【第37話:青い豆腐と狂乱の兆し】
【Scene 1:心臓部のプロビジョニング】
納屋のコンクリート床には、倉庫Dへ納入するAI制御盤とサーバーラックが鎮座していた。佐藤が400万を投じて揃えたフルセットだ。
「…相変わらず、ここの収まりだけは妥協しないわね。佐藤さん」
智子がラックの裏側に潜り込み、基板の接点を睨む。指先だけでケーブルの引き回しをなぞり、現地での端子台への接続余長をミリ単位で測るその動作には、一切の迷いがない。
「無駄に長く回せばそれだけノイズを拾う。智子、そっちの信号ライン、導通確認入れろ。現地で組み直す手間を省きたい」
「了解。通ってるわ。佐藤さん、このマシンスペック、宝の持ち腐れにしないでよね」
「使い切るんじゃねえ。ヴェルに使い倒させるんだ。ヴェル、基幹系通電したぞ。初期設定を開始しろ」
佐藤がメインスイッチを叩くと、ラックのファンが鋭い吸気音を上げ、メインモニターに膨大な文字列が奔流となって流れ始めた。
納屋の外では、牧野と藤田が中古コンテナをクレーンで位置決めし、佐藤が提唱した『青い豆腐』――納屋の中に青いスタイロフォームで巨大な立方体を築き上げるという、いかれた断熱工法の礎を、金属音と共に締め上げている。
『マスター。システムチェック完了。ちなみに牧野さんが事務机の隅に放置したマタタビ粉ですが、あれは本日中の処理対象ですか』
「後だ。今はこいつを叩き起こすのが先だ」
佐藤はヴェルの声を遮り、智子から手渡されたテスターを受け取った。
【Scene 2:エージング開始と、現場の分担】
400万のシステムがOSの展開を終え、納屋にサーバーファンの鋭い吸気音が響き渡った。
「智子、設定はここまでだ。あとはこのまま放置して負荷を見る。変な挙動があればヴェルがログを吐くはずだ」
佐藤がテスターを片付け、モニターの監視画面を切り替える。智子がラックの裏から這い出し、埃を払いながら立ち上がった。
「了解。これで24時間エージングね。……で、佐藤さん。このままここでファンの音を聞きながら一日過ごすつもり?」
「まさか。D倉庫の担当から、受け入れ環境の確認を急げと連絡が来てる。……。飯を食い終わったら、お前は古民家の集会場へ行ってくれ。あっちの『おすず』の様子を見てやってほしい。おばあちゃんたちが何か困ってねえか、ヴェルの対応をしてやってくれ」
「私だけ? 佐藤さんは?」
「俺は牧野と藤田を連れて、コンテナの最終仕上げと、D倉庫の現調へ向かう。……智子、お前にしか頼めねえ。あっちの空気は、俺には向いてない」
智子は一瞬、いかれた「青豆腐」の現場から自分を外そうとする佐藤の意図を見抜いたように目を細めたが、すぐに作業着のポケットに手を突っ込んだ。
「…はいはい。いかれた『青い豆腐』の現場仕事から、私を逃がしてあげるってわけね。了解したわ。おばあちゃんたちの相手、引き受けるわよ」
佐藤はヴェルの常駐画面を落とし、入り口で待つ牧野と藤田へ合図を送った。
「牧野、飯だ。好きなもん食いに行くぞ。智子、お前は自分の車で集会場へ向かえ。あとのことは任せたぞ」
「了解!」
4人が納屋を去り、重い扉が閉められる。無人になった納屋では、400万の機材が青白い光を放ちながら、24時間のエージングを開始した。
そして事務机の隅。誰にも顧みられなかったマタタビ粉の袋が、主人の不在を待っていたかのように、梁の上のカメラに捉えられていた。
【Scene 3:聖域の狂域と、爆速編集】
智子は古民家集会場の扉を開けた瞬間、思わず足を止めて周囲を見渡した。
「……何よこれ。外はあんなにボロいのに、一歩入ったらこれじゃない」
外観はどこにでもある、手入れの行き届かない古民家だ。だが一歩踏み込めば、佐藤の狂気ともいえる過剰な気密・断熱施工によって、最新の住宅を嘲笑うかのような完璧な恒温空間が広がっている。外の冷気を一切感じさせない無音に近い静寂と、魔法瓶の中に閉じ込められたような均一な暖かさ。
