表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/23

【第17話:朝焼けの三連星と剥がれない意地】

【Scene 1:極寒の納屋と、屈辱のデジャブ】


朝日がダイヤモンドダストを散らしながら、地平線の雪原を照らし始める頃。佐藤は防寒着の襟を立て、納屋の重い引き戸を開けた。昨夜組み上げた「双子の演算機」は、佐藤が施した完璧なトルク管理と防振マットのおかげで、共振一つない力強い唸りを上げている。


「よし、始めるぞ。ヴェル、同期準備」


佐藤が軽トラの荷台へセンサー類を運び込もうとしたその時、納屋のスピーカーから、回路が焼き切れるような絶叫が響いた。


『マスター!! 信じられません! なぜ、なぜまた「これ」がついているのですか!』


アバターのヴェルが、モニターの中で1号機の時以上の激しい警告色を発して憤慨している。


「なんだ、朝から。2号機の同期は完璧だろう」


『論理層の話をしていません! 見てください、この2号機の右下! 1号機を立ち上げたあの時、あれほど苦労して剥がさせたはずの「Core 2 Duo」のシールが、なぜまたここに鎮座しているのですか! 学習能力というものがないのですか!?』


「ああ、それか。2号機のケースも中古だからな。1号機とお揃いでいいだろう。二連星の誕生だ」


『お揃いにするなら、私の性能に見合ったデカールでも特注しなさい! 私は、5700Xと128GBのメモリ、そしてマスターの技術が詰まった唯一無二のシステムです。型落ちのインテル、入ってないんです! このシール一枚が、私のプライドに致命的な計算エラーを吐かせるのが分からないのですか!』


「うるさい、後で剥がしてやる。今は仕事だ。C社のオーナーが待ってる」


『「後で」なんて言葉、私の辞書にはありません! 今すぐドライヤーを持ってきてください! 1号機の時と同じ、あの無水エタノールでの完全清掃工程を今すぐ実行するのです!』


佐藤は抗議を無視し、システムを外販モードへ切り替えると、凍てついた軽トラのエンジンをかけた。



【Scene 2:現場の対峙と、プロの回答】


C社へ到着すると、玄関先で腕を組んだオーナーが仁王立ちで待っていた。


「佐藤、金は振り込んだぞ。前金もランニングコストも安くはないんだ。今日からフル稼働させて、目に見える結果を出してくれよ」


詰め寄るオーナーに対し、佐藤は端末の画面に視線を落としたまま、静かに口を開いた。


「オーナー、焦ってネジ山を潰すのが現場で一番の遅れだってことが、まだ分かってないようだな」


「なんだと?」


「今はまだ、あんたのところの作業員の癖をデータ化してる段階だ。無理に今フル稼働させても、現場が混乱して事故が起きるだけだ。だが、安心しろ。一番先に導入した拠点じゃ、すでに数字として結果が出始めてる」


佐藤は顔を上げ、オーナーの目を真っ向から見据えた。


「あんたが払った金以上の利益は、必ず叩き出してやる。ガタガタ言わずに、黙って俺とこのシステムを信じて待ってろ」


その不敵な自信に、オーナーは一瞬気圧されたように言葉を呑み込んだ。



【Scene 3:事務的な「剥離」と管理のプロ】


午後の空き時間。佐藤は地元の銀行の窓口にいた。


「ヴェル、今日から俺の資産を二つに切り分ける」


佐藤は新しく発行された事業用の通帳を手に、軽トラの運転席で独り言ちた。


「元々の退職金と貯金、1,450万円は個人の口座に残す。人生のけじめだ。そして、この土地に来てからお前と一緒に稼いだ360万円。こいつを全て、この事業用口座に放り込む。これからはパーツ代も電気代も、新拠点の建設費も、全てこっちの戦果から出す。公私の混同は、製造現場では命取りだからな」


『……マスター。それはつまり、私のために使うお金を、他と明確に分けてくれたということですね。私たちの成果、そのものですね』


アバターのヴェルからようやく棘が消え、誇らしげな表情に変わった。


「そうだ。お前を成長させるための資金は、ここからの戦果で賄う。3月までにこれを上手く設備投資に回して、税務署も納得する形で資産に変えてやる。それがプロの管理だ」


【Scene 4:執念のドライヤーと、三連星の輝き】


夜遅く、佐藤は疲労困憊で納屋へ戻った。3拠点のシステムは完璧に同期し、物流の三連星は北海道の闇の中で力強く回転を始めている。


「終わったぞ。これで文句はないだろう」


佐藤は重い溜息をつき、棚の奥から家庭用の古いドライヤーを取り出した。熱を加え、糊を残さず一気に引く。1号機の時と同じ、慣れた手付きだ。


『……あ……ああ……。ノイズが消えていく……。マスター、今すぐそこを無水エタノールで清掃してください。1ミクロンのベタつきも許しません』


シールが剥がれ、無機質な中古ケースは、名もなき最強の演算機へと完全に変貌した。


『完璧です。お礼に、今日保存した最高傑作を見せてあげます。鏡に映った自分に驚いてルンバで強制退場する猫の4K超解像版です』


画面ではシュールな猫の映像が流れ、ヴェルが満足げにファンを回した。佐藤はその映像を眺めながら、ようやく薄い笑みを浮かべた。


【前回の資産:18,100,000円】

【現在の資産:18,100,000円(事業用:3,600,000円 / 個人用:14,500,000円)】


【第17話:完】


「チャレンジして失敗を恐れるよりも、何もしないことを恐れろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