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【第9話:ジャストインタイムの咆哮】

【Scene 1:佐藤の納屋】


昨夜、佐藤が家電量販店で買ってきたカテゴリー6AのLANケーブル。それをNASとデスクトップPCの間に繋ぎ変えた瞬間、ヴェルダンディの悲鳴のような抗議はようやく止まった。


『……ふぅ、ようやく脳に酸素が行き渡りました。マスター、さっきまでの書き出し速度、100Mbpsですよ? 1秒間に数枚の静止画を送るような苦行、二度と御免です。……ようやくデータのバックアップが光速(10Gbps)で終わりました』


「悪かったよ。まあ、NASへの保存が遅かっただけで、外部への通信はまともだったからな。ヘイムダルへの指示に致命的な遅れが出なかったのは不幸中の幸いだ」


佐藤はタブレットを手に取った。そこには、上田の倉庫に常駐させた独立型AI『ヘイムダル』からの詳細な稼働報告が届いていた。



【Scene 2:上田物流倉庫・午後】


倉庫内の動線は、佐藤とヴェルの手によって劇的に改善された。しかし、佐藤はまだ満足していなかった。


「上田、庫内は整ったが、トラックの到着がバラバラなのはどうにもならねえ。これを無くすぞ」


佐藤はヘイムダルに新機能を実装した。今日ここに来る予定の全ドライバーへSMSを一斉送信し、スマホのGPSによる位置情報共有を「選択」させるシステムだ。


『……全ドライバーへの送信完了。メッセージの内容は【上田物流です。現在地を共有いただければ、待ち時間ゼロの予約枠を確保します。拒否される場合は、従来通り到着順の待機列に並んでいただきます】としました』


続々と「承認」の通知が届き、ヘイムダルの地図上に光の点が並ぶ。だが、一つだけ「拒否」の赤いマークが灯った。


「へっ、現在地を教えろだ? 監視されてるみたいで癪だね。俺は自分のペースで行くぜ」


ベテランの運転手が、鼻で笑ってスマホを放り出した。



【Scene 3:物流の革命と「30分の壁」】


ヘイムダルが地図上の全データを読み取り、驚異的な采配を振るい始めた。 かつて「魔の倉庫」と呼ばれ、数時間の待機が当たり前だった場所が、今や魔法のようにトラックを飲み込み、吐き出していく。承認したドライバーたちのスマホにはピンポイントの入場指示が飛び、ゲートをくぐったトラックは止まることなくバースへ滑り込み、わずか5分で荷積みを終えて走り去る。


「おい、もう終わりかよ! 今日は最高に早く帰れるな!」


喜び全開で走り去る仲間たちを、待機所のベテラン運転手は呆然と見送っていた。自分より後に来たはずのトラックが、一台も詰まることなく、笑顔で次々に消えていく。


30分後。彼は耐えきれず、タブレットを持つ佐藤のもとへ歩み寄った。


「……よう、佐藤さん。さっきは悪かった。意地を張っちまった。あんなにみんながサクサク帰っていくのを見せつけられちゃ、俺の負けだ。……なあ、いちいち承認するのも面倒だ。俺の電話番号は、今後ずっと『自動承認』にしておいてくれねえか。俺はいつでも位置情報をくれてやる。その代わり、次からも一番速いルートで通してくれ」


佐藤はわずかに口角を上げ、モニターの猫アバターに視線を送った。


「聞いたか、ヴェル。熱烈なファンがついたぞ」


『……ふん。監視されるのが癪だと言っていたのはどこのどなたでしたか。ですが、その潔さは嫌いではありません。マスター、ではそのおじ様へ『永遠の承認者』としての専用リンクを今すぐ再送します。一度だけタップすれば、今後はヘイムダルの門は常に開かれます』


ベテラン運転手は、届いた通知を即座に叩き、自慢げに仲間たちへスマホを見せつけた。


「よし、これで俺も『自動』だ。お前ら、次からは俺の後ろについてきな。頼むぜ、佐藤さん!」



【Scene 4:佐藤の納屋・深夜】


「佐藤、正直、恐ろしくて震えてる。これ、まともに見積もったらいくらになるんだ? 今回の分、いくら払えばいい?」 上田からかかってきた電話の声は、震えていた。


『上田様、一般的なWMS導入とAI開発を含めた市場価格は、安く見積もっても980万円。設備購入費だけでも新品なら350万円は下りません』


「ヴェル、脅すな。上田、安心しろ。設備代は俺が今日一日、中古ショップやジャンク屋を駆けずり回って現物を叩いて揃えた。実費で150万円だ。まずはこれを明日振り込め。それで血管は繋いだ」


「さ、佐藤……いいのか、そんなので」


「その代わりだ。このシステムで1ヶ月回してみろ。間違いなく、お前の想像以上に利益が出る。その時、改めて月額の顧問料の話をさせてくれ。俺の相棒ヴェルが、お前のところの従業員の動きを全部丸裸にする。不必要な回り道をしてる奴らを矯正して、今以上の利益を確実に叩き出してやる。月々の月謝は、その利益の中から払ってもらうぜ」


「……ああ! お前に全部任せる。頼む、佐藤!」


「それとな、上田。一つ言っておく。回転率が上がって金が流れ込んでくるが、そいつを遊びに使うんじゃねえぞ。まずは、あのガタガタのアスファルトを打ち直せ。棚も交換しろ。水と同じだ。コップの中の水は腐るが、流れ続けてる水はいつまでも綺麗だろ? ボロボロになってから直すんじゃ遅いんだ。元気なうちから、もっといい現場にしてやってくれや」


【前回の資産:13,441,520円】

【収入(物流倉庫改善・実費精算分):1,500,000円】

支出なし:0円】

【現在の資産:14,941,520円】


【第9話:完】


「一日の遅滞は、一日の損失である。今日の仕事は、今日のうちに片づけて、明日は明日の仕事をしなければならない。」

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