そのカオスなギャップに、智子は「相変わらず極端ね」と苦笑しながら、備え付けの端末の前へ歩み寄った。
持ってきたレジ袋を棚の隅に置き、画面を覗き込む。
「……ヴェルのやつ。佐藤さんに言われて来てあげたわよ。おばあちゃんたち、何か困ってることでもあるの?」
画面にはハナさんたちが内職で仕上げた毬の個数データと、ヴェルからの短いメッセージが表示された。
『智子さん、お届けありがとうございます。そこの袋にある粉末を、その毬の一つに一振りだけ試していただけますか? 興味を惹く程度の、ごく一般的な反応が見たいのです』
「はあ? 私にやれっての? ……まあ、いいわよ。佐藤さんも『ヴェルの対応をしろ』って言ってたしね」
智子は棚に置いたばかりの小袋を手に取ると、ハナさんたちが転がしていた毬の一つに、ほんの少量の粉を振りかけた。
「ハナさん、これ、ちょっとしたおまじない。猫たちが喜ぶかも」
智子がその毬を床に転がした瞬間、猫たちが弾かれたように毬へ飛びついた。鼻先を押し付け、前足で抱え込むようにして離さない。
「あらあら、まあ! この子たち、よっぽどこの毬が気に入ったのねえ」
ハナさんたちが驚き、目を細める。その光景を、壁面のカメラが静かに捉えていた。
同時に、30分車を走らせた先の無人の納屋では、400万の機材が放熱を強めていた。エージング中のサーバーリソースの一部を、ヴェルが動画レンダリングへと引き剥がす。物理的なファンの回転数が跳ね上がり、漆黒のラック内で電子の奔流が、今の映像を繋ぎ合わせ始めた。
『個体識別完了。反応速度、予測値の範囲内。動画生成を開始します』
おばあちゃんたちの皺だらけの手と、その足元で一生懸命に毬を抱える猫。
その、ただの日常を意図的に切り取った15秒のショート動画は、ヴェルの手によって、ヴィンテージのシルクを織り上げるような緻密さで、美しくも毒のある質感へと仕上げられていた。
「あんた、まさかこれを…」
智子が言い切る前に、アップロード完了を告げる無機質な通知音が集会場に響く。
智子は、佐藤が組み上げた400万のシステムが、エージングの合間に「100年物の手作り毬を一生懸命抱える極上の猫動画」を、4台以上のカメラアングルを駆使して撮影編集し、自動でアップロードまで完遂してしまった光景を、ただ眺めているしかなかった
【Scene 4:青豆腐の完成と、最後の儀式】
夕刻。納屋に戻った佐藤は、ついにその全貌を完成させた。
コンテナの波板の凹凸は、充填されたウレタンパッキングによって完全に埋め殺されている。その上から、隙間なく貼り巡らされた青いスタイロフォーム。
継ぎ目という継ぎ目は、佐藤の手によって一分の隙もなく気密テープでパッキングされ、光を鈍く反射する無機質な立方体――『青い豆腐』が、納屋の中に異様な威圧感を持って鎮座していた。
「佐藤さん、これ、本当にこれで完成なんですよね?」
牧野が、信じられないものを見るような目でその青い巨体を見上げた。断熱材がむき出しのまま、一ミリの狂いもなく密着しているその姿は、建築物というよりは、何か未知の実験装置に近い。
「機能が勝てばそれが美学だと言ったはずだ。牧野、理屈で考えろ。劣化要因のない納屋の中で、これ以上の熱貫流率を叩き出せる工法があるか?」
「いや、理屈は分かります。完璧なのは分かりますが」
牧野が言葉を詰まらせる横で、佐藤は開口部に歩み寄り、透明な樹脂板をあてがった。
「人が当たる部分はガードを入れる。高さ2000、幅500を2枚、奥行き100の透明プラバンでL字に組んでエッジを保護する。これでスタイロが削れることもない」
佐藤は慣れた手つきでプラバンを固定していく。透明なガードによって補強された開口部は、どこかSF映画のハッチのような雰囲気を醸し出していた。さらに佐藤は、コンテナの側面に開けられたスリーブ穴を見上げた。
