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眠れる勇者99九回目で  作者: ネム・サブロウ


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二部第4話鍛冶師の夜

三郎たちは寝室に案内され、その夜を静かに過ごした。


柔らかい寝具に身を沈めると、張り詰めていた身体が一気に緩む。

城の一室とは思えないほど、落ち着いた空間だった。


――翌朝。


三郎「おはよう、シュン」


まだ少し眠気の残る声。


シュン「おはようございます」


すでに着替えを終え、装備も整っている。


三郎「はやっ! ちょっと待っててくれ!」


三郎は慌てて服を引き寄せ、袖に腕を通す。

ボタンを留めながら、シュンをちらりと見る。


(……相変わらず無駄がねぇ)


準備を整えた二人は、城を出てウェポンタウンへ向かって歩き出した。


朝の空気は少し冷たく、肺の奥まで澄んでいる。


吐く息が白く、石畳の上に淡く溶けていく。


城を出ると、外の空気は一層鋭かった。

それでも嫌な冷たさではない。目が覚めるような、前へ進めと言われているような感覚だ。


三郎は両手を軽く握り、胸の奥に残る微かな緊張を確かめた。


(新しい武器、か……)


勇者として選ばれた。

だが、武器を新しくするということは、自分も一段進むということだ。


それに見合う存在なのか。


一瞬だけ、そんな考えがよぎる。


だがすぐに、三郎は頭を振った。


(いや、考えるのはあとだ)


今は前を見るだけでいい。


シュン「セラノス様が、ウェポンタウンのグリム・ヴァルドさんに連絡を取ってくれたみたいです」

シュン「そこで落ち合うことになっています」


三郎「どんな人なんだろうな」


シュン「セラノス王国の曽祖父の代から、王国の武器を任されてきた鍛冶師だそうですよ」


三郎「すげぇ……伝説じゃん!」


歩く足取りが自然と速くなる。


三郎は周囲を見渡し、やがて視界に広がる景色を見て口角を上げた。


三郎「着いたな……ウェポンタウン」


そこには、絶え間なく立ち上る煙、

至るところで回る歯車、

金属同士がぶつかる乾いた音が響く街が広がっていた。


熱と音と匂い。

生き物のように脈打つ街だった。


鉄が焼かれる匂いが鼻を刺す。

油の焦げる匂いと混ざり合い、独特の熱気となって空気を重くしていた。


工房の前では、上半身裸の職人が槌を振り下ろしている。

火花が散り、赤く染まった鉄が形を変えていく。


「角度が甘い! もう一度だ!」


怒鳴り声と槌音が交錯する。


どの工房も、まるで戦場のような熱量だった。


三郎はその光景に、思わず息を呑む。


武器はただの道具ではない。

命を預ける存在だ。


ここで生まれたものが、自分の手に渡るのだと思うと、胸が僅かに高鳴った。


シュン「入りましょうか」


二人は門番の前に立つ。


門番「確認証を出せ」


シュン「はい」


シュンが証を差し出す。


門番は一瞥し、無言で頷いた。


門番「確認した。セラノス様の使いか。通っていい」


二人は礼を言い、街へ足を踏み入れる。


ガヤガヤ……ガチャン、ガチャン!


三郎「すげぇ……武器だらけじゃん!」


目が忙しく動く。

壁に掛けられた剣、並べられた槍、見たこともない形状の武器。


シュン「三郎さん、寄り道は禁止です」


三郎「えぇ〜……」


露骨に不満そうな顔。


シュンは無言で三郎の首根っこを掴み、そのまま引きずるように歩き出した。


三郎「ちょっ、見るだけ! 見るだけだから!」



カン、カン……


一定のリズムで響く金属音。


シュン「こんにちは。あなたがグリム・ヴァルドさんですか?」


そこには、老いた身体に職人の執念を宿した男が立っていた。

背は低いが、立ち姿に揺るぎがない。


グリム「お前たちか。セラノス様の使いってのは」


シュン「はい」


グリム「ひとつ聞く。剣は変えるか?」


間髪入れずに投げられる質問。


シュン「僕は、このままで」


三郎「僕は変えます! 勇者らしくなりたいので!」


グリムは一瞬だけ三郎を見つめた。


グリム「一日くれ。セラノス様から話は聞いてる」


三郎は目を輝かせ、店内を舐めるように見回す。


本当に、自分は勇者なのか。


その問いが、胸の奥に小さく沈んでいる。


だが、それを口にするつもりはない。


剣を変える。

それは覚悟を形にするということだ。


逃げ道を一つ、手放すことでもある。


三郎は壁に掛けられた大剣を見上げ、静かに息を吐いた。


(似合うようにならなきゃな)


