第11話戦士の本当の攻撃
シュンは剣を鞘に収め、静かに構え直した。
金属が収まる乾いた音が、張り詰めた空気の中でやけに大きく響く。
三郎
「……情けか?」
問いかけながらも、三郎の視線は一瞬たりとも逸れない。
シュン
「いえ、真剣と木刀ではフェアではありません。決闘は対等であるべきです」
その声音は静かだったが、揺らぎはなかった。
次の瞬間、三郎は間合いを詰めずに斬撃を数発放つ。空気を裂く鋭い音が連続する。それをシュンは風魔法で、すべて受け流した。目に見えぬ風の層が刃を逸らし、軌道をずらす。
――速い。
三郎の頬を、汗が一筋伝う。
シュンはトップスピードで距離を詰める。地面を蹴る音が遅れて響いた。三郎は近づかせまいと魔法を次々に展開する。足元に魔法陣が重なり、空気が震えた。
シュン
「岩魔法が得意なんですね?」
三郎
「どうだかな」
軽口とは裏腹に、呼吸は荒い。
その瞬間、シュンの足元から炎柱が噴き上がり、轟音とともに炎がその身を包み込む。熱風が三郎の前髪を揺らした。
三郎は思わず口元を緩めた。だが次の瞬間、炎の中で岩が瞬時に形成され、シュンの身体を守っているのを見て後悔した。赤熱した岩が砕け、蒸気が立ち上る。
シュン
「今の判断は非常に良かったです。ですが――それでは魔王軍には通用しません」
シュンの周囲の空気が歪み始める。圧が、空間そのものを押し広げているかのようだった。
三郎は悟った。これは魔法ではない。
積み重ねた後悔と怒りが、形を持っただけだ。
それは刃よりも鋭い。
次の瞬間、シュンが高速の斬撃を放つ。地面が浅く裂ける。三郎は必死にかわすが、横合いから風の塊が飛来する。衝撃で肺の空気が抜けた。岩で防いだその一瞬の隙に、シュンはすでに懐へ入っていた。
距離が、消える。
連続した突きが三郎の身体を打ち抜く。
骨が軋み、内臓が揺さぶられる感覚。
――今まで感じたことのない衝撃。
三郎
「(威力が……交通事故じゃねぇか……)」
自嘲する余裕すら、無理やり絞り出したものだった。
視界がぼやける。足元が揺れる。それでも気合で踏みとどまり、袈裟斬りを放ったが、シュンは冷静にバックステップでかわした。その動きに、迷いはない。
シュン
「三郎さん……すぐに考えを変えるのは難しいですよね」
一瞬、言葉を区切り、続ける。
「でも――父さんが死んでから、粕田を殺すことが最大の復讐だと思っていました」
握る剣が、わずかに軋む。
その言葉の最後が、わずかに震えた。
「勇者は他人には優しくて、自分には何もしない。同じ勇者家系の分家から襲撃され、挙げ句、勇者家系は全滅……。誰もいないはずなのに新しい勇者? ……ふざけるな、ですよ」
吐き出された言葉は、長年溜め込まれた澱そのものだった。
全部、奪われた側の気持ちなんて、誰も知らない。
鋭い視線が三郎を射抜く。
三郎
「勇者になるのに、家系が必要なのか?」
一歩、踏み出す。
足が震えている。それでも止まらない。
「世界を守りたいって気持ちがあれば、それでいいだろ。俺は勇者だから戦うんじゃない。逃げたくないから、前に出るだけだ。誰も信じられないなら……せめて師匠を信じてやれよ」
それは理屈ではなく、生き方の宣言だった。
シュンは胸を貫かれたような表情を浮かべ、静かに姿勢を低くして剣を構えた。
シュン
「教えてあげますよ。――戦士の、本当の攻撃を」
再び空気が歪む。今度は雷鳴の前触れのような震えを伴っていた。
「僕の能力は、すべての元素魔法を最大化すること。今から得意分野を使います」
剣の周囲を電気が包み込む。火花が地面に散り、焦げた匂いが漂う。
三郎は硬化魔法を最大限に、身体と木刀へ纏わせた。皮膚の感覚が鈍る。
「行きます」
最高出力の電撃オーラ斬撃が放たれた。青と黄色の光が空気を抉りながら迫り、空間が裂けたような錯覚を覚える。
三郎
「止めたらぁ!!」
岩を次々に投げるが、すべて粉砕される。爆音が連続し、視界が白く弾ける。
「クソがぁ!!」
木刀を水魔法で湿らせ、風と炎を重ねる。蒸気が爆ぜる。
「うぉぉらぁ!!」
斬撃へ突っ込み、渾身の一撃を叩き込む。
――衝突。
光が弾けた。
電気と炎が激突し、地面を抉りながら止まった。
それは技のぶつかり合いじゃない。
生き方と生き方の衝突だった。
静寂が落ちる。
三郎は木刀を杖代わりに立っている。全身はボロボロだった。恐怖が全身を駆け巡る。それでも、逃げなかった自分を、ほんの少しだけ誇らしく思う。
崩れ落ちそうになった瞬間、シュンが猛スピードで近づき、支えた。
その手は、驚くほど温かかった。
シュン
「三郎さん……この価値観が消えることはないと思います」
静かに続ける。
「ですが、体を張って説得してくれた。僕は勇者一行には属しません。でも――一緒に行動しようと思います」
三郎は息を吐き、笑った。
「ありがとう、シュンさん」
「シュンでいいです。これから一緒に討伐に行くんですから」
その言葉に、ほんの少しだけ未来の匂いが混じる。
「……悪い、城まで連れてってくれないか」
シュンは三郎を担ぎ上げ、城へ向かう。
「なんで……承諾してくれたんだ?」
顔を腫らしたまま、問いかける。
「本当の敵を教えてもらいました。……多分、前から分かっていたんです。認めたくなかっただけで」
「とにかく、ありがとうな」
二人は、さっきまで戦っていたとは思えないほど笑いながら城へ向かった。
門番
「ど、どうしたんですか!? シュン様!」
「その担がれている方は……?」
「僕の友達です。この方を医務室へ。僕は国王様のところへ行きます」
「承知しました!」
門番は三郎を担ぎ、走り去った。シュンは国王の元へ向かう。
「国王様、シュンです」
「ああ、入れ」
「失礼します」
「……気持ちは変わらないか」
落ち着いた声だったが、微かに震えていた。
「はい。ですが、本当の復讐相手を見つけました」
「……そうか。それは良かった」
「国王様――いえ、師匠。お世話になりました。僕は三郎と、冒険に出ます」