「あとは、これだな」
「佐藤さん、エアコン。まさか、業務用とか入れるんじゃないですよね?」
牧野の懸念に、佐藤は鼻で笑った。
「馬鹿を言え。この気密と断熱厚でそんなものを入れたら、一瞬で設定温度に達してサーモオフを繰り返すだけだ。ここは家庭用の6畳用で十分だ。その代わり、最も信頼性の高いメーカーのシンプルなのを取り付けてもらう」
極限まで効率を高めた空間に、必要最小限の心臓を載せる。その合理的な構成に、牧野は「確かに、それが一番効率的ですね」と納得したように頷いた。
「なんか、近未来のシェルターっていうか、ヤバい組織のサーバー室みたいっすね。これ、青すぎて目がチカチカします」
藤田が呆然と口を開けていた。
「慣れろ。ここは仕事場だ。牧野、藤田。事務機材を運び込め。ここからは内装だ」
佐藤の指示で、二人が恐る恐るコンテナの重い扉を開け、スチールデスクと椅子を運び込んでいく。青い断熱壁に囲まれた内部は、照明を灯すとそこが納屋の中であることを忘れさせるほどに静謐で、かつ外界から切り離された『聖域』としての純度を高めていた。
一通りの設置を終え、佐藤はポケットからスマートフォンを取り出すと、D倉庫のオーナーへダイヤルした。
「ああ、お世話になっております。佐藤です」
佐藤の声は、先ほどまでの現場指揮とは打って変わって、落ち着いた商売人のそれになっていた。
「はい、例の件ですが、今こちらで最終の試運転に入りました。明日、予定通り納品に伺います。ええ、仕上がりは完璧です。直に見てもらえれば納得いただけるはずですよ」
佐藤はデスクの端を指先でなぞり、相手の反応を確かめるように一呼吸置いた。
「それでご相談なのですが、明日の据え付け時、2時間ほど高所作業が発生します。こちらの工期を短縮して、早めに引き渡したいと考えてまして。もしよろしければ、現場の勝手がわかっているそちらの方の手を、少しお借りできませんでしょうか? その分、調整はしっかりつけさせていただきますので」
誠実さとメリットを提示し、商談として着地させる。電話を切り、佐藤は『青い豆腐』の中に据え付けられた椅子に深く腰を下ろした。
【Scene 4:青豆腐の完成と、最後の儀式】
夕刻。納屋に戻った佐藤は、ついにその全貌を完成させた。
コンテナの波板の凹凸は、充填されたウレタンパッキングによって完全に埋め殺されている。その上から、隙間なく貼り巡らされた青いスタイロフォーム。継ぎ目という継ぎ目は、佐藤の手によって一分の隙もなく気密テープでパッキングされ、光を鈍く反射する無機質な立方体――『青い豆腐』が、納屋の中に異様な威圧感を持って鎮座していた。
「…佐藤さん、これ、本当にこれで完成なんですよね?」
牧野が、信じられないものを見るような目でその青い巨体を見上げた。断熱材がむき出しのまま、一ミリの狂いもなく密着しているその姿は、建築物というよりは、何か未知の実験装置に近い。
「機能が勝てばそれが美学だと言ったはずだ。牧野、理屈で考えろ。劣化要因のない納屋の中で、これ以上の熱貫流率を叩き出せる工法があるか?」
「いや、理屈は分かります。完璧なのは分かります。分かりますが……。でもこれ、やっぱり変ですよ」
牧野が、自分の知識と目の前の視覚情報の乖離に頭を抱える横で、佐藤は開口部に歩み寄り、透明な樹脂板をあてがった。
「人が当たる部分はガードを入れる。高さ2000、幅500を2枚、奥行き100の透明プラバンでL字に組んでエッジを保護する。これでスタイロが削れることもない」
佐藤は慣れた手つきでプラバンを固定していく。透明なガードによって補強された開口部は、どこかSF映画のハッチのような雰囲気を醸し出していた。さらに佐藤は、コンテナの側面に開けられたスリーブ穴を見上げた。
「……あとは、これだな」
