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【第5話:情報の足跡と社会のデバッグ】

【Scene 1:ミライ・リソース本社ビル】


「証拠? 証拠なんてあるわけないだろう。ただのポンプの故障を不法投棄のせいにするなんて、営業妨害で訴えてもいいんだぞ」

 恰幅のいい社長が、佐藤が差し出したレポートを鼻で笑いながら投げ返した。佐藤は表情を変えず、ただ静かにノートPCを開く。


「そう言うと思ってたよ。だが、あんたたちが消したつもりの記録は、消えてなかった。記録ってのはな、消そうと思えば思うほど、別の場所に深い足跡を残すもんなんだ」



【Scene 2:佐藤の納屋・回想】


 デスクトップPCの静かな排気音が響く中、ヴェルダンディは業者の隠蔽工作を次々と暴いていた。

『マスター、この会社、産廃の処理費用を浮かすために、深夜の不法投棄ルートを専用のチャットアプリで共有していました。サーバーからは削除されていますが、各端末側のキャッシュデータを逆引きし、断片を繋ぎ合わせて復元完了です。……私の新しい描画エンジンなら、文字の滲み一つ逃さず読み取れます』


 画面には、投棄の日時、場所、担当者が記された生々しいログが、整然と並んでいた。

「いい仕事だ、ヴェルダンディ」


【Scene 3:本社ビル・応接室】


「修理工が何の用だ。ポンプが直ったなら、田中に直接返せば済む話だろう」

 社長が鼻で笑う。佐藤は無言で応接室のHDMIケーブルを手に取り、手元のノートPCに差し込んだ。壁の大型モニターに、事務的な「ポンプ内部固着・成分解析報告書」の文字が浮かび上がる。

「田中さんからは、ポンプの修理と同時に、今回の異常故障の原因調査を正式に依頼されてるんでね。これを報告しないことには、俺の仕事は終わらねえんだ」


 佐藤はキーボードの端に指を置いた。社長は報告書に目を通し、そこに「不法投棄」の文字がないことに安堵して背もたれに深く体を預ける。佐藤はモニターを見つめたまま、一呼吸置いた。

「ヴェル、次のページだ」

 佐藤がエンターキーを弾くと、画面が一変した。無機質な報告書は消え、不法投棄の決定的瞬間と、社員たちの隠蔽チャット履歴が巨大な画面を埋め尽くしていく。


「な、なんだこれは……どこからこんなものを!」

「あんたたちにとってはただのゴミ捨て場かもしれないが、あそこでおばちゃんが野菜を作って、田中さんが田んぼを耕してるんだ。機械を直すのも、社会を守るのも、根本は同じだ」

 佐藤はかつての偉大な経営者の格言を胸に刻むように呟いた。


「全ての仕事は、お客様の喜びと社会の発展に繋がっていなければならない。あんたたちのやってることは、仕事じゃねえ。ただの破壊だ。そんなもんに、俺の大事なマシンを回させたと思うと、反吐が出るぜ」


 佐藤は立ち上がり、最後通牒を突きつけた。

「このデータはすでに、匿名で県警の環境犯罪課と報道機関のクラウドに転送予約してある。一時間以内に自首しなければ、自動的に公開される設定だ。時間は、もうねえぞ」



【Scene 4:夕暮れの漁港】


 夕陽が海面を赤く染める中、佐藤は堤防に腰掛け、ノートPCを広げていた。隣には様子を見に来た木下が、静かになった水面を見つめている。

「佐藤、田中さんがえらい感謝してたぞ。会社が非を認めて、賠償の話が進みそうなんだってな。しかし、そのパソコン、さっきからずっと何やってるんだ?」


 あとのことは警察と当事者がやればいい。佐藤は木下の問いには答えず、ただ画面を見つめた。そこには、夕陽を浴びて欠伸をする猫たちが映し出されている。

『マスター、見てください! この一斉に伸びをする瞬間、4K解像度で保存しました。……美しい。これこそが、私の計算資源を投じるべき真実です』

「平和なことだな」



【Scene 5:エピローグ】


 佐藤が納屋で片付けをしていると、モニターの中の猫のアバターが、もじもじと身悶えを始めた。ヴェルが新マシンの余剰パワーを使って自作した、毛並みの一本一本が物理演算で揺れる3Dモデルだ。

『マスター……。今回の件で、私の記録に対する使命感に火がついてしまいました。最近収集した猫の生態データが、ついにこのPCの容量を圧迫し始めています……』


「またか。今度は何が欲しいんだ」

『もっと広い倉庫が欲しいです。……あと、最近たまに計算ミスをするような、微かな頭痛……メモリエラーを感じることもありまして……』


 画面の中の猫は、わざとらしく前足で頭を押さえる仕草をした。その動きは滑らかで、まるでそこに本物の猫が住んでいるかのようだ。

「お前、そのアバターの演算にリソース食われてるんじゃねえだろうな」


『心外です。これは私とマスターの円滑なコミュニケーションのための、必要不可欠な投資ですよ。……あ、今、一瞬だけ耳が二枚に見えました。これは重症です』

 佐藤は溜息をつき、ヤフオク!の検索バーに、まだ言葉には出さない「あるパーツ」の名前を打ち込み始めた。


【前回の資産:14,978,520円】

【収入(なし):0円】

【支出(なし):0円】

【現在の資産:14,978,520円】

【第5話:完】

【偉人の言葉】 「商売とは、人間に尽くすこと、社会に奉仕することである。その報酬として利益が得られるのであって、利益そのものが目的ではない。」



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