壁、天井、床。

どこを見ても、武器の気配がある。


シュン(……ここまで読まれていたとは)


シュン「三郎さん、散策してきましょうか」


三郎「いいのか!?」


二人はウェポンタウンの散策へ向かった。


大砲、双剣、長剣――

あらゆる武器が並び、二人は興奮を隠せず見入っていた。


時間の感覚が薄れていく。


カァ……カァ……


三郎「もう夕方か」


空が朱色に染まり始めていた。


シュン「宿を探して泊まりましょう」


その時、後ろから声がかかる。


鍛冶屋「三郎さん! シュンさん! グリム親方がお呼びです!」


二人は顔を見合わせ、無言で頷く。



数分後。


三郎「はぁ……はぁ……どうしたんですか?」


少し息を切らして工房に入る。


シュン「もしかして、お金が……?」


グリム「ちげぇよ!」

グリム「気合入りすぎて、完成しちまったんだ!」


豪快に笑う声が、工房に響く。


炉の中ではまだ赤い火が揺れている。

打ち終えたばかりの鉄が、ゆっくりと熱を失いながら鈍い光を放っていた。


その熱気が肌にまとわりつく。

本気で打ったのだと、言葉よりも先に伝わってくる。


三郎「はやっ!」


シュン「さすがです、親方」


グリム「三郎くんの剣と、シュンくんの剣の手入れが終わっただけだ」

グリム「明日早朝に来りゃ、鎧や装備も揃えられる」

グリム「どうする?」


シュン「待ちます」


三郎「僕も!」


二人は深く礼をした。


グリム「おい! ウチに泊まっていけ!」


三郎「いいんですか!?」


シュン「本当に、ありがとうございます」



グリムの家へ案内される。


木の温もりが残る家だった。


グリムの妻「よくいらっしゃいました」


グリム「母さん、この二人が三郎くんとシュンくんだ」


三郎・シュン「よろしくお願いします」


グリムの妻「お風呂、入りますか?」


二人は即座に頷いた。


サブーン……


湯船に浸かる二人。


三郎「はぁ〜……生き返る」


肩の力が抜ける。


湯気が天井へと立ちのぼる。

戦いの傷跡も、疲労も、今だけは湯の中でほどけていく。


三郎は両腕を湯に沈め、静かに拳を握った。


明日には新しい剣が手に入る。

それは期待でもあり、重みでもある。


だが今は、ただ温もりに身を委ねた。


シュン「気持ちいいですね」


三郎は横目でシュンを見る。


三郎「……シュン、お前すげぇ体してんな」


彫刻のような肉体。

戦士として刻まれた無数の傷。


シュン「魔王討伐が終わったら……」

シュン「僕、チハルさんに告白しようと思ってまして」


三郎はニヤニヤしながら。


三郎「お前も男だなぁ」


シュンは何も言わず立ち上がり、風呂場を出ていった。


三郎「ごめんって〜!」



居間に戻ると、豪勢な料理が並んでいた。


グリムの妻「お腹すいたでしょう? さぁ、どうぞ」


グリム「若いやつは食わなきゃな!」


酒を煽る音。


グリム「母さん! もう一本!」


グリムの妻「飲み過ぎはいけませんよ」


和やかな晩餐が続く。


三郎「うまいです!」


グリムの妻「あら、嬉しいわ」



夜。


三郎「あ〜食った食った……」


満足そうに伸びをする。


シュン「少し夜風を浴びてきます」


三郎「了解〜。俺は寝る〜」


布団に潜り込む三郎。


三郎「グォー……」


即落ちだった。


シュン「……すごいイビキ」


小さく呟き、外へ出る。


シュン「寒っ……」


夜風が頬を撫でる。


朱里、フリアリス――


血に染まった石畳。

崩れ落ちる影。


あの日の光景が、断片的に蘇る。


朱里とフリアリスの壮絶な最後


確かに終わったはずの戦い。

決着はついたはずだった。


それなのに――


あの時、確かに魔の気配は消えた。

戦場に残ったのは、静寂と焦げた匂いだけだった。


終わったはずだった。

そう思い込もうとしていただけなのかもしれない。


シュンは拳を握る。


シュン「……なぜ今更、襲ってきたんだ」


ただの偶然ではない。


何かが、繋がっている。


だが、その答えにはまだ届かない。


夜風が、静かに頬を撫でた。


脳裏に、過去の名が浮かぶ。


シュン「……なぜ今更、襲ってきたんだ」


答えは出ない。


グリム「シュンくん、そろそろ寝なさい」


一升瓶を片手に、グリムが声をかける。


シュン「はい。おやすみなさい」


シュンは寝室へ戻り、静かに布団に入った。

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