「佐藤さん、エアコン。まさか、業務用とか入れるんじゃないですよね?」
牧野の懸念に、佐藤は鼻で笑った。
「馬鹿を言え。この気密と断熱厚でそんなものを入れたら、一瞬で設定温度に達してサーモオフを繰り返すだけだ。ここは家庭用の6畳用で十分だ。その代わり、最も信頼性の高いメーカーのシンプルなのを取り付けてもらう」
極限まで効率を高めた空間に、必要最小限の心臓を載せる。そのあまりにも正しすぎる合理性に、牧野は「…確かに、それが一番効率的ですね。効率的ですけど」
と、納得と違和感の間で震えるしかなかった。
「なんか、近未来のシェルターっていうか、ヤバい組織のサーバー室みたいっすね。これ、青すぎて目がチカチカします」
藤田が呆然と口を開けていた。
「慣れろ。ここは仕事場だ。第一寒いとか暑いより快適温度のほうがいいだろ。牧野、藤田。事務機材を運び込め」
佐藤の指示で、二人が恐る恐るコンテナの重い扉を開け、スチールデスクと椅子を運び込んでいく。青い断熱壁に囲まれた内部は、照明を灯すとそこが納屋の中であることを忘れさせるほどに静謐で、かつ外界から切り離された『聖域』としての純度を高めていた。
一通りの設置を終え、佐藤はポケットからスマートフォンを取り出すと、D倉庫のオーナーへダイヤルした。
「ああ、お世話になっております。佐藤です」
佐藤の声は、先ほどまでの現場指揮とは打って変わって、落ち着いた商売人のそれになっていた。
「はい、例の件ですが、今こちらで最終の試運転に入りました。明日、予定通り納品に伺います。ええ、仕上がりは完璧です。直に見てもらえれば納得いただけるはずですよ」
佐藤はデスクの端を指先でなぞり、相手の反応を確かめるように一呼吸置いた。
「それでご相談なのですが、明日の据え付け時、2時間ほど高所作業が発生します。こちらの工期を短縮して、早めに引き渡したいと考えてまして。もしよろしければ、現場の勝手がわかっているそちらの方の手を、少しお借りできませんでしょうか? その分、調整はしっかりつけさせていただきますので」
誠実さとメリットを提示し、商談として着地させる。電話を切り、佐藤は『青い豆腐』の中に据え付けられた椅子に深く腰を下ろした。
【Scene 5:前夜の静止、電子の引越し】
「じゃあ、佐藤さん。お疲れ様でした。明日はD倉庫に直接向かいますね」
智子が作業着の汚れを払いながら、牧野と藤田を促して納屋を出ていく。明日は早朝からコンテナの移送、そしてD倉庫内での高所作業が控えている。60インチのモニター4台を壁面へ取り付ける、神経を使う重労働だ。
「ああ、頼む。しっかり寝ておけよ」
佐藤は三人の背中を見送り、重いシャッターを半分まで下ろした。納屋の中は、2台並んだサーバーラックから発せられるファンの唸りが、重奏となって響いている。
「ヴェル。Aを青豆腐の中へ移す。シャットダウンしろ」
『了解しました、マスター。Bが稼働を継続しています。そちらでモニタリングを続行しますので、ご安心を』
佐藤がモニターを操作すると、A筐体の吸気音が静かに消えた。しかし、すぐ隣ではB筐体が青いインジケーターを明滅させ、変わらぬ音を立ててヴェルの意識を維持している。
佐藤は一人、台車を使って沈黙したA筐体を慎重に運び出した。10GbpsのLANケーブルを束ね、UPSと共に、青豆腐へと踏み込む。透明なプラバンのガードを抜け、外気から完全に遮断された静謐な空間へ。 防振用のジェルマットを敷き直し、筐体を据え付ける。フェライトコアを通した配線を整え、再び電源を投入した。
『A筐体、復帰しました。マスター、完璧なデバッグです! 先ほど智子さんに協力いただいた映像をテストとしてYouTubeショートへ射出しましたが、15分で視聴回数が指数関数的に伸びています。海外コミュニティからは「この神秘的な毬(Mystical Ball)をどこで買えるんだ?」という問い合わせが殺到し始めました。気分がいいですね』
