両刃の刀と弓矢をください」


ヒサト「今回は私が奢ってあげる」


三郎「付き合ってください」


ヒサト「えっ!?

でも私、18歳だし〜」


三郎「ごめんなさい」


ヒサト「もぅ! からかわないで!」


キヨシ「は〜い、両刃と弓ね〜。

矢は何本いる?」


ヒサト「弓籠いっぱいぐらいで」


キヨシ「はーい。

それで……そこの男の子は、何をしに行くの?」


三郎「勇者になります」


キヨシ「カッコいいわね〜。

私を守って〜♡」


三郎「あはは……面白いですね、おじさん」


キヨシ「“おじさん”じゃなくて、

お・ね・え・さ・ん、よ?」


三郎は、冷や汗をかいた。



柵の外へ出る。


ヒサト「三郎さーん、頑張ってくださいね。この辺は下級魔物しか居ないのでー。倒したらポイントがもらえますので、ある程度倒したら戻ってきてくださいね!」


三郎「……わかった!(前は、スライムに殺された)」


ザッ。


現れたスライム。


三郎は迷わず弓を引いた。


シュッ!


矢はスライムを貫く。


三郎「……よし」


ポイント表示。

5ポイント。


三郎「ヒサト、倒したぞ」


振り返った瞬間。


グサッ。


胸に、衝撃。


三郎「……え?」


矢が、胸を貫いていた。


背後には、弓を構えた魔物。


ヒサト「そんな……!

下級でも上位の……ボゥーストル!?」

ヒサトはボゥーストルにファイヤーボールを放つ

ヒサト「三郎さんの仇!」


火球が炸裂し、魔物は消し飛んだ。


三郎は、膝から崩れ落ちる。


三郎「……また、かよ……」


肺に空気が入らない。

視界が滲む。


三郎「夢……なんだよな……これ……」


視界が暗くなる。


――――――


三郎「……っは!」


ベッドの上。


心臓が、異様な速さで脈打っている。


三郎「……痛ぇ……」


胸を押さえる。

そこには、何もない。


だが――

矢が刺さった感覚だけが、確かに残っていた。

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