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眠れる勇者99九回目で  作者: ネム・サブロウ
第一部

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第12話並んで歩くという選択

シュンは王室を後にし、三郎の病室へ向かった。

先ほどまでの謁見の緊張が、まだ肩に残っている。


廊下を進みながら、一度だけ足を止めた。

拳を握り、そして静かに息を吐く。

わずかに震えていることに、自分で気づいていた。


コンコン、と軽くノックをする。


三郎

「はい!」


いつも通りの声に、わずかな安堵が滲む。


シュン

「シュンです。入ります」


ドアを開けると、慌てて布団に潜り込んだ三郎がいた。

包帯だらけの姿で、どこか落ち着かない様子だ。


シュン

「三郎さん、大丈夫ですか?」


三郎

「あぁ! 大丈夫だ!」


声は張っているが、動きはぎこちない。

それでも、弱さを見せまいとしているのは明らかだった。


次の瞬間、シュンはその場で深く頭を下げた。


シュン

「……申し訳ございませんでした」


部屋の空気が静かに張り詰める。


三郎

「頭を上げてくれ。お前は悪くない」


迷いのない即答だった。


シュンはゆっくりと顔を上げる。


三郎

「それに、幸い軽傷だ。包帯が多いだけで、すぐ動ける」


少し間を置く。

三郎は視線を外し、天井を見つめた。


三郎

「……それよりシュン、全然本気じゃなかっただろ?」


部屋が静まり返る。


あの圧力。

あの速度。

それでも、どこかに“止め”があった。


三郎は続ける。


「俺に勝つつもりなら、あそこで終わってた」


その声に責める色はない。

ただ、確かめるような響きだった。


三郎の視線を、シュンは受け止めきれず、わずかに目を逸らした。

握った拳に、わずかに力が入る。


シュン

「……止めるつもりは、ありませんでした」


静かな声だった。


「ですが――」


言葉が一度、途切れる。


「あなたを壊す気も、なかった」


それが本音だった。


三郎は一瞬だけ目を細め、そして小さく笑う。


「十分だ」


その一言で、張り詰めていた何かがほどけた。


シュン

「……話を変えますね」


否定しない。

だが、もう逃げでもなかった。


シュン

「三郎さん、これからどうするつもりですか?」


三郎

「決まってるだろ」


包帯だらけの腕を組み、笑う。


三郎

「魔王討伐だ」


迷いはない。

あの戦いの後でも、揺らいでいない。


シュンは一瞬だけ驚いた顔をし、そして小さく笑った。


シュン

「……そうでしたね」


その声音には、わずかな軽さが戻っていた。



二人は医務室を後にし、城の廊下を並んで歩いていた。

石壁に足音が反響する。


戦ったばかりとは思えない距離感。

だが、不思議と気まずさはない。

むしろ、言葉がなくても成立する距離だった。


その途中、勢いよく走ってくる足音が聞こえた。


ヒサト

「シュンお兄ちゃん! 三郎さん!」


息を切らしながら駆け寄ってくる。


ヒサトは三郎の包帯姿を見るなり、目を丸くした。


ヒサト

「どうしたんですか!? その怪我……!」


三郎

「ちょっとな、決闘してた」


ヒサト

「えっ!?」


ヒサトは、思わずシュンを見る。


シュン

「……色々あってね」


短い説明。

だがヒサトには、それで十分だった。


事情を聞くうちに、ヒサトの目から涙がぽろぽろとこぼれる。


ヒサト

「……でも、よかった……」


小さく息を吸い込み、


ヒサト

「二人が、ちゃんと話せて……」


その言葉には、本気で安堵している色があった。


三郎

「なんで泣いてんだよ」


ぶっきらぼうに言いながらも、視線は優しい。


ヒサトは涙を拭い、強くうなずいた。


ヒサト

「私、出口まで案内します!」


その背中は、小さいがまっすぐだった。


シュン

「ありがとう、ヒサト」


三郎

「頼んだぞ」



城の門が近づく。


見慣れた城壁。

訓練場の音。

行き交う人々。


村人たちの視線が、自然とシュンに集まっていく。


女村人

「シュン様! 頑張ってください!」


別の女村人

「ご武運を!」


その声には、期待と信頼が混じっている。


その声の渦の中で、三郎は少しだけ俯いた。

自分はまだ、この世界の英雄ではない。


だが、隣に立つ資格はあると、今は思えた。


——その時。


ヒサト

「三郎さん!」


三郎が顔を上げると、ヒサトが精一杯の笑顔で手を振っていた。


ヒサト

「気をつけてください!」


三郎は、思い切り手を振り返す。


三郎

「行ってくる!」


声が城門に響いた。



城門を抜け、村の境まで来た時。


三郎は一度だけ振り返る。


城は静かにそこに立っている。

守るべき場所。

戻るべき場所。


あの決闘も、この場所があったからこそだ。


だが――


そして、もう後ろを見なかった。


シュン

「……行きましょう、三郎」


三郎

「ああ」


二人は並んで歩き出す。

足並みは自然と揃っていた。


石畳から土の道へ。

城の影から、外の光へ。


それが――

それが――選んだ旅の始まりだった。

長い旅の始まりだった。

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