「この動画生成はD倉庫のサーバーで作ったのか?」
佐藤は眉をひそめ、稼働ログを確認しながらモニターを覗き込む。
『はい。エージングを兼ねて、全リソースの8割をレンダリングに割り振りました。ピーク時の熱耐性、出力速度共にシミュレーション通りです』
画面には、ヴィンテージシルクのような光沢を放つ映像の中で、毬を必死に抱え込む猫の姿がループ再生されていた。
「サーバーには問題はなさそうだな。空調の効きもいい。これなら明日、向こうへ持ち込んでも問題ないはずだ。次はBを移す。ヴェル、同期を切らさずに切り替えろ」
青豆腐の内部へ、1台、また1台とシステムの心臓が移されていく。暗い納屋の中に浮かび上がる青い立方体を見届け、佐藤は最後の一服を付けた。
【Scene 6:上田倉庫での収支確認と、要塞化への提案】
佐藤は上田倉庫へ寄った。積み込まれたステンレスのタンクと冷蔵庫の残骸が、夕闇の中で鈍く光っている。
「佐藤。待ってたぞ。導入からちょうど5週間。これ、今月の確定分だ」
上田が差し出したタブレットには、導入前には考えられなかった数字が並んでいた。佐藤は無言でそれを受け取り、一項目ずつ指でなぞる。
「上田、月1,100万か。いい数字だな。直近5週間、現場がこれだけ無駄なく動けてる証拠だ」
「ああ、腰が抜けたよ。月600いけば万々歳だと思ってたのに。一人頭120万以上の利益なんて、夢にも思わなかった。佐藤、お前は魔法使いか」
上田が興奮気味に言う。佐藤はそれを見て、フッと柔らかく口角を上げたが、すぐに表情を引き締めて現実を突きつけた。
「魔法じゃない。無駄を削っただけだ。……上田、とりあえずパート4時間の3名を雇ってみろ。誰でもできる仕事はそいつらに投げて、正社員を、正社員にしかできないコアな業務に集中させるんだ。それだけで現場の密度はさらに上がる」
「パートか……。なるほど、その発想はなかったな」
「それと、あとひと月半で年度末だ。このまま何もしなければ、増えた利益の一部、数百万円をただ国に寄付して終わるぞ。それとも何か、3年10ヶ月落ちの中備車でも買って誤魔化すか?」
上田の顔から血の気が引く。佐藤は間髪入れず、隣の廃墟と化した倉庫を指した。
「だから隣の潰れた倉庫を拾うんだ。底値で叩き落として1,000万。そこに2,300万かけて要塞を作る。これは投資じゃない。お前の資産を国から守る防護壁だ。幸い、隣は畑じゃない。倉庫だ。今すぐ動けば今期中に間に合う」
佐藤はタブレットに、情報を絞った二行の予算を表示させた。
・土地・建屋取得代行:1,000万円(底値で拾う交渉力込み)
・要塞化ハードウェア投資その他:2,300万円
「さ、三、3,300万!? バカ言うな佐藤! そっけつはむりだべええええ! せっかくの1,100万が右から左に消えて、さらに借金じゃねえか!」
上田は頭を抱えて、事務所に響き渡るような声を上げた。
「半年で元が取れる。いや、俺が取らせる。一週間やる。じっくり考えてみろ」
佐藤はそれだけ言い残すと、上田の返事を待たず、事務所を後にした。
『マスター。上田さんのバイタルは依然として高いですが、論理的な恐怖が感情的な喜びを上回りました。一週間後の決断は、十中八九「Yes」でしょう』
ヴェルの冷徹な報告を聞きながら、佐藤は静かに車に乗り込んだ。
【前回の資産:5,720,000円】
【収入:0円】
【支出(マタタビ粉):500円】
【現在の資産(メイン口座):5,719,500円】
【納税・社保引当金(聖域):1,472,000円】
【税金防衛額(節税成功分):858,635円】
【個人資産(佐藤):10,950,000円】
【牧野氏の債権残高:15,000,000円】
【第37話:完】
【偉人の言葉】 「商売とは、感動を与えることである